沖縄懐かしむ家庭の味 「ほっとする」杉並の商店街

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

那覇市出身の東江さん(左)に料理を提供する伊佐さん(4月12日、杉並区で)
那覇市出身の東江さん(左)に料理を提供する伊佐さん(4月12日、杉並区で)
「沖縄タウン」入り口に立つ街路灯。首里城の柱を模しているという
「沖縄タウン」入り口に立つ街路灯。首里城の柱を模しているという
三線を奏でる宮城さん。店内には沖縄県産の素材で作られた三線が並ぶ
三線を奏でる宮城さん。店内には沖縄県産の素材で作られた三線が並ぶ

 京王線・代田橋駅にほど近い杉並区の一角に、沖縄をテーマにした商店街がある。約50軒が加盟する「和泉明店街」、通称「沖縄タウン」だ。入り口には首里城の柱を模した赤い街路灯がそびえ、そこここに南国の雰囲気が漂う。

 「故郷の味が恋しくなると、ここに足を運ぶのよね」。沖縄料理店「沖縄ダイニング 島のれん」のテーブル席では、那覇市出身で世田谷区の会社員 東江あがりえ 佐登子さん(63)がオリオンビールのジョッキを傾けていた。「常連さんのその言葉が励みです」。店主の伊佐健司さん(46)は笑顔を見せる。

 宜野湾市出身で、県内の専門学校を卒業後にアルバイト先の地元居酒屋に就職した。このまま沖縄で暮らすのだと思っていたが、25歳の時に転機が訪れた。勤務先が東京出店に伴い、スタッフを募集していた。「電車の乗り方も分からずに終わりたくない」。迷わず立候補し、2002年頃に上京した。

 東京での生活は波乱続きだった。5年ほどで沖縄本店の経営が悪化し、東京店は売却。別のレストランに移ったものの、雰囲気になじめず退職した。

 失意のどん底で、無性に故郷の味が恋しくなった。だが、東京の沖縄料理は記憶とどこか違っていた。「子供の頃に食べていた料理を再現したい」。沖縄料理店を転々としながら修業を重ねた。配送業でためた開業資金を元手に、18年に沖縄タウンに店を開いた。

 「ゴーヤチャンプルー」や「にんじんしりしり」など家庭の味を売りにする。「沖縄に戻れない時、『懐かしいな』『こんな味だったな』と思ってくれたら」と今日も 厨房ちゅうぼう に立つ。

 「杉並区と沖縄の縁は古いんですよ」。同商店街の元会長・片桐勇さん(82)はこう話す。片桐さんによると、区内には「沖縄学の父」と言われた民俗学者・ 伊波普猷いはふゆう (1876~1947年)をはじめ、同県出身者が多く住んでいたという。

 その歴史を生かし、商店街では2005年から沖縄をテーマにした街づくりを進めてきた。構想したのは、当時、区議を務めていた 渡嘉敷とかしき 奈緒美さん(61)だ。

 渡嘉敷さんは商店街の活性化に取り組み、全国で100か所近い商店街を回った。その中で思いついたのが、祖父母の故郷で、自身のルーツでもある「沖縄」という切り口だった。「異文化を持ち込むことで活性化を促すとともに、商店街全体に共通のテーマを持たせようと考えた」と振り返る。

 提案を受けた片桐さんらの意見は割れた。「失敗したらどうするのか」と反対する声もあったが、議論を重ね、「沖縄タウン」として売り出すことを決めた。

 オープンにあたり、商店主らで資金を出し合い、対外的な窓口として「株式会社沖縄タウン」を設立。空き店舗を確保し、那覇市から料理店や石垣島のかまぼこ店など5店を誘致した。「物産展のような一過性のものではなく、半永久的に取り組める事業にしたかった」と片桐さんは話す。

 地域文化に詳しい法政大の増淵敏之教授(文化地理学)は「沖縄タウンのように、都道府県をテーマにした街づくりは全国的にも珍しい」と指摘。「沖縄文化には独自の異国情緒があり、様々な文化が流入する東京でも埋没しない強さがある」と評価する。

 オープンから約20年。沖縄から来た5店舗のうち、現在も営業を続けるのは、 三線さんしん 専門店「とぅるるんてん」だけとなった。店主の宮城富士男さん(84)は名護市出身。溶接業者だったが、浦添市で三線工房を営んでいた同級生から出店を持ちかけられ、「地元に雰囲気が似ている」という理由で出店を決めた。

 当初は多くの客が押し寄せたが、2~3年もすると客足は遠のいた。代わりに目立つようになったのが沖縄出身者の姿だ。「なんだか懐かしくなっちゃって」「ここに来るとつい方言が出ちゃう」――。そんな声を聞く度にうれしくなる。

 40歳を過ぎてから始めた三線は師範の腕前。教室も開き、15人ほどの「弟子」に稽古をつける毎日だ。「これからも沖縄人がほっとできる場所であり続けたい」。そう思っている。

東京23区の最新ニュースと話題
スクラップは会員限定です

使い方
「地域」の最新記事一覧
記事に関する報告
5328403 0 なまりなつかし 2024/05/06 05:00:00 2024/05/06 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2024/05/20240505-OYTAI50017-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)