【特集】目標指針「5リスペクト」を生かして真の国際人へ…関西学院千里国際

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 関西学院千里国際中等部・高等部(大阪府箕面市)は、一般的な校則の代わりに「5リスペクト」という教育指針を掲げている。併設されている大阪インターナショナルスクール(ОIS)と2校一体の教育を実現するために掲げられたグローバルな達成目標だ。「自分」「他の人」「学習」「環境」「リーダーシップ」の五つを大切にしようという、この目標の具体的な意義や生徒への影響などについて取材した。

「縛る」校則から目標達成の指針への転換

「5リスペクトを目安にして、自ら考え行動する力を身に付けてほしい」と語る田中教諭
「5リスペクトを目安にして、自ら考え行動する力を身に付けてほしい」と語る田中教諭

 同校は、併設されているОISとともに1991年、開校した。当初から2校一体の教育が構想されており、「知識と思いやりを持ち、創造力を駆使して世界に貢献する個人を育む」というスクールミッションも共有している。

 両校の開校に先立ち、このスクールミッションを実現するために、校則をどう定めるべきか、ということが関係者の間で大きな議論になったという。開校の前年に開かれた設立準備室には、ОISの全教員が集まり、同校からも校長、教頭以下数人のスタッフが参加した。その中の一人だった田中守教諭は、その場での話し合いについてこう振り返る。

 「ОISと本校では、学校文化に大きな隔たりがありました。私たちは新しい学校をつくろうと意気込んでいましたが、ОISの方は、世界に数あるインターナショナルスクールの一つという認識で、新たな校則は要らないという雰囲気でした。日本の学校の一般的な校則を見せても『なぜこんな決まりが必要なのか』『それは家庭の責任だ』と反対意見が噴出しました」

 議論がかみ合わないまま、いよいよ開校日が迫り、ОIS初代教頭のポール・ジョンソン氏が提案したのが「5リスペクト」だったという。

 両校の掲げる「5リスペクト」は、「自分を大切に」「他の人を大切に」「学習を大切に」「環境を大切に」「リーダーシップを大切に」という5項目からなる。「一般的な校則のように『これはダメ、あれはダメ』と縛るのではなく、目標を設定してそれを達成するためにどうするのかを考え、話し合い、教育していくという逆転の発想でした」と田中教諭は語る。

さまざまな場面に柔軟に応用できる五つの目標

学校行事もОISの生徒と合同で行われ、親睦を深め合う
学校行事もОISの生徒と合同で行われ、親睦を深め合う

 これら五つの目標は、さまざまな場面で、生徒それぞれが自らのあるべき姿を考える目安になるという。「自分を大切に」は、例えば「健康を保つために清潔を心がける」「何事にも常に最善の努力をする」という意味になり、「他の人を大切に」は、「友達の自立をサポートし、励ます」「さまざまな国籍の人と親しみを深める」に、「学習を大切に」は、「宿題や課題の提出期限を守る」「図書館をマナーよく使いこなす」に、「環境を大切に」は、「自分のロッカーや持ち物を整頓し管理をする」「なるべくリサイクルできるものを使う」というように、柔軟に応用できるのが特徴だ。

 「リーダーシップを大切に」という目標も、一般的な「リーダーシップ」のイメージにとらわれない。「本校では、リーダーシップの項目を英語で『Leadership/Authority』と表示しています。Authorityは日本語に訳すと『権威』になりますが、これは先生の言うことを聞きなさいということではありません。リーダーシップを取る人をリスペクトするという意味です。前に立って指示することも大事ですが、リーダーをサポートすることも大切だと考えています」と、田中教諭は話す。

「里山家族」のキャンプでTシャツの絞り染めを楽しむ生徒たち
「里山家族」のキャンプでTシャツの絞り染めを楽しむ生徒たち

 「5リスペクト」は、単なる努力目標として掲げられているのではなく、学校生活の中で具体的に養っている生徒の素養でもある。たとえば、「里山家族」という校外行事は「リーダーシップ」を養うプログラムの一つになっていて、例年は中1生全員が有志の高校生と一緒に、夏休みに2泊3日のキャンプを行う。高校生リーダーたちは1か月以上かけて、Tシャツの絞り染めや風鈴作り、さまざまなゲームやアクティビティーなどのプログラムを準備し、当日もリーダーとして中1生たちを導くそうだ。

 2020、21年は、コロナ禍のため、学校キャンパスで日帰りキャンプを行っていたが、昨年は宿泊キャンプを復活させた。「普段は頼りない高校生も、リーダーとして後輩たちを引っ張っていく姿が見受けられます。自分たちでプログラムを考え、実行する高校生を見て、『私もこんな先輩になりたい』と思う中1生もいます」と田中教諭は話す。

 昨年は、中2と中3の希望者を対象にしたキャンプも新たに導入した。「コロナ禍のため人数制限を設けましたが、募集定員の倍くらいの応募がありました」

「5リスペクト」を消化して生活に役立てる

 生徒たちは「5リスペクト」をどう受け止めているのだろう。日向鈴子さん(中2)は、「入学したばかりの頃、髪の毛を染めている子を見て最初は驚きました。でも、『5リスペクト』の考えでは、人の中身を大切にするので、一人一人の考え方や環境を多面的に見られるようになりました」と話す。

 藤本蘭さん(同)は、「入学前は、やりたくないことでもやるのが当たり前で、『ダメ』と言われても『なぜダメなのか』を考える機会もありませんでしたが、『5リスペクト』のおかげで、間違いや失敗をしても先生に教えてもらったり、友達同士で許し合ったりすればいいんだってポジティブに理解できるようになり、視野が広がりました」と言う。

 藤本 (りん) さん(同)は、「『5リスペクト』を参考にすることで、『自分は自分、人は人』と冷静に考え、物事に臨機応変に対応できるようになりました。これは社会に出てからも使えると思います」と話す。

 松島 皆香(ともか) さん(高3)は、学校生活の中で仲間とトラブルがあったり、友人関係で困ったことがあったりすると「5リスペクト」を思い返すという。「時がたつにつれ、いろいろなことを経験する中で、価値観や考え方が違っても、お互いをリスペクトすることが大事だと思えるようになりました」

 生徒たちの話からは、それぞれ自分なりの解釈で「5リスペクト」を消化し、生活の中で役立てていることが感じられる。

 「これからの時代は、他者の文化や価値観を受け入れた上で、自分はどう行動すべきか判断できる能力が必要ですが、ルールを守ることだけを教育されてきた人は、誰かに支持されないと行動することができません。私たちが育てたいのは、『5リスペクト』のような指針に基づいて物事を判断し、自ら考えて行動できる人材です。その中から、世界を股に掛けて活躍する人、国境や人種、文化などを超えてさまざまな人と協働できる人が育つと思います」と田中教諭は語った。

 (文:石上元 写真提供:関西学院千里国際中等部・高等部)

 関西学院千里国際中等部・高等部について、さらに詳しく知りたい方は こちら

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3891238 0 関西学院千里国際中等部・高等部 2023/03/10 06:00:00 2023/03/10 06:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/03/20230309-OYT8I50052-T.jpg?type=thumbnail

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