完了しました
カウンターテナー歌手の米良美一さん(49)の高音は「天使の歌声」とも呼ばれ、アニメ映画「もののけ姫」の主題歌で広く知られた。生来の難病や様々な葛藤を抱えながら、20年以上活動。「自らを受け入れ、周囲に感謝をしながら表現したい」との思いでこれからも歌い続ける。
◇
1メートル40ほどと小柄だが、伸びやかな歌声のスケールは大きい。Jポップ、オペラ曲、民謡――。国もジャンルも超えた様々な歌が自然と口元からあふれ、聴く者を圧倒する。
「話すよりも、歌の方が自分の気持ちを正直に表現できるんです」と笑う。
生まれた時から難病の「先天性骨形成不全症」を抱えている。極度に骨折しやすく、小柄なのもこの影響とされる。
幼い頃から不便な生活を強いられ、病状の悪化に苦しみ、差別も経験した。そういう人生を支えたのが歌。子どもの頃から得意で、地域の行事で演歌や民謡を披露しては、喝采を浴びた。
“神様”と出会ったのは宮崎県立宮崎赤江養護学校(当時)小学部6年生の時。入院していた病室で、当時、人気絶頂の松田聖子さんのカセットテープを担当の准看護師から渡された。病室で流れる「渚のバルコニー」や「小麦色のマーメイド」が、あっという間に南の島やヨーロッパへ連れて行ってくれた。
「それまで親しんだ演歌などとは全く違う世界。改めて、歌の力に魅了された」
作曲家を目指して進学した関東の音大で、「自分の個性が生かせる」とカウンターテナー歌手の道を歩み始めた。1997年には「もののけ姫」の主題歌担当に抜てきされ、「米良美一」の名前を広く知らしめた。
一方で、急に華やかなステージに上がり、「障害のことや、つらい過去を隠したい」と思い悩むように。心身のバランスを崩したこともあるが、その時も歌が支えてくれた。母親への感謝の気持ちを歌った歌手・美輪明宏さんの「ヨイトマケの唄」。自身を見つめ、周囲への感謝の気持ちを持つことを思い出させてくれた。「人生の第2幕が上がった時だった」と振り返る。
2014年には「くも膜下出血」で倒れた。新型コロナウイルスの感染拡大下でもあり、医療従事者や支えてくれる周囲の人への感謝の気持ちは強まっている。「聴いてくれる人に夢を提供するのが歌手。ステージに立ち、歌い続けたい」
(今回は計8回掲載の予定です)
<プロフィル>1971年、宮崎県西都市生まれ。洗足学園音楽大学を卒業後まもなくプロの道に。世界で活躍する一方、地元の魅力をPRする「さいとふるさと特命大使」も務めた。コンサートの前には「すぐにエネルギーになる」とバナナを食べるのがルーチン。