いとうあさこ、アラフォーで来た「DNAの叫び」を語る
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19歳で家出をしてアルバイト生活に入り、バイト先で出会った男性と恋に落ちたいとうあさこさん。結婚観や体のこと、将来のことを語ってもらいました。
––––ずいぶん、男性に貢いだと言われていますが,本当に?
そうですね。でも「貢いだ」とは思ってないんですよ。私は「防衛費」だと考えていたんです。借金の取り立てに怖い人が家に来るから、2人の生活を守るためにお金を払う。お金はあるほうが払えばいい。貢いだというよりも、私の意思で払っていたんです。彼から「お金くれよ」「何かを買ってくれ」と言われたことは一度もありません。もしも、そう言われていたら、すぐに見捨てていたかもしれないですね。
––––その後、彼とはどうなったんですか?
最終的には……微妙でしたね。5、6年は一緒に暮らしていたんですけれども、ある時に彼が「あさこに苦労かけて悪いから働くよ」みたいなことを言い出したんです。私は別にどちらでもいいと考えていたのですが、こっちが稼いでいると、男の人って、何もしていないとちょっと自分を卑下するようになることがあるでしょう?一方で、自分の中では賭けをしました。もしも、今度も簡単に仕事をやめちゃうようなら、私との関係も終わったほうがいいのかなって思って。そうしたら、案の定、2日ぐらいでやめてきたんです。その前にも、私のことを「お母さんにしか思えない」みたいに言い出していた。それで、自分の中の区切りがついたというか、「もう離れようか」みたいな話になりました。
––––それでも5、6年も一緒に暮らしたわけですから、相当に好きだったのですね?
男性と付き合ったのが初めてだったということはありますね。バイト先で会ったのですが、向こうが「よろしくお願いします」とあいさつしてきた時、何か不思議な経験なんですけど、後ろからすごい光が差していて、逆光で顔がよく見えていないのに、「あっ、たぶん、この人が初めての人になるな」と予感が走ったんです。それで、知れば知るほど、この人おもしろいなって。初恋ほどきれいなイメージじゃなくて、初恋愛という方が正しい言い方かもしれないです。それだけに、別れ方もよくわからなかった。でも、その時、自分の中で区切りをつけました。もう26歳ぐらいになっていましたけどね。
恋愛相手の第一条件は「働いている人」
––––その経験から、ご自分の恋愛観などに影響はありましたか?
私は、自分がいわゆる「いい女」ではないのはわかっているので、恋愛相手にいくつも条件を挙げることはありません。20歳代の頃の条件は、「話していて楽しいこと」、そして「飲み食いの好みが合う」ことでしたので、当時の彼は両方とも満たしていた。つまり「働く」ことは条件外だったのです。でも今は、40歳代半ばも過ぎて。好きになる相手はほぼ同世代。その相手から「俺、ニートなんだ」と言われたら嫌なので、今の第1条件は「働いている人」(笑)。
––––何かに一生懸命な人ってステキですよね。でも、条件はそれだけ?
いや、コラムに書いたことがあるんですが、そう言いながら、相手に求める条件を書き出してみたら、ごまんと出てきたんですよ(笑)。「お箸の持ち方が汚いのは嫌だ」とかね。そんな細かい条件を挙げていくと、もう好きな人は全然できなくなりました(笑)。
アラフォーで来た「DNAの最後の叫び」
––––好きな人ができないなんて、今後はどうするんですか?
実は、43歳前後にちょっと焦っていたんです。すごく子どもが欲しかったんですよ。知り合いの産婦人科の先生にそんな話をしたら、「あさこさん、それはDNAの最後の叫びです」と言われてしまいまして……。43歳前後の1年は、「子どもが欲しい」「子どもが欲しい」……だから「結婚したい!」って強く思っていましたね。それがおさまってからは、まるで仙人のように静かになりました(笑)。
––––結婚願望はなかったのですか? 誰かと付き合って一緒に住んでいれば、「結婚しちゃおう」となる人も多いと思います。世間の目とか、親のためとかいう理由もあるし。
その強烈に「子どもが欲しい!」と思っていた頃に気づいたんですけど、「そういえば私、今まで結婚願望が湧いたこと、1回もなかったな」って。一緒に暮らした人と「結婚するんだろうな」と思ったことはあったんですよ。私、これまでに付き合った人、ほぼ全員の親御さんに会っているし。
––––お相手のご家族にまで会っているんですね。ということは、お相手はその気だったのでは?
それはわからないです。「いつか結婚するんだろうな」と思ったことはあったけれど、「『結婚したい』『子どもが欲しい』と思ったことはなかったなぁ」ということに、42、3歳で気づきました。30歳頃から10年ぐらい一緒に暮らしていた人とは、すごく仲も良かったんです。相手の親戚のおじさんとメール交換とかもしていたぐらい(笑)。それでも、何かタイミングのズレで別れてしまって。
人生ってタイミング、アラフォーで売れ始めた
––––あまり形式にこだわらない性格なんでしょうか。こうでなくちゃいけないとか、これが正しいみたいなものに執着がない。
そうかもしれませんね。ただ不思議なもので、その彼と別れた途端、仕事が来るようになったんです。12年間も売れずに水面下にいて、39~40歳で急に仕事をいただくようになった。それって、一般の皆さんの二十歳ぐらいに当たるわけですよね。「仕事が来たぜ!」「働くぜ!」っていう時期が、私の場合、女性の最後のタイミング、子供を産むという意味で最後のタイミングだったんですよね……。
––––新体操の格好をして、「浅倉南、39歳。最近、なんだかイライラする」ってフレーズで人気が出た頃ですね。
そうです、そうです。あの頃が当時の彼とのお別れの直後です(笑)。何かが吹っ切れたのか、40歳に近いという重みがそうさせたのか、やっていることは変わらなかったんですけど、急にいろいろなお仕事をいただくようになりました。天海祐希さん主演の「Around 40 ~注文の多いオンナたち~」(TBS系)というドラマが人気で、「アラフォー」という言葉が流行りだした頃でした。神様が「さあ、今、出なさい」とお膳立てしてくれたように感じましたね。
––––人生って、タイミングなのかもしれませんね。
結婚した人に「何で結婚したの?」と尋ねると、誰もが「タイミング」って言葉を使うじゃないですか。以前は「そんなの意味わからないよ」と思っていましたが、年を取ってきて、今では「いろんなことって、本当にタイミングなんだな」と実感するようになりました。
30代は「スプラッシュマウンテン」、40代は「イッツ・ア・スモールワールド」
––––最後に、ご自身の経験も踏まえて、各世代の女性の生き方について、メッセージをお願いします。
昔は、「オンナは30歳まで」みたいに言われていましたよね。1990年代には「29歳のクリスマス」(フジテレビ系)というドラマもあったぐらい、ある意味、引導を渡されるみたいな感じがありました。でも、今は全然違いますよね。
30歳代は、すばらしい時期だと思います。若さと体力に加えて、経験値もある。だから女としても、仕事面でも、積極的に楽しんでいただきたいですね。
40代歳からは、「のんびり、ゆっくり、豊かな時間を過ごそうよ」って思います。結婚しようがしまいがどっちでもいいし、夢なんかなくたって大丈夫。私はここ1~2年、海馬が死んだのかなというぐらい記憶が残らなくなってきたんです。これって周りには迷惑ですけど、自分はすごく楽なんですよ。ストレスが残らない。その分、いいことも残らないんですけれど(笑)。
ディズニーランドのアトラクションに例えたら、30歳代は「スプラッシュマウンテン」ぐらいの勢いで毎日を送り、40歳代は「イッツ・ア・スモールワールド」みたいな感じでゆっくり楽しく暮らせばいいんじゃないかなと。
(聞き手:本田麻由美、写真:秋山哲也)
前編「いとうあさこ、19歳の家出から始まった人生のタイミング」