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前向き指導
明るい言動で投手陣を引っ張る宮本和知・投手チーフコーチ(57)は、引退後の少年野球チームでの指導経験を参考にしているという。積極的に選手とコミュニケーションを取りながら、試合後は選手への賛辞を惜しまず、結果が良くなくても前向きな言葉で奮起を促している。
自身が入団した1985年当時、そういったタイプの指導者はほぼいなかった。
「今は学校でも長所にフォーカスしていると聞く。もちろんプロは短所を直さないといけないが、僕は5対5の割合。短所も直す、長所も伸ばす。時代に沿った指導をしていかないとね。我々が選手をリスペクトして、『お前の良いところはここだよ』と褒めていく。練習での選手の動きだけでなく、目の輝きだとか表情だとか、そういうので『ああ、ちょっと気持ちが落ちている』とか、『何か良い感じで来ているな』とかを、普段から理解していく。選手の体調をいちはやく察知して、その日の試合に臨むようにしている」
「バランス取れている」投手コーチトリオ
現代の教育を受けて育ってきた選手と、自分が現役だった頃の選手との違いも感じている。
「昔は『俺が、俺が』で、チームメートでも『こいつはライバル』だった。今は投手陣が一つのチームになっているよね。『今日、ごめんな』とか『次は借り返すから』とか。団結心というのかな、そういうのは今の方がある」
現役時代は先発、中継ぎと様々な役割を経験し、13年間で通算66勝62敗4セーブ。自称「何でも屋」だったから、持ち場による準備の仕方、気持ちの整え方も理解できる。
「我々の仕事は居場所を与えて責任を持たせ、彼らが働きやすい環境を作ること。例えばリリーフというのは、急に『行くぞ』と言われて、出来上がった空気の中に後ろからぽーんと突き飛ばされるような孤独感がある。そう感じないように、ベンチの雰囲気も伝えるようにしている」
現在、一軍の投手コーチは桑田真澄(53)、杉内俊哉(40)の両氏を含め3人。チームワークにも手応えがある。
「桑田は今年1年目で、試合中のベンチの忙しさというか、先を読んで動くということが、これから勉強するところだと思うんです。それを教えるのは僕の仕事。性格的には、僕はせっかちで、監督の頭の中を読みながら動く。桑田はマイペースで、ベンチに戻った選手にアドバイスがあれば行く。桑田が行かないときは僕が行ってあげる。若手のトレーニングを見たりしている杉内は、選手と年齢も近くて厳しさを持っている。すごくバランスは取れていると思う」
選手の「幸せ」サポートしたい
今季、特に期待するのが24歳の高橋優貴、26歳の畠世周、27歳の今村信貴だ。
「この3人を何とか一人前にしなきゃいけない。特に今村と畠。中堅になろうかという選手には、今後の野球人生にかかわる境目がある。ダメになってしまうのか、ここから伸びるのか。2人はそういうところに来ていると思う。彼らが成長してくれたらどれだけうれしいか。それを楽しみに生きてますよ」
コーチ業の原動力は「選手の幸せ」だという。柔和な笑みを浮かべながら語った。
「僕は選手に幸せになってもらいたい。もう、それだけ。野球界に来て、活躍すれば収入も多く得られる場所にいるわけだから。そこで僕が何かサポートできればいい。それが僕の幸せになっていく。まあ、だからアイツらと一緒にいるのは楽しいです」
(宮崎薫)
メモリー:往年の胴上げ男
マウンド上で優勝の瞬間を迎える「胴上げ投手」。宮本コーチは1989年のリーグ優勝、同年の日本シリーズ、翌年のリーグ優勝と2年間で3度も経験している。「思い出深いのはやっぱり89年の日本一。3連敗から4連勝だからね」。第3戦で負け投手になり、第7戦では六回から登板して試合を締めた。「選手にも胴上げ投手を味わってもらいたい」と願っている。