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安倍晋三・元首相が長期政権の舞台裏を明かした「安倍晋三 回顧録」(中央公論新社)で、聞き手を務めた読売新聞の橋本五郎特別編集委員に、回顧録の意義や、歴代最長政権となった要因などを聞いた。
――回顧録の出版にあたり意識したことは。
安倍氏の首相退任後、できるだけ早く世に出すことを考えた。中曽根康弘・元首相の本格的な回顧録「天地有情」(文芸春秋)が退任後10年近くたってから出版されたように、日本では相当の時間を置いて回顧録を残すことが多い。退任から時がたてば記憶が薄れて実績は美化され、真実から
今回の回顧録は、あくまで安倍氏が自らの目線で振り返ったものだ。別の人には異なる景色が見えていたはずで、当然、反論も出る。多くの関係者が健在なうちに回顧録を「さらす」ことで、その内容を多角的に検証し、重層的に真実に迫る必要があると考えた。
――当初は昨年1月に発売予定だった回顧録が、安倍氏の要請で延期されたのはなぜか。
安倍氏が「待った」をかけたのは、回顧録に実名で登場する外国首脳や国会議員らへの影響を考慮したのだろう。本人は言わなかったが、2021年11月に自民党安倍派会長に就任し、政治活動を本格的に再開させていたことも影響したのではないか。インタビューに本音で答えていたことの証左とも言える。
――歴代最長政権となった要因をどう考えるか。
インタビューを通じて、安倍氏がいかに戦略的に考えて政権運営を行っていたかがわかった。内政では、安全保障関連法などのタカ派的な政策と、全世代型社会保障などのハト派的な政策を織り交ぜることで、内閣支持率をコントロールした。対中外交では、2国間だけでなくインドや豪州を巻き込んだグローバルな視点でとらえていた。
安倍氏に厳しいことを直言できる忠誠心あふれた側近グループがいたことも大きい。
――安倍氏に注文をつける点は。
国会審議中に野党にヤジを飛ばすような態度は避けるべきだった。安倍氏は回顧録で「ファイティングポーズを見せなければならない」と説明しているが、対立が激化しても泰然と構え、野党を包容するくらいの余裕もほしかった。「森友・加計学園」問題は、批判的な意見や報道への過剰反応で複雑化した面がある。
――安倍政権をどう総括するか。
これほど多くの国論を二分する課題に挑戦した政権はない。国民投票法の制定や防衛庁の省昇格などを実現した第1次内閣の実績も再評価されていい。それが特定秘密保護法や、集団的自衛権の憲法解釈変更、安保関連法など第2次内閣以降の成果に生きてくるからだ。安倍氏には、逆風の中でも自らの信念を断固として貫き通す覚悟があった。そのための周到な準備も怠らなかった。政治を志す人、政界で重きをなそうとする人は、回顧録から「政治家はどうあるべきか」を学んでほしい。(おわり。この連載は、小坂一悟、山崎崇史が担当しました)