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全国の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが猛威をふるっている。今季は16日までに、19道県で37事例が発生して計625万羽が殺処分の対象となり、過去最多だった2シーズン前の計987万羽を上回るペースだ。鹿児島県出水市では今季、ツルの大量死が起きており、多数の死骸からウイルスが検出された。渡り鳥が飛来する時期のピークを迎え、全国の約3割の鶏を飼育する「養鶏王国・九州」は厳戒態勢となっている。(小川晶弘、今泉遼)
16日夕、今季、全国最多の9事例が発生した出水市内の道路沿い。養鶏業者のトラックが、被害の拡大を防ぐための「消毒ポイント」に立ち寄ると、防護服姿の自治体職員らがノズルを使いタイヤなどに消毒液を散布していた。鹿児島県では11月18日から出水、阿久根両市の7か所に消毒ポイントを設置。県職員らが8時間交代で24時間待機する。
同県の鶏の飼育数は、ブロイラーが2809万羽で全国1位、採卵鶏は1194万羽で同3位を誇る。県北部の出水市は国内最大のツルの越冬地であるとともに、計84戸の養鶏農家が鶏約400万羽を飼っている。
同県内ではこれまで昨季の3事例が最多だったが、今季は11月18日以降、頻発。9事例とも出水市内の採卵鶏で、県は自衛隊にも出動を要請して計約120万羽が殺処分された。出水市の養鶏農家が加盟する農協の担当者は「危機的な状況だ。鶏や卵の移動、搬出制限に伴う経済的打撃のほか、『(商品を)入れないでくれ』と言われるなど風評被害もある」と嘆く。
また、今月17日には同県南九州市の養鶏場で感染が疑われる鶏が見つかった。遺伝子検査で陽性と確認されれば、10事例目となる。
計約9400万羽を飼育する九州では、宮崎県新富町と佐賀県武雄市の養鶏場でも各1事例発生。福岡市の国営海の中道海浜公園でもコブハクチョウ1羽からウイルスが検出された。
ツルが大量死
今季の異変を象徴するのがツルの大量死だ。出水市内では毎年1万羽以上が冬を越す。昨季回収された死骸は115羽だったが、今季はすでに10倍を超える1200羽以上が回収された。全数調査が追いつかず、抽出検査で約150羽からウイルスが検出された。
鹿児島大の小沢真准教授(ウイルス学)は「ツルの口など体外に近い所から多量のウイルスが検出されている。体外に
そのうえで、「死んだ野鳥は野生動物にとって貴重な栄養源。野生動物が養鶏場に侵入してウイルスを持ち込む可能性があるので、死骸を早めに回収することが養鶏場での発生リスク軽減につながる」と指摘する。
対策強化
環境省などは2013年度から、集団感染による大量死を防ぐため、越冬するツルを分散させようと、出水市でまく餌の量を減らしてきた。分散候補地の山口県周南市や佐賀県伊万里市などでは、ねぐらを整備するなどの取り組みを進めてきた。
しかし、環境省の担当者は「成果が出ていないのが実情。今季の鳥インフルエンザの流行で、分散化の重要性を改めて強く感じる。実現する方法をより真剣に模索したい」と話す。
農林水産省は今月7日、緊急の防疫対策本部を開催。野村農相は人の移動が活発化する年末年始を控えていることを強調し、「全国どこでも発生する可能性がある。常にあらゆる場所が汚染されているという危機意識を持って」と生産者に対策の徹底を呼びかけた。
「ウイルスという見えない敵との闘いに農家は緊張を強いられたままだが、防疫体制を強化しこれ以上の発生は防がなければならない」。出水市の農協の担当者はこう話している。