「常に冷静でいよう」広島土砂災害で殉職した上司の教え胸に…35歳消防士「人命守る」

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 災害関連死を含め77人が犠牲になった2014年8月の広島土砂災害は20日、発生から9年となる。広島市消防局の消防士、 村長むらおさ 優樹さん(35)は、3歳男児の救助活動中に土石流に巻き込まれて殉職した政岡則義さん(当時53歳)から、新人時代に指導を受けた。厳しくも温かく、今も尊敬する上司。「教えを継ぎ、多くの人の命を守る」と誓う。(小松大騎)

政岡さんは「理想の消防士」

 村長さんは11年に消防隊員になり、安佐北消防署の部隊に配属。政岡さんが副隊長だった。

「政岡さんの教えを語り継ぎたい」と話す村長さん(広島市中区で)=吉野拓也撮影
「政岡さんの教えを語り継ぎたい」と話す村長さん(広島市中区で)=吉野拓也撮影

 枯れ草が燃える火災現場に出動した時、「やけどしそう」と消火に及び腰になり、「火を恐れるな」と政岡さんに一喝された。鎮火後、「怖がる消防士はみんなを不安にさせる。何事にも恐れず、常に冷静でいよう」と優しく諭された。阪神大震災など様々な災害現場にも赴いた経験豊かなベテランの言葉は胸に響いた。

 仕事には厳しかったが、飲み会では冗談や失敗談を語り、同僚を和ませた。村長さんにとって「理想の消防士」だった。

 3年後の14年8月20日未明、安佐北区や安佐南区で土砂災害が発生。政岡さんは現場に入った。男児を父親から預かり、避難を始めた直後、土石流が2人を襲った。約5時間後、政岡さんは男児を抱きかかえた状態で発見された。2人とも死亡が確認された。

 村長さんは別の現場で生き埋めになった女性の救助に当たっていた。素手やスコップで土砂をかき出したが、時間がかかり、女性を救えなかった。追い打ちをかけるように政岡さんの殉職を聞かされた。

 しばらくの間、無力感にさいなまれた。そんな時、勇敢に現場を駆け回るかつての上司の姿を思い浮かべた。「政岡さんの分まで職務に励む」と心を奮い立たせた。

 18年7月、西日本豪雨が起きた。甚大な被害が出た安芸区を管轄する消防署で、現場部隊に気象情報を伝える担当を務めた。隊員同士がやり取りするトランシーバーが足りず、連絡が取りにくくなり、混乱した。

 新人時代に言われた「常に冷静で」という政岡さんの言葉が頭に浮かんだ。落ち着いて別の方法を考え、普段は使わない隊員の私用の携帯電話の利用を上司に提案。受け入れられ、情報共有がスムーズになった。

 現在は火災の出火原因を調べる部署に所属。部下を指揮し、政岡さんの教えも伝えている。「将来は、災害現場で救助に当たる担当に戻りたい」と希望している。

 命日の20日は佐伯区の自宅で黙とうをささげ、心の中で語りかけるつもりだ。「政岡さんのように頼れる消防士になり、市民を守る。見守っていてください」

 ◆ 広島土砂災害 =2014年8月20日未明、積乱雲が帯状に連なる線状降水帯が発生。局地的な集中豪雨によって広島市安佐北区と安佐南区で土石流や土砂崩れが相次ぎ、逃げ遅れた住民らが巻き込まれた。建物被害は全壊179棟、半壊217棟を含む計4749棟に及んだ。

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4462329 0 社会 2023/08/20 05:00:00 2023/08/20 17:39:33 2023/08/20 17:39:33 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/08/20230820-OYT1I50053-T.jpg?type=thumbnail

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