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栃木県那須烏山市の養豚場で2022年夏に発生し、約5万6000頭の豚が殺処分された「CSF(豚熱=
書類送検されたのは、畜産会社「神明畜産」(東京都)と当時の養豚場管理者の男(47)。発表によると、同社と男は22年6月中旬頃、複数の豚が突然死んだにもかかわらず、県に届け出をしなかった疑い。同法は所有者らがCSFの疑いのある状況を把握した際、知事に速やかに届け出るよう定めている。
男は「豚の死んだ数の増加から豚熱かもしれないと思った。発症すれば全頭処分になり、会社が倒産する可能性があった」などと容疑を認めているという。県警は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。
この問題は、県が22年7月、養豚場で豚が多数死んでいるとの匿名通報を基に立ち入り検査をして発覚。国内最多の約5万6000頭が殺処分され、同社は同年9月に民事再生法適用を申請した。同社側は当時、「熱中症ではないか」と説明したが、県は23年4月、同社などを同容疑で刑事告発した。
農林水産省によると、届け出義務違反による業者の摘発は、過去に鳥インフルエンザで2件あるが、CSFでは全国初となる。
早期発見・通報がカギ…業者の摘発「抑止力に」
CSFは人には感染しないが、豚の致死率は高く、畜産業への影響が大きい。18年9月、国内で26年ぶりに岐阜県で発生した後、短期間で愛知、三重、埼玉、山梨県などに急拡大し、野生イノシシも含めると今月10日現在、36都府県で確認された。養豚場での感染は20都県で計89件発生し、約36・8万頭が殺処分されている。
農水省は19年3月、感染源となる恐れのある野生イノシシ向けに、山中へのワクチン散布を開始。同年10月には豚へのワクチン接種も始まった。農家に対してはCSFの特徴的な症状を周知し、早期発見・通報の徹底を呼びかけるなど警戒を強めてきた。
また、業者の届け出義務も強化してきた。岐阜県での発生を受けて19年、農水省が各都道府県に通知を出し、家畜伝染病予防法に基づく届け出義務について、「一定期間に複数の豚が突然死亡すること」などの状況を追加。CSFと明確に分からない段階でも早期に報告するよう促した。
同省動物衛生課は「CSFが発生すれば多くの豚が死に、畜産業界に大きな打撃を与える。業界を守るためにも、被害を最小限にとどめようと、予防や蔓延防止の取り組みを徹底している」とする。
県も21年4月、那須塩原市の養豚場で県内初のCSFが確認されると、防疫体制をチェックするため、県内全ての農場に立ち入り検査を実施。発生例を各農場と共有するなどし、警戒を強化していた。福田知事は今回の摘発を受け、「二度とこのようなことが起こらないよう、畜産農家に異状発見時の早期通報の徹底を指導していく」などとコメントした。
CSFに詳しい北海道大学の迫田義博教授は「ウイルスが発生農場外に広がると封じ込めが難しくなり、周囲の農場にも影響が出かねないため、迅速な届け出が重要だ」と指摘。届け出を怠った業者の摘発について「(法令違反の)抑止力になる。これを教訓に生産者は感染防止の義務をしっかり守ってほしい」と評価する。
発生農場の豚は全頭処分となり、経営への影響は大きいが、一方で殺処分された家畜の評価額を全額交付する救済制度もある。迫田教授は「届け出は勇気のいることだが、感染の発見が遅れるような行動は慎むべきだ。死亡率が急上昇するなどの異常があれば感染症と考えられるので、迅速に家畜保健衛生所に相談してほしい」と呼びかけた。