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三井住友銀行常務執行役員 新山英樹氏５４
三井住友銀行は愛知、岐阜、静岡県で計１７店舗を展開しています。ただ、このエリアでは旧東海銀行の流れをくむ三菱ＵＦＪ銀行が圧倒的な支店網を持っています。リテール（個人客向け）事業で対抗するには、デジタルと対面をミックスしたサービスの提供が重要だと考えています。
３月に個人向けの金融取引を一体化した「オリーブ」を開始したことで、デジタルサービスが充実し利便性が大幅に高まりました。銀行口座を持つ人は、アプリ上で口座の手続きだけでなく、国際ブランド「Ｖｉｓａ」のクレジットカード、デビットカードなどを簡単に切り替えて利用できます。取引に応じて、ＳＭＢＣグループの共通ポイント「Ｖポイント」もたまります。他行と完全に差別化できるキラーコンテンツ（魅力的な素材）だと思います。
店舗のない三重県在住の女性が、オリーブを利用するためにスマホ上で口座を開設してくれました。「近くに三井住友銀行がないけども、これなら使えるわね」と言っていただけました。
対面に関しても新たな取り組みを始めました。ショッピングモールなどに展開する店舗形態「ストア」の東海地区での１号店として、イオンモール熱田店（名古屋市熱田区）を５月に出店しました。
ストアはオリーブの使い方や資産運用など、顧客の困りごとを気軽に相談できる拠点です。従来の銀行店舗には足を運びにくかったファミリー層を中心に利用してもらうことを想定しています。
顧客のニーズはどんどん変化しています。デジタルと対面を組み合わせ、様々なサービスを試行していく必要があります。
＜東海企業の景況感は＞
製造業は回復が鮮明です。これまでは半導体不足やサプライチェーン（供給網）の分断で生産したくても生産できない歯がゆい状態でしたが、春先くらいから完全に復調しています。
目立つのはインド事業への投資意欲の高さです。市場全体のパイが広がっており、多くの東海企業が投資を拡大しています。行内に１５人規模のプロジェクトチームをつくり、重点的に対応しています。
懸念されるのは中国事業の先行きです。自動車業界では地元メーカーの電気自動車（ＥＶ）が市場を席巻しており、影響が徐々に日本メーカーに及ぶ可能性があるでしょう。
一方、非製造業は回復基調にあるものの、人手不足に苦しんでいる企業が多いと感じています。ホテルでは、本当は満室が見込めるのに、スタッフがそろわないので８０％程度しか部屋を提供できないというケースもあるようです。
デジタル技術で業務を効率化する「ＤＸ（デジタルトランスフォーメーション）」の活用などで、人手不足感の軽減につなげることはできます。業務の効率化を支援していきたいと考えています。
＜スタートアップ（新興企業）への取り組みは＞
東海地区はものづくりの大企業が多く、名古屋大学といった有力な学術機関もあります。もっと新興企業が誕生し、成長する余地はあると思います。
この地区で足りない機能は何か。分析した結果、事業の計画・準備段階にあたる「シード（種）期」での資金の出し手が十分ではないと判断しました。
前任では東京・渋谷の新興企業を担当していました。そこでは、成功した起業家が上場で得た金を後輩の起業家に投資するといった循環がありました。名古屋はこうした環境がまだ整っていないのです。
昨年、ＭＴＧベンチャーズによる「セントラルジャパンシードファンド」への出資を始めました。地域課題の解決を目指すシード期の新興企業に投資・支援を行うファンドです。この活動を通じ、東海地区をはじめ、日本全体の経済成長を実現していきたいと考えています。（聞き手 山内竜介、写真も）
にいやま・ひでき １９６８年生まれ。９１年、上智大経済学部卒、太陽神戸三井銀行（現三井住友銀行）入行。名古屋営業部長、東日本第五法人営業本部長などを経て、２０２２年４月から常務執行役員として東海エリア担当のトップ（常駐）を務める。鹿児島県出身。
三井住友銀行 ２００１年、三井銀行の流れをくむ旧さくら銀行と旧住友銀行が合併して発足した。親会社の三井住友フィナンシャルグループは、信託銀行、証券、カード、調査研究機関なども傘下に持つ。東海地区では愛知県に１４、岐阜県に１、静岡県に２店舗を展開する。トヨタ自動車の主力取引行として知られる。
