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京都の会社引き継ぎ 7月復活
兵庫区 震災時 被災者に風呂開放
昨年12月から休業中で、廃業寸前だった開業74年の銭湯「湊河湯」(神戸市兵庫区)が7月に復活オープンする。1995年の阪神大震災では被災者に風呂を開放するなど地域に根ざした銭湯だったが、今年1月に先代の経営者が急死。存続も危ぶまれた中、若者らでつくる銭湯専門の事業承継会社が運営を引き継ぐこととなった。(酒本裕士)
湊河湯は49年、3代目の現オーナー元木英雄さん(49)の祖父が開業。湊川公園や東山商店街に近く、長年、地域住民の心と体を温めてきた。69年には元木さんの父・淳さんが後を継ぎ、83年に改装して現在の姿になったという。
阪神大震災では兵庫区内も被害は大きく、水道やガスが止まった地域もあった。だが、湊河湯の建物や湯をわかす釜は無事で、水も出た。震災から2週間後、営業を再開し、被災者らに無料チケットを配った。
震災当時、大学生だった元木さんは、卒業後に会社勤めなどを経て植木屋として独立。家業を継ぐかどうか、父と話をしないまま、年月が過ぎていった。両親も年を取り、5年ほど前から定休日は週2日になり、営業時間も短くなった。
状況が急変したのは、昨年9月。80歳を超えた淳さんが脳
父が倒れた頃から、元木さんは湊河湯の行く末を考えてきた。そんな時、若い世代が集まり、「銭湯を日本から消さない」を合言葉に事業承継に取り組む「ゆとなみ社」(京都市)の存在を知った。SNSなどを使って若者を取り込み、銭湯文化をつないでいくという理念に共鳴し、運営を任せることを決めた。
湊河湯は現在、玄関を入ってすぐにあった番台を撤去し、受付とロビーを新設するなど改装が進む。一方で、古き良き光景は残す。浴場や脱衣場は変更せず、季節の湯やジェット風呂、露天風呂やスチームサウナなどはそのままに営業を再開する予定だ。
元木さんの中には、黙々と浴場をブラシで掃除する父の姿が残り続けている。「ご近所さんに『いつ再開するの』と聞かれて心苦しかったが、残せて良かった。父も喜ぶと思う」と話す。
ゆとなみ社社員で店長になる予定の松田悠さん(32)は、湊河湯の常連だった。「地域に愛されることはもちろん、今までに来たことがない人にも銭湯の良さを伝えていきたい」。震災を知る銭湯が、新たな歴史を刻み始める。
県内銭湯 976→87軒
県公衆浴場業生活衛生同業組合によると、県内の銭湯は最盛期の1965年に976軒あった。その後、生活様式の変化に加え、設備の老朽化や後継者不足で閉業が相次ぎ、2003年にはピーク時の4分の1に減少。20年には100軒を割り込んだ。今年6月時点では、神戸市内31軒、尼崎市27軒、姫路市5軒、洲本市3軒など、県全体で87軒にとどまるという。
入浴料金は物価統制令の対象で、各都道府県が決定。ロシアのウクライナ侵略による燃料価格高騰もあり、現在の県内の上限額は大人490円となっている。
組合の浜野章理事長は「燃料費の高騰はダメージが大きい。どの銭湯も家族経営で、代替わりの際に閉業に追い込まれる。経営者の高齢化も深刻で、入浴者を増やす方法を考えないといけない」と話している。