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沖縄の製造業、ハンデ乗り越え成長へ

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 沖縄県内の製造業で、本土から遠いなどのハンデを乗り越えて成長を目指す動きが進んでいる。県経済をリードしてきた観光業が新型コロナウイルス禍で大きな打撃を受けたことから産業構造全体の多様化が課題となっており、本土復帰から50年の節目に飛躍の足がかりをつかめるかが注目される。(松田晋吾)

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自社で機械修理、アジアに食品輸出

 1月上旬、沖縄県沖縄市にある拓南製鉄の本社工場で、製造されたばかりの鉄筋が次々と並べられていた。「沖縄唯一の製鉄企業」として従業員約200人を抱える同社は、本土との距離という障壁に対し、独自のアイデアで解決に取り組んでいる。

 同社は、戦後に残骸となった戦艦などの鉄スクラップを使った鉄筋メーカーとして1956年に設立。鉄筋は主に県内で建設されるマンション用などとして出荷しているが、工場内の機械が故障した場合、本土から修理に来てもらうのに時間がかかる。設備の停止は出荷先にも影響が及ぶだけに、頭を悩ませていた。

沖縄で鉄筋の製造を手がけている拓南製鉄(5日、沖縄県沖縄市で)
沖縄で鉄筋の製造を手がけている拓南製鉄(5日、沖縄県沖縄市で)

 課題を乗り越えるために取った戦略が、自社での修理対応だった。修理に必要なノウハウを長年かけて習熟し、現在では大半の不具合に対応できるという。古波津昇会長は「今後も沖縄で製品を生み出していく」と力を込める。

 一方、本土から離れている距離を、視点を変えることでメリットに変えた企業もある。沖縄県うるま市の経済特区「国際物流拠点産業集積地域」に本社を置くアンリッシュ食品工業は、奈良県で冷凍食品などを製造していた企業が2015年、冷凍すしの輸出強化を見据えて設立した新会社で、工場も移転した。本土への発送費はかかるが、アジアには早く届けられるという。

国際物流網に課題

 米統治下だった沖縄は72年、本土に復帰した。ただ、高度経済成長期に「ものづくり」が発展した本土と比べ、製造業は十分に育たなかった。沖縄県などによると、72年に1176社だった製造業の事業所数(従業員4人以上)は、約50年後の19年でも1113社だった。途中の増減はあったが、結果的にほぼ変わっていない。19年の製造品出荷額は食料品を中心に4859億円と全国最低で、自動車産業が盛んなトップの愛知県と比べ100分の1の水準だ。

 沖縄はリゾート人気の高まりに伴って観光業が長く経済を先導してきたが、コロナ禍による暗転で産業の多様化が課題となった。雇用や所得の改善に向けた一つの柱として裾野が広い製造業の強化が急がれており、沖縄県は、成長するアジア諸国との関係拡大をカギと位置づけている。

 ただ、製造業の製品輸出では、国際物流網の整備といった新たな課題も見えてきた。

 半導体製造装置メーカーのナノシステムソリューションズ(うるま市)は、製品を約1500キロ以上離れた成田空港まで海路と陸路で運び、中国や台湾に輸出している。

 沖縄から台湾までは約600キロだが、同社の基準を満たす精密機器の 梱包こんぽう 事業者がいないため那覇空港から輸出できず、遠回りを余儀なくされているという。稲住仁社長は「沖縄はアジアへの近さや潜在力の高さを生かしきれていない」と話す。

 感染拡大が長引く新型コロナも懸念材料だ。日本銀行那覇支店によると、沖縄県内の製造業の景況感を示す「業況判断指数」は、21年12月の調査でマイナス20だった。同年9月の前回調査から8ポイント改善したが、同支店は「観光客向けの食料品製造企業や土産物メーカーなどが再び感染拡大の影響を受けるだろう」と先行きに警戒感を示す。

 りゅうぎん総合研究所(那覇市)の武田智夫常務は「アジアに近いという利点だけで沖縄に製造業を呼び込んだり増やしたりするのは難しい。コロナ後を見据え、物流などの周辺産業を含めて官民で連携を進め、全体を底上げするための具体的な道筋を示す必要がある」と指摘している。

国と県が支援

 政府と沖縄県は本土復帰後、10年ごとに計5次にわたって振興計画をまとめ、「本土との格差是正」や「民間主導の自立型経済の構築」を目指してきた。

 沖縄県は2022年度に始まる第6次計画案で、製造業など第2次産業の収益力強化に向け、規模拡大などに必要な産業用地を確保したり、産学官による共同研究を促進して県内での調達率向上を目指したりすることを示した。さらに、アジアを見据えた計画として、多様な食の好みに対応する食品開発の支援などで産業振興を加速させるとした。

 政府は昨年12月、22年度の沖縄振興予算案を2684億円と決定しており、新規事業として、ものづくり企業の設備投資に対する支援などを盛り込んでいる。

 本土復帰から半世紀にわたる沖縄経済の変遷を振り返るとともに、成長に向けた新たな動きなどを随時紹介します。

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2710675 0 ニュース 2022/01/28 11:16:00 2023/04/27 15:18:03 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220128-OYTAI50000-T.jpg?type=thumbnail

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