平和の折り鶴 再び羽ばたく…再生紙、ノートや一筆箋に

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 広島市の平和記念公園には毎年、1000万羽の折り鶴がささげられている。重さにして10トン。それは平和を願う思いの大きさでもある。各地から持ち寄られた折り鶴たちの旅には、まだ続きがある。大半が再生紙となり、ノートや一筆箋に姿を変えて、広島から世界に羽ばたいている。(紙WAZA編集長 木田滋夫)

シュレッダー紙から培養土…「菌」で分解、有効活用

年度替わりで譲渡、名刺や卒業証書に

広島市の平和記念公園にささげられた千羽鶴
広島市の平和記念公園にささげられた千羽鶴

 公園内にある「原爆の子の像」の周囲には、色とりどりの千羽鶴がつり下げられている。多数の折り鶴で「平和」と描いた作品もある。

 広島市平和推進課によると、ささげられた折り鶴は、年度が替わると、希望する市民団体や業者に譲渡しており、多くが「折り鶴再生紙」の原料となっている。

 折り鶴再生紙は、千羽鶴からヒモやビーズを取り除いた後、パルプに混ぜて再び紙にしたものだ。見た目は純白ではなく、桃色や緑色の紙片が紙吹雪のように散っている。それらが千羽鶴の名残だ。再生紙は、広島では名刺や卒業証書などに活用されている。

ノート表紙にハト、一筆箋には原爆ドーム

色とりどりの紙片が美しい折り鶴再生紙
色とりどりの紙片が美しい折り鶴再生紙

 広島市中区の会社「ソアラサービス」は、折り鶴再生紙で雑貨を作っている。ノート、一筆箋、カレンダーなど5製品で、「Re:ORIZURU(リ・オリヅル)」というブランド名で販売している。社長の 牛来(ごらい) 千鶴さん(59)は「折り鶴再生紙は広島ではたびたび目にしますが、ほかではあまり知られていないようです。リ・オリヅルには、リサイクル(再生利用する)、リメンバー(思い出す)、リスペクト(尊重する)などの意味を込めました」と語る。

 同社は、広島の企業やクリエイターと協力して、アクセサリーや食器など約40アイテムからなる「EARTH Hiroshima(アースヒロシマ)」という雑貨ブランドを展開している。「広島の製造業は、2008年のリーマン・ショックで大打撃を受けました。そこで、下請けでモノを作るだけでなく、観光客の手にとってもらえるような、魅力的な独自の製品を作ろうと声をかけたんです」

「Re:ORIZURU(リ・オリヅル)」のシリーズ。ノート(左)、アロマディフューザー(上)、一筆箋(中央)、カードケース(下)、万年カレンダー(右)
「Re:ORIZURU(リ・オリヅル)」のシリーズ。ノート(左)、アロマディフューザー(上)、一筆箋(中央)、カードケース(下)、万年カレンダー(右)

 こうして誕生した製品のうち、素材に折り鶴再生紙を使ったシリーズが「リ・オリヅル」だ。ノート(税込み814円)の表紙には平和を象徴するハトが、一筆箋(同352円、8枚入り)には原爆ドームや折り鶴が描かれている。主に広島市内の土産物店で販売され、国内外から訪れる観光客が買っていく。

失われた命は戻らず…被爆2世の思い

平和記念公園に飾られた折り鶴
平和記念公園に飾られた折り鶴

 牛来さんは被爆2世でもある。それを初めて意識したのは、1994年に広島でアジア競技大会が開かれ、市民スタッフとしてミニ放送局を手伝ったときだという。「取材のため、8月6日の平和記念式典に初めて行きました。会場には線香の煙が立ちこめ、喪服姿の遺族たちがいて、厳かな空気でした。取材後に繁華街に出ると、いつも通り買い物を楽しむ人でにぎわっていました。会場内と外の境目が見えて気づいたんです。『被爆2世の私は、この境目に立っているんだ』って」

「リ・オリヅルに、平和を願う気持ちを込めました」と語る「ソアラサービス」社長の牛来さん
「リ・オリヅルに、平和を願う気持ちを込めました」と語る「ソアラサービス」社長の牛来さん

 やがて起業した牛来さんは、どうすれば境目をなくし、双方をつなげられるかを考えてきた。誰もが自然に「平和」の尊さを感じられる何かができないか……。リ・オリヅルは、その答えの一つだ。

 広島に原爆が投下されて78年。世界は戦禍が絶えず、ロシアによるウクライナ侵略は1年が過ぎた。ロシア指導部は核使用さえ口にする。「核の惨禍は、もう起きてほしくない。街は復興できても、失われた命は戻ってこないんです」。牛来さんたちは、これからもリ・オリヅルを作り続ける。小さな雑貨から、平和の輪が広がることを願って。

 ソアラサービス(082・532・5662)。「リ・オリヅル」のブランドページは こちら

紙WAZAの記事一覧
スクラップは会員限定です

使い方
「ライフ」の最新記事一覧
記事に関する報告
3908436 0 ライフ 2023/03/18 09:00:00 2023/03/18 09:00:00 2023/03/18 09:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/03/20230314-OYT8I50065-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)