何度カツアゲされても「映画は歌舞伎町じゃないとダメなんだ!」…笠井信輔さんの「映画愛」

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 フジテレビアナウンサーを経て、現在はフリーアナウンサーとして活躍する笠井信輔さん(60)。近年は映画評の執筆や、がんの闘病経験に関する講演など活動の幅を広げている。人前で話すことに喜びや楽しさを感じる性分は、子どもの頃からずっと変わらないという。そんな笠井さんにどんな中高生時代を送ったのかを聞いた。前編・後編の2回に分けて紹介する。(読売中高生新聞編集室)

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フリーアナウンサーの笠井信輔さん=三浦邦彦撮影
フリーアナウンサーの笠井信輔さん=三浦邦彦撮影

コワモテ同級生に「調子に乗るな」、目立ちたがりな子ども

 「とにかくおしゃべりで目立ちたがり屋な子どもでした。先生が授業中に、『誰か教科書を音読してくれる人いますか?』と言えば、すぐに『はい!』と手を挙げるタイプ。人前に立つことも大好きで、小学3年生のときに『五郎太の森』という芝居を学芸会でやることになったのですが、主役の五郎太役に立候補しました。その芝居が町田市の大会で評価されて、東京都の大会でもやることになったんです。

修学旅行の演芸会で司会を務める(右から4人目、小6の頃)
修学旅行の演芸会で司会を務める(右から4人目、小6の頃)

 今と違って、当時の僕は明石家さんまさんのようなかすれ声でした。おそらく小さいころからしゃべりすぎていたせいだと思います(笑)。本番の舞台を母が見に来てくれたのですが、近くにいたお客さんが僕の声を聞いて、『お稽古しすぎて声がかれてしまったのね。かわいそうに』とささやいていたと後で教えてくれました」

  自治体が子どもたちを集めて行う地域活動にも積極的に参加していたという笠井さん。小学4年生にして、早くもイベントの司会を任される。

 「お祭りの野外ステージで司会をやりました。自分が何かをしゃべったときに、みんなが笑ったり、盛り上がったりするのを見るのがすごくうれしくて。もちろん、ステージに立つこと自体も楽しくてたまらない。この時にマイクを持ってしゃべることにとりつかれてしまったのかもしれません。以来、マイクを握る機会を自分から積極的に探すようになりました。例えば、小学校の児童会長って、朝礼のときにマイクの前でしゃべるんですね。『これだ!』って立候補してみたり、放送委員会に入ったりもしましたね」

  中学時代には友人に誘われ、英語劇サークルに所属。英語やスペイン語の劇を上演していたという。

 「舞台発表のときには、決まって『司会はシンちゃんがやって』と言われて、司会兼俳優です。中学でも放送委員会に入り、生徒会活動も立候補してやっていましたので、大忙しでした。

英語劇の発表で司会を務める(中2の頃)
英語劇の発表で司会を務める(中2の頃)

 学校であまりにも目立ちすぎるもんだから、中学2年生の時にはちょっとコワモテの同級生たちから『調子に乗ってんじゃねーよ』『静かにしろよ』とか言われることもありました。イジめられていると感じて実際、ちょっと静かになった時期もあったんですけど、おとなしくしているのはやっぱり性に合わなくて。『やりたいことをやるしかない』と開き直って、中学3年生の時には生徒会長になりました。『笠井はそういうやつ』と認めてもらえたのか、その後は何か言われることもなくなりましたね」

  小・中学校時代の記憶として強く残っているのが、小学2年生から中学2年生まで歯を矯正していたこと。

 「元々、歯並びが悪くて、八重歯もありました。僕の世代で小学生から歯を矯正している子は珍しかったし、家が特に裕福だったわけでもないのですが、母には『この子はいずれ人前に出る人間になる』という予感があったのだと思います。後から聞いた話では、劇作家だった祖父がお金を出してくれたそうです。

 今の矯正器具って、そんなに目立たないと思うんですけど、昔の器具は針金みたいな感じで、結構大がかりなものでした。給食の時には外さないといけないんですが、周りはみんな珍しがって『見せろよ』とか言ってくるんです。そこで『これはギャグとして使える』と思って、『入れ歯だよ~』ってみんなに見せたら、これが大ウケ。モノボケの走りですね(笑)」

何度カツアゲされても「映画は歌舞伎町じゃないとダメ!」

  笠井さんが、“人生のエネルギー”というほど愛してやまないのが映画。年間130本は見るというが、その魅力にハマったのは中高生時代だった。

中学高校時代に映画の感想を書き記したノート。表紙には「ぴあ」の文字
中学高校時代に映画の感想を書き記したノート。表紙には「ぴあ」の文字

 「小学生のときに祖父と映画館で『日本沈没』を見て、映画に目覚めてしまいました。小松左京さんの小説を基にしたパニック映画で、文字通り日本列島が沈んでいくわけですけど、恐ろしくて恐ろしくて……。『あぁ、現実じゃなくてよかった。でも、こんなに人をびっくりさせる映画ってすごい』って思ったんです。次の衝撃は『未知との遭遇』と『スター・ウォーズ』。中学生のときに、このSF大作を新宿・歌舞伎町の映画館の大画面で見て、迫力にうちのめされました。自分自身が宇宙空間にいるかのような不思議な感覚でした。普段は学校と家を往復するような単調な毎日を送っているわけですが、映画館に一歩足を踏み入れるだけで、いろんな世界を体験できることを知ってしまったのです。

 それから、もう地元の映画館の小さな画面では満足できなくなって、歌舞伎町に通い始めます。ところが、童顔だったから、不良高校生に何度もカツアゲされるわけです。そしたら母が『もう歌舞伎町に行ってはいけない』と。でも、僕は『映画は歌舞伎町じゃないとダメなんだ!』と言い合いになった。そのときに母は『だったら、毎回、感想文を書いて提出しなさい』と妙な条件を出してきました。カツアゲとは何にも関係ないですよね。母は文章を書かせる口実がほしかっただけなんです。僕としては『やった、また歌舞伎町に行ける!』と喜んで条件をのみました」

  笠井さんの祖父は劇作家で、母も文章や詩を書くことが好きだった。笠井さんにもその才能を受け継いでほしいと考えていたようだ。

 「母は劇作家だった祖父の影響を受けていて、息子にも文章がうまい人になってもらいたいと考えていたみたいです。で、感想文を書き始めたら自分でも面白くなっちゃったんですね。中学、高校を通して自分の中では大きな活動の一つとなりました。まんまと母の策にはまったわけです(笑)。まずはストーリーラインを書いてから感想を書く。『大好きな映画の良さを伝えたい』という思いが念頭にありますから力も入るし、文章の書き方にもこだわる。今思うと、『伝える』というアナウンサーにとって大切な技能を磨くことにもつながったと思います。カツアゲ? 背が伸びたら自然となくなりました(笑)」

大ファンだった「ぴあ」

  感想文を書きためたノートの表紙には「ぴあ」の文字。これは笠井さんがエンタメ情報誌「ぴあ」の大ファンだったことに由来する。

映画感想ノート「ぴあ」の中身
映画感想ノート「ぴあ」の中身

 「当時はネットがないので映画のスケジュールを把握するのは意外と大変だったんです。でも、ぴあを見れば、それが一目瞭然。映画観賞の予定を立てるのに欠かせない存在になりました。あと、ぴあといえば、国内外のスターの似顔絵をイラストレーターの及川正通さんが独特なタッチで描いた表紙も大好きで。毎号そのポスターが本屋さんに貼り出されるのですが、いつも貼り替えるときにお願いして、もらって帰っていたほどでした」

  中高生時代に、ひょんなことから書き始めた映画の感想文は今、映画評論という仕事につながっている。

 「フジテレビに入ってから、ファン向けの会報のアナウンサーページで、映画評の連載を始めました。もちろん、自分から手を挙げて(笑)。ぴあが2011年に休刊することになり、情報番組でポスターコレクションを披露して『ぴあ愛』を語ったら、そこから少しずつ出版社の方々とつながりができて。18年に、ぴあの映画情報アプリがサービスを始めるときに、なんと『映画評の連載やりませんか?』と声をかけていただきました。皆さんも、好きなものは好きだと大きな声で言っていると、いいことあるかもしれませんよ(笑)」

 (聞き手・小間井藍子)

  プロフィル

  かさい・しんすけ  1963年4月12日生まれ。東京都世田谷区出身。町田市立薬師中学校、東京都立狛江高校を経て、83年に早稲田大学商学部に入学。87年にフジテレビに入社し、フジテレビアナウンサーとして活躍。2018年にエンタメ情報サイト「ぴあ」で映画評を書き始める。19年にフジテレビを退社し、フリーとなる。同年、悪性リンパ腫にかかったことを公表し、活動を休止する。20年に病気が寛解し、活動を再開する。著書「がんがつなぐ足し算の縁」(税込み1540円)が好評発売中。

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