群馬の魅力、七五調に…郷土愛はぐくむ「上毛かるた」

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 敗戦から2年後、群馬県で紙の娯楽が誕生した。土地の偉人や名所を詠んだ「上毛かるた」だ。荒廃した社会で子供たちが希望を持ち、故郷に誇りを感じてほしいとの願いが込められた。それから76年。今も群馬の老若男女に親しまれ、今秋には大人の全国大会が4年ぶりに開かれる。(紙WAZA編集長 木田滋夫)

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誕生76年、累計150万組

群馬県民に長年、親しまれている上毛かるた。偉人や名所が素朴なタッチで描かれている
群馬県民に長年、親しまれている上毛かるた。偉人や名所が素朴なタッチで描かれている

 「(い)伊香保温泉 日本の名湯」「(こ)心の 燈台とうだい  内村鑑三」――。リズミカルな句と素朴な絵。上毛かるたは、読み札と絵札各44枚からなる。上毛とは 上野国こうずけのくに (今の群馬県)の別名だ。「1947年以来、累計で150万組以上作られた、日本一生産数が多い郷土かるたです」。群馬大非常勤講師で、NPO法人日本郷土かるた協会副理事長の原口美貴子さん(53)は言う。

 上毛かるたは、群馬で引き揚げ者の支援にあたっていた浦野 匡彦まさひこ (後の二松学舎大学長)が、キリスト教伝道者の須田 清基せいき の提案で作った。須田は台湾で布教に従事した際、台湾の名所を詠んだかるたを作った経験があったという。

昭和28年(1953年)製の上毛かるた
昭和28年(1953年)製の上毛かるた
現代の上毛かるた
現代の上毛かるた

 県民から題材を募り、有識者らによる選考を経て、初版1万2000組を発行した。「独断ではなく、民主的な手続きを経た点に戦後の空気を感じます。女性が描かれた絵札が含まれているのも同じ理由かもしれません」

素朴な紙に先人の思い

埼玉県の「さいたま郷土かるた」(右)と上毛かるた。上毛かるたは札が小さく、句は七五調だ
埼玉県の「さいたま郷土かるた」(右)と上毛かるた。上毛かるたは札が小さく、句は七五調だ

 札の寸法は、当初からタテ7センチ、ヨコ5センチほど。東京の専門店「奥野かるた店」によると、一般的なかるたはタテ8センチ、ヨコ6センチほどなので、上毛かるたは小ぶりだ。その理由は定かではないが、物資の乏しい時代に作られた初版は、苦心して方々から紙をかき集めたとの証言もある。

 かるたの中には、札の両面に和紙が貼られた高級品もあるが、上毛かるたは昔からボール紙の表面に句や絵の紙を貼っただけの簡素な構造で、裏面はボール紙のまま。その分、安価(762円・税別)で手軽だ。

 各地の郷土かるたの句は五・七・五が目立つが、上毛かるたは七五調だ。ひと息で読むことができ、子供も覚えやすい。その短い句には、先人の思いが詰まっているという。

「時代を超えて、人と人をつなぐのがかるたの魅力」と語る原口さん
「時代を超えて、人と人をつなぐのがかるたの魅力」と語る原口さん

 例えば「(つ)つる舞う形の 群馬県」は、県の形を鶴に例えた句だが、原口さんは語る。「かるたが作られた頃は、国外に抑留されたままの群馬出身者もいました。その人たちが鶴が舞うように帰郷してほしいという祈りや、子供たちが未来へ羽ばたくようにという願いを込めた、との文献があります」

 子供たちは地域の子供会で上毛かるたに親しみ、やがて地区予選や県大会を目指す。この地では、そんな文化が継承されてきた。

大人も熱中…全国大会4年ぶり 団体戦に独特ルール

JR前橋駅前の歩道に描かれた札。上毛かるたは、様々な形で県民に親しまれている
JR前橋駅前の歩道に描かれた札。上毛かるたは、様々な形で県民に親しまれている

 「都道府県の魅力度調査で、群馬が最下位になったことがありました。出身者として見過ごせず、役に立ちたいと思ったんです」。そう話すのは、横浜市の会社代表、渡辺俊さん(46)だ。渡辺さんは、上毛かるた日本一を決める大人の大会「KING OF JMK」を主催する団体の代表理事を務める。

 2013年に始まった大会には、群馬出身者らが各地から集う。19年を最後にコロナ禍で中断したが、今年10月に4年ぶりに開く。24チームを募集したところ、2週間ほどで定数に達し、いったん締め切った。

 18年大会で優勝した「チーム美龍」も参加を予定する。3人のメンバーの一人で前橋市の医師、江沢一真さん(31)は、中学時代に県大会で優勝した強豪だ。

白熱する「KING OF JMK」の対戦風景=提供写真
白熱する「KING OF JMK」の対戦風景=提供写真

 上毛かるたの団体戦は、特定の札を集めると得点が加算される独特のルールがある。勝つためにはメンバーの強みやクセを踏まえた戦略が必要で、高度な駆け引きもある。でも、人々をひきつける理由はもっとシンプルで、多分、76年前からずっと同じだ。江沢さんは言う。「やはり、1枚取ったときのうれしさに尽きます。これだけは子供時代から変わりません」

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