半導体国産化は大変だが、絶対にやるべきだろう…キヤノン・御手洗冨士夫会長兼社長CEOインタビュー
完了しました
企業トップが読む2023年(13)
ロシアによるウクライナ侵略で、2022年の日本企業は地政学リスクを再認識する1年となった。米国の金融引き締めをきっかけに、外国為替市場では、円安・ドル高が加速し、32年ぶりに1ドル=150円をつけた。各社トップに今年を振り返ってもらい、戦略を聞いた。
――世界経済の現状をどう見るか。
「今年は大きく時代が展開した年だった。新型コロナでグローバリゼーションが分断されるなか、ロシアのウクライナ侵略や中国のロックダウン(都市封鎖)で自国主義が強まり、サプライチェーン(供給網)が寸断された。世界景気はそんなに悪くないものの、物不足によるインフレ(物価上昇)は需給関係が戻るまで2~3年は続くだろう」
――景気減速懸念もあり、事業環境への影響は。
「(レンズ交換式の一眼レフとミラーレスを合わせた)デジタルカメラの世界出荷台数は年間500万台ぐらいで落ち着き、徐々に新しい需要が起きて伸びるだろう。これ以上、下がることはない。複合機のような事務機器も、オフィス出勤の回復に伴い、回復しつつある。半導体製造に使う露光装置も好調で、宇都宮市に生産工場を建設することを決めた。総投資額は約500億円で、2025年初めの稼働を目指している」
――暗闇でもフルカラーで撮影できる技術を開発した。実用化のメドは。
「用途はいろいろあるが、まずは23年に夜中でも使える監視カメラなどで導入を目指したい。例えばビルの監視カメラに使えば、夜は電気をすべて消せるので、省エネできる。防衛産業でも大いに役立つと思うし、車載カメラにも利用できるかも知れない」
――米中対立が深まる中、半導体事業への影響は。
「(キヤノンの装置で)露光した半導体の納入先として、米中はともに多く、(影響は)米中関係次第ということもある。ただ、決別するところまでいかないと思う。台湾問題でどう折り合いを付けるかだろう」
――政府は、社会人の学び直し(リスキリング)を支援する方針だ。取り組みは。
「人を生かすことが一番大事。人材育成を目的に、4年前、本社に技術者を育てる施設をつくった。これまでに約150人が、人材が不足するソフトエンジニアとして職種転換している。今後も積極的に支援したい」
――次世代半導体の国産化を目指す「ラピダス」が誕生した。
「大変だが、絶対にやるべきだろう。もともと、日本は半導体で世界のトップのシェア(占有率)だった。飛行機やクルマ、家電などあらゆるものに半導体は使われており、国の核心的産業で、自国の生産が必要になる」
――政府は、原子力発電について、運転期間延長や次世代型の開発推進といった方針を打ち出した。
「安全性を確かめた上で、(推進を)再開すべきだ。風力発電や太陽光発電は補助電源としてはよいが、天候に左右される。主力エネルギーとしてはまだ難しい。環境に優しく、コストの安い原発が主軸になるだろう」