【特集】社会とのつながり目指して活用広がる新校舎…品川翔英

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 品川翔英中学校・高等学校(東京都品川区)で新しい中央校舎が完成し、今年度使用を開始した。廊下との間に壁や柱がないオープンな教室や、テーブルや椅子を自由に配置できる図書室、オープンカフェのように使えるカフェテリアなど、新しい教育に対応したさまざまな機能が詰め込まれているという。夏休み中にこの校舎を訪問し、今後の活用方針などを取材した。

アイデア次第で多様な使い方ができるフレキシブルな教室

廊下との間に壁も扉もない新校舎の教室
廊下との間に壁も扉もない新校舎の教室

 取材に訪れた8月22日、エレベーターの扉が開くと、すぐ目の前に夏期講習を受講している生徒たちの姿が飛び込んできた。昨年の創立90周年記念事業の一環として今春から使用を開始した新しい中央校舎の最も大きな特徴は、教室と廊下との間の壁や扉をなくし、オープンな構造にしたことだ。

 新校舎は鉄筋コンクリート造りの7階建てで、1階にはカフェテリア、2階には職員室や校長室などを配置。7階に図書室を設けている。3~6階に入っている教室はオープン構造であるだけでなく、階によっては教室間の壁が可動式のパーティションになっている。パーティションを外せば二つの教室と廊下を一体化させて大空間として使える。さらに、新しく導入したキャスター付きの机と椅子は、活動内容に応じてレイアウトでき、教室の自由度はさらに広がる。

 こうしたフレキシブルな教室を作ったことについて、校長補佐の伊佐野貴子教諭はこう話す。「昔と違って、現在の教室での学びは、生徒全員が黒板に向かって勉強するスタイルだけではありません。タブレット端末を使ってディスカッションをする、グループワークを行うなど、さまざまな活動があります。また、本校は『学び続けるLEARNER』の育成を教育目標に掲げ、生徒の自律した学びを促しているので、『あれはダメ、これはダメ』と生徒の行動を制限するのではなく、失敗を恐れず、さまざまなことに挑戦してほしいと考えています。そのためには、校舎自体に自由度があり、生徒や教員のアイデア次第で多様な使い方ができ、自由に学び、フットワーク軽く活動できる空間が必要だと考えました」

 保護者からは「授業中、ほかの教室の音が気になるのではないか」「生徒のプライバシーが守られないのではないか」と、心配の声も上がったが、各教室から出る音が干渉しないように検証を重ね、更衣室も設けるなど、問題を一つ一つ解消しながら建設を進めたそうだ。

 「新校舎を使い始めた当初は、生徒も教員も少し戸惑っていましたが、今は随分と慣れ、生徒からも『ほかのクラスがどんな授業をしているのか見えるのがいい』『習熟度別の授業の時など移動しやすい』といった声が上がっています。また、扉がないことで適度な緊張感が生まれるようです。現在は企業でもフリーアドレスを導入し、オープンなオフィスが増えています。だからこそ、生徒にもオープンな空間で集中して学習してほしいと思っています」

都心の風景を望むカフェのような図書室

品川の高層ビル群を望む最上階の図書館室
品川の高層ビル群を望む最上階の図書館室

 新校舎のもう一つの特色は、最上階に図書室を設けたことだ。その意図について伊佐野教諭は、「生徒に都心ならではの景色を見せたいと考えました」と話す。「本校は品川区のほぼ真ん中にあります。窓の向こうには羽田空港が見え、午後3時頃には飛行機がパーッと飛び立つ様が見られます。さらに、新幹線が走る姿や、品川の高層ビル群も見えます。これから社会に飛び立とうとする生徒にとって、日々そうした景色を見ることが、世界へと飛び立っていく空気を味わい、心に刺激を与えると考えました」

 図書室は約4教室分に当たる広さがあり、ソファのあるゆったりした閲覧スペースのほか、壁一面の大きな窓から豊かに外光を取り入れたブックカフェのような空間もある。窓際は、1人用のソファや造り付けのテーブルが配され、読書だけでなく自主学習もしやすい場所になっている。奥には、さまざまな形に組み合わせられる台形のテーブルや椅子を約1クラス分そろえ、小さなホワイトボードも置いて、ミーティングやグループ学習、セミナーなど、多様な用途に使える空間にしている。

 本の配置にもこだわりがある。図書館には通常、日本十進分類法に基づいて書架ごとに上段左から下段右に、など配架のルールがある。同校の図書室は、あえてそれを離れ、テーマごとに分けた本を、壁に沿って設置した本棚に平置きした。テーマは定期的に変え、平置きする本を入れ替えていく。さらに、本のそばの棚にQRコードを貼り付け、そこから関連本を検索できるようにした。

 「本校には3万8000冊以上の蔵書がありますが、一度も借りられていない本があります。ただ、たくさん本を並べても、どんな本があるのか分かりにくく、生徒は興味を持てません。そこで、本の表紙を見ただけでワクワクしたり、興味がない分野の本でも『ちょっと手に取ってみようかな』と思ってもらえたりするように工夫しました」

 ちなみに、1階にあるカフェテリアの設計にも工夫を凝らしている。カフェテリアの大きな窓は、全開にするとグラウンドに面したテラスとつながり、オープンカフェのように使える。テーブルと椅子の配置を変えれば、部活動のミーティングや学校説明会のブースとしても活用できるようになっている。

新校舎を活用して社会とのつながりを深める

テラスと面した広いグラウンド
テラスと面した広いグラウンド

 同校は今後、新校舎の機能を生かして社会とのつながりを深めていく方針だという。「学校の中の『いい子』ではなく、社会で活躍できる力のある人に育てることが私たちの目標です。先の見えない世の中をたくましく生きていくための土台づくりとして、生徒には学外や社会へ目を向けさせたい。新校舎が完成して、さまざまな人を招くことができる環境になりましたから、企業とコラボレーションするなどして、社会とつながる経験をさせてあげたいと考えています」

 社会につながっていくことは、校訓の一つである社会への「貢献」を通して、生徒の自己肯定感を高める機会にもなるという。

 「社会の人たちと関わり、自分たちの行動が社会の役に立ち、誰かに喜んでもらえるという経験をすることで、生徒は『私は認められている』と感じ、自己肯定感が上がっていきます。私たち教員は、大学を卒業してすぐ学校に勤める人が多く、社会とのつながりが薄い職業だと思います。社会で活動する人々に学校へ来ていただいて私たちも共に学び、生徒の成長を見守りたいと思います」と伊佐野教諭は語った。

 (文:籔智子 写真:中学受験サポート)

 品川翔英中学校・高等学校について、さらに詳しく知りたい方は こちら

スクラップは会員限定です

使い方
「教育・受験・就活」の最新記事一覧
記事に関する報告
4674607 0 品川翔英中学校・高等学校 2023/11/06 05:01:00 2023/11/06 05:01:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/10/20231025-OYT8I50012-T.jpg?type=thumbnail

会員校一覧

東日本 共学校ページTOP

── 女子校ページTOP

西日本ページTOP

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)