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大みそか放送の「第73回NHK紅白歌合戦」の世帯視聴率(2部、関東地区)が、歴代ワースト2となった。前年が過去最低だったことから、若者受けする出場歌手の選出と演出に努めたが、微増にとどまった。年の瀬の風物詩だった番組の現実は、公共放送NHKの娯楽番組のあり方をも問うている。(文化部 辻本芳孝、笹島拓哉)
歌より話題喚起を重視…宣伝攻勢、ニュース番組でも
ビデオリサーチ社の調べによると、今回の世帯視聴率は35・3%で、2部制となった1989年以降最低だった2021年の34・3%から1ポイントの上昇にとどまった。
前年の低迷によるショックから、今回は普段以上になりふり構わぬテコ入れ策が図られた。司会者にはこれまで、連続テレビ小説や大河ドラマの主役などが選ばれてきたが、今回はNHKでの出演は少ないものの若者人気が高い俳優の橋本環奈を抜てき。出場歌手には、K―POPの新進グループやジャニーズ事務所のグループを手厚くするなど、20代以下を重視する姿勢を鮮明にした。
杉山賢治・実施本部長は昨年11月の出場歌手発表の記者会見で、「今年の活躍、世論の支持、企画・演出にふさわしいかどうかという三つの柱を基準にし、総合的に選考した。今年を締めくくるのにふさわしい方々になった」と例年通りの説明を繰り返した。
その後、85歳の最高齢出演者となる加山雄三や、松任谷由実、桑田佳祐らの出場を“特別企画”として発表。あくまで正規の出場者で若者を狙い、途中にベテランを配置して中高年層の留飲を下げさせ、バランスを保つ戦略を取った。また、ディズニーとのコラボレーションのほか、コロナ禍で減らしていたゲスト審査員を6人から10人に増やすなど、歌以外の話題の喚起にも努めた。もちろん、近年目立つ宣伝攻勢は、ニュース番組にまで及んだ。
「知っている人は少ないのですみません」と会長も苦笑い
その一方で、例えば演歌歌手の出場者は、20年前の3分の1ほどに減少。いくらNHKが盛り上げようとしても、昔ながらの紅白ファンには届きづらい構成になった。前田晃伸会長(78)も昨年12月の定例記者会見で応援する歌手を問われ、「知っている人は少ないのですみません」と苦笑いしていた。
テレビ番組に詳しいコラムニストの桧山珠美さんは「特別企画は八つにもなったうえ、その出演者の方が格上に見え、付録の豪華さで購入させる雑誌のような印象だ。特別企画やゲストのトークが増えた結果、最も重要なはずの歌を聴く時間が削られている」と指摘する。