[震災と歌い手たち](2)「兄弟」いつも仙台で 小山田壮平 さん

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震災への思いを語る小山田壮平さん(2月3日、福岡市で)
震災への思いを語る小山田壮平さん(2月3日、福岡市で)

 音楽は自分の存在証明だった。聴いてくれる人の何かになりたいとの気持ちを持つようになったのは、震災があってからだと思う。

 3月11日は山梨県の河口湖でアルバム「革命」のレコーディング合宿中だった。震度5の揺れで停電し、その日の作業は中止。当時かけらのようなものが出来ていた「兄弟」を完成させ、売り上げを寄付するチャリティーソングとして4月に配信した。いつの間にかすれ違い距離の出来てしまった仲間のことを歌っている。

 震災の6年前、24歳だった姉を交通事故で亡くした。初めて買ったCDがB’zなのも、19歳のインド旅行も姉の影響。大切な人を突然失う痛みは、わかる。大好きな姉ちゃんだったから。

 震災後のがれきの山で子どもの名前を叫ぶ映像をツイッターで見て、涙が出た。家もない状況であの時間を過ごす被災地の人のことを考えると、胸が痛かった。

 東京に戻り「シンガー」という曲を作った。

 〈あの頃みたいに笑っておくれよ/あの頃みたいに泣いておくれよ/モノクロの世界の中でフルカラーの君を/僕は見つけたよ 君はシンガーだ〉

 絶望の中にいる人に音楽は無力だ。寄り添いたいという気持ちがあっても、問題を抱えたその人になることはできない。

 でも必ず時間はたつ。音楽の喜びに再会する瞬間が来る。冬の太陽や夏の雲の美しさにふっと気がつけるまで。まずは僕が歌うから。その時が来たら君も歌って、走り出して輝いておくれよと。強い無力感の中で、そう願った。

 ◇

 震災から半年後、メールアドレスをブログで公開し、歌いに行ける場所をリスナーから募った。仙台市の老人ホーム、東松島市の保育園、石巻市のCD店に南三陸町の旅館にカフェ。岩手の避難所、福島の小学校も行った。喜んでくれるおばあちゃんたちの姿にホッとしたのを覚えている。

 原発への怒りを地元の人になだめられた。心を削られながら力強く生きようとする人々の姿に感動した。そういう体験の一つ一つが心に刺さった。

 もろい営みの中で互いの人生が影響し合い、つながり合って生きていると感じた。それから、ライブをする時には、その土地で生きる人の生活や家族に思いをはせるようになった。

 ◇

 昨年9月、長男が生まれた。本当にかわいい。子どもの誕生で姉を亡くした両親の気持ちが自分の中に入ってくるという恐ろしさもあった。

 生きることは時に所在ないけど、全て無駄じゃなかったと思える瞬間がある。泣いてばかりの息子が湯船で恍惚の表情を見せてくれた。素晴らしいことに出会った時、歩みを止めなかった自分がいることも考える。

 生きてさえいれば、あなたの存在は誰かの喜びになる。

 東松島市の保育園で歌ってから、仙台のライブに欠かさず来てくれる保育士の3人がいる。会って話すと、ギリギリの状態で共に過ごしたあの時間を思い出す。

 何もなくなった砂埃の街。夕方の時報で響いたドヴォルザーク「新世界より」。色とりどりの優しさ。自分の中に強く残っているから、10年近くたって出したソロアルバムでも震災のことを歌っている。

 「兄弟」の義援金の明細が今でも届く。一生の仲間になった彼女たち3人が特別に思うこの曲を、いつも仙台で歌う。

 自分には仲の良い弟もいて、その時は漢字で「兄弟」がかっこよかった。最近になって曲名はひらがなが良かったかなと考える。会えなくなった姉のことも想って。(聞き手・長谷川三四郎)

南三陸町の高台のカフェでandymoriのメンバーと弾き語りする小山田さん(左)(2012年9月頃)
南三陸町の高台のカフェでandymoriのメンバーと弾き語りする小山田さん(左)(2012年9月頃)

 〈おやまだ・そうへい 福岡県出身。38歳。2007年、ロックバンド「andymori」を結成し、ボーカル・ギターとして5枚のアルバムを制作。14年の日本武道館公演をもって解散した。20年に初のソロアルバムを発表。バンド「AL」でも活動する〉

 ◇

 シンガー・ソングライターは、紡ぎ奏でる歌に自身の経験が色濃く映る。東日本大震災は彼らの価値観にどう影響し、行動を変容させたのか。災後の東北と関わりの深い3人の歌い手に、曲に込めた思いと震災からの12年を聞いた。

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3885613 0 震災と歌い手たち 2023/03/08 09:00:00 2023/03/10 15:06:13 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/03/20230308-OYTAI50000-T.jpg?type=thumbnail

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