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広島市の平和記念公園には毎年、1000万羽の折り鶴がささげられている。重さにして10トン。それは平和を願う思いの大きさでもある。各地から持ち寄られた折り鶴たちの旅には、まだ続きがある。大半が再生紙となり、ノートや一筆箋に姿を変えて、広島から世界に羽ばたいている。(紙WAZA編集長 木田滋夫)
年度替わりで譲渡、名刺や卒業証書に
公園内にある「原爆の子の像」の周囲には、色とりどりの千羽鶴がつり下げられている。多数の折り鶴で「平和」と描いた作品もある。
広島市平和推進課によると、ささげられた折り鶴は、年度が替わると、希望する市民団体や業者に譲渡しており、多くが「折り鶴再生紙」の原料となっている。
折り鶴再生紙は、千羽鶴からヒモやビーズを取り除いた後、パルプに混ぜて再び紙にしたものだ。見た目は純白ではなく、桃色や緑色の紙片が紙吹雪のように散っている。それらが千羽鶴の名残だ。再生紙は、広島では名刺や卒業証書などに活用されている。
ノート表紙にハト、一筆箋には原爆ドーム
広島市中区の会社「ソアラサービス」は、折り鶴再生紙で雑貨を作っている。ノート、一筆箋、カレンダーなど5製品で、「Re:ORIZURU(リ・オリヅル)」というブランド名で販売している。社長の
同社は、広島の企業やクリエイターと協力して、アクセサリーや食器など約40アイテムからなる「EARTH Hiroshima(アースヒロシマ)」という雑貨ブランドを展開している。「広島の製造業は、2008年のリーマン・ショックで大打撃を受けました。そこで、下請けでモノを作るだけでなく、観光客の手にとってもらえるような、魅力的な独自の製品を作ろうと声をかけたんです」
こうして誕生した製品のうち、素材に折り鶴再生紙を使ったシリーズが「リ・オリヅル」だ。ノート(税込み814円)の表紙には平和を象徴するハトが、一筆箋(同352円、8枚入り)には原爆ドームや折り鶴が描かれている。主に広島市内の土産物店で販売され、国内外から訪れる観光客が買っていく。
失われた命は戻らず…被爆2世の思い
牛来さんは被爆2世でもある。それを初めて意識したのは、1994年に広島でアジア競技大会が開かれ、市民スタッフとしてミニ放送局を手伝ったときだという。「取材のため、8月6日の平和記念式典に初めて行きました。会場には線香の煙が立ちこめ、喪服姿の遺族たちがいて、厳かな空気でした。取材後に繁華街に出ると、いつも通り買い物を楽しむ人でにぎわっていました。会場内と外の境目が見えて気づいたんです。『被爆2世の私は、この境目に立っているんだ』って」
やがて起業した牛来さんは、どうすれば境目をなくし、双方をつなげられるかを考えてきた。誰もが自然に「平和」の尊さを感じられる何かができないか……。リ・オリヅルは、その答えの一つだ。
広島に原爆が投下されて78年。世界は戦禍が絶えず、ロシアによるウクライナ侵略は1年が過ぎた。ロシア指導部は核使用さえ口にする。「核の惨禍は、もう起きてほしくない。街は復興できても、失われた命は戻ってこないんです」。牛来さんたちは、これからもリ・オリヅルを作り続ける。小さな雑貨から、平和の輪が広がることを願って。
ソアラサービス(082・532・5662)。「リ・オリヅル」のブランドページは こちら 。