本よみうり堂

『スーツアクターの矜恃』鈴木美潮著

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

「中の人」日本文化を体現

評・川添愛(言語学者・作家)

◇すずき・みしお=1964年生まれ。読売新聞専門委員。特撮愛好家でもあり、他に『昭和特撮文化概論』。
◇すずき・みしお=1964年生まれ。読売新聞専門委員。特撮愛好家でもあり、他に『昭和特撮文化概論』。

 なじみのないジャンルの本であっても、読んでしまったが最後、紹介せずにはいられなくなることがある。読書委員の任期の最後ぐらい自分の専門分野の本で締めくくろうと考えていたが、あろうことか本書に出会ってしまった。

とんねるず、木梨憲武さんの仕事術は「サークル型」……自伝本に学ぶカリスマタレントの俺気味

 これはヒーローや怪人の「中の人」として特撮作品を陰で支えるスーツアクターについて論じる本だが、情報量の豊富さもさることながら、一種の日本文化論でもあるところに かれた。たとえば海外で人気の『パワーレンジャー』シリーズでは、スーツアクターを日本から呼び寄せているという。理由は、日本の役者でないとヒーローらしい動きができないから。「日本のヒーローの立ち回りのベースには時代劇、さらに元をたどれば歌舞伎がある」との記述に、思わず膝を たた いた。仮面ライダーの変身ポーズも、アクションを担当した大野剣友会が、二刀流と日本舞踊の動きを取り入れて完成させたという。

 特撮の 黎明れいめい 期は前例がないため、スーツアクターが自らヒーローや怪獣の演技を考案し練り上げていった。ゴジラを演じた中島春雄さんは、上野動物園に通ってゾウやクマの動きを研究した。古谷敏さんは、ウルトラマンが自分からはいっさい攻撃しないことを表現するため、少し腰の引けた構えを採用した。仮面ライダーの藤岡弘、さんも、日本のヒーローには 惻隠そくいん の情や犠牲的精神が集約されていると話す。

 スーツや面をまとって芝居をするときの視野の狭さ、苦しさは想像を絶する。スーツアクターたちは危険と隣り合わせの環境で、誇りと情熱を持って作品を作り上げてきた。「どんなにデジタル化が進んでも、結局のところ、人の心を動かすのは、人間の必死な姿なのではないか」「ことさらに自己を顕示することなく 真摯しんし にヒーローという役に向き合い、没入して演じたスーツアクターたちの存在に、もう少しだけ目が向けられたら」という著者の思いが、ぜひとも多くの人に届いてほしい。(集英社インターナショナル、1980円)

読書委員プロフィル
川添 愛( かわぞえ・あい
 1973年生まれ。言語学者、作家。専門は自然言語処理。著書に『ふだん使いの言語学』や『言語学バーリ・トゥード』などがある。

オススメ&PR

オススメのコミックエッセー連載

スクラップは会員限定です

使い方
「エンタメ・文化」の最新記事一覧
記事に関する報告
4831268 0 書評・レビュー 2023/12/15 15:20:00 2023/12/15 15:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/12/20231211-OYT8I50061-T.jpg?type=thumbnail

主要ニュース

セレクション

読売新聞購読申し込みキャンペーン

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)