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「ザル経済」脱却に向け地銀連携…ホテル買収、離島の村に行員出向、地元で資金循環へ

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 沖縄の地方銀行が、地元で資金を循環させる取り組みを強化している。県外企業にお金が流れる「ザル経済」といった本土復帰後の課題の改善や、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた地域経済の底上げにつなげることが狙いだ。(川口尚樹)

脅かされるスーパー、ドラッグストアやディスカウント台頭…調剤備えた新業態で対抗・配送では協調も
琉球キャピタルのファンドが買収した「ロイヤルビューホテル美ら海」。客室からは海を眺められる(6日、沖縄県本部町で)=久保敏郎撮影
琉球キャピタルのファンドが買収した「ロイヤルビューホテル美ら海」。客室からは海を眺められる(6日、沖縄県本部町で)=久保敏郎撮影

 沖縄本島北部・本部町を進むと、青い海とビーチを望める「ロイヤルビューホテル ちゅ ら海」が目に入る。1975年に本土復帰の記念事業として開かれた「沖縄国際海洋博覧会」にあわせて建てられ、近くには観光客に人気の「沖縄美ら海水族館」もある。

 このホテルを昨年秋に取得したのは、琉球銀行が主導する投資会社「琉球キャピタル」だ。東京の企業が別のホテル名で運営していたが、コロナ禍で苦境に陥ったため、琉球キャピタルと沖縄県内の企業が出資するファンドで買収。ホテル運営の実績を持つ地場の前田産業ホテルズ(名護市)に運営を委託し、ホテル名も変更して再出発した。琉球銀の融資とあわせて投じた額は計40億円に上る。

 沖縄では、県内の事業で発生した利益などが県外資本の企業に流れ、地元にお金やノウハウが残らない「ザル経済」が課題となっている。ファンドは、資金を投じて再生した事業の売却先を地場から選ぶのが特徴で、沖縄でお金を回す狙いがある。元同行常務で琉球キャピタル社長の池端透さんは「ザル経済の打破が最終的な目標だ」と強調する。

米統治下で発足

 沖縄の金融業界は、総資産で県内トップの琉球銀をはじめ、同行とほぼ肩を並べる沖縄銀行、資産規模がやや小さい沖縄海邦銀行の3行が中心となって支えている。

 3行の創業や設立は米統治下の48~56年で、とりわけ異色なのは琉球銀だ。

 米国軍政府が51%を出資し、日本銀行のように通貨発行などの権限を持っていた。56年の那覇市長選では、基地反対運動をしていた候補者の当選後、市の預金を凍結したという。琉球銀の社史によると、当時のトップは「私に実権はなかった」と、米側の意向だったことを示唆している。本土復帰前には、沖縄に支店があったバンクオブアメリカが琉球銀の株式取得に動く一幕もあったとされる。

 沖縄銀は71年、中央相互、南陽相互と計3行で対等合併することに合意したが、合併比率などの協議が難航。中央相互銀が離脱し、同行が後に沖縄海邦銀と改称した。

シェア7割

 一方、本土復帰後の金融業界では、県外からの進出が相次いだ小売業や観光業などと対照的に、県境を越える動きは乏しかった。「経済規模が小さいうえ、地場地銀と取引先の関係が強固だった」(九州の地銀幹部)ことなどが理由で、2015年に那覇市に支店を設けた鹿児島銀行が、県外の地銀による戦後初の進出事例となった。メガバンクは、みずほ銀行の1支店だけだ。

 政府系金融機関の沖縄振興開発金融公庫によると、沖縄の貸出金シェア(占有率)は、琉球、沖縄、沖縄海邦の3行を中心とする銀行で約7割に上り、残りを同公庫や信用金庫などが分ける。3行平均の貸出金利も、全国より高い水準が続いている。沖縄では、融資期間が長く高金利になりやすい不動産事業に取引が偏る傾向があるためという。

「覚悟示す」

 3行の存在感が高まる中で大きな変化をもたらす契機となったのが、コロナ禍だ。長くライバル関係にある琉球銀と沖縄銀は昨年1月、包括業務提携を結ぶと発表した。

 営業での競争は維持しつつ、現金輸送業務や書類の共通化などを通じて事務コストを削減。生じた余力で、コロナ禍の地域経済を底上げする狙いだ。記者会見には両行のトップが並び、琉球銀の川上康頭取は「県民に対して我々がしっかりやっていくという覚悟を示す」と強調した。

 地域に対する具体的な支援は両行でそれぞれ進めており、沖縄銀は今年4月、地銀の支店も現金自動預け払い機(ATM)もない離島の座間味村に行員2人を出向させる取り組みを始めた。事務作業の効率化などを進めるだけでなく、役場全体のデジタル化支援も視野に入れる。

 会計課長として赴任した宇地原由人さん(46)は「今まで行員がいなかった地域に入り込むことで、把握できていなかった課題も見えてくるはずだ」と話し、宮里哲村長は「銀行とは公金の取り扱い以外であまり接点はなかったが、一緒に地域振興のモデルをつくりたい」と期待する。

 沖縄の金融市場に詳しい沖縄国際大の島袋伊津子教授は「戦後の金融が機能しない時代から地場地銀が果たしてきた役割は評価できる。ただ、復帰から50年を経ても融資先の産業が限られるのは不変の課題だ。企業の新しい挑戦を支えるための資金供給やコンサルティングなど、より地元目線で高度なサービスが求められる」と指摘している。

独自の軍用地ローン

 米軍基地が集中する沖縄では、本土の金融機関では聞き慣れない「軍用地ローン」という独特の融資がある。

 軍用地はもともと多くの個人が所有していた土地で、現在は国が所有者に毎年借地料を払って借り受け、米側に提供する仕組みが導入されている。他の土地と同様に不動産として売買されるのも特徴だ。

 県内3地銀の軍用地ローンでは、法人や個人向けに最大5億円の融資枠を設定している。利用者は、米軍基地などとして使われている所有地を担保に差し出す必要がある。

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