[著者来店]「水谷豊自伝」松田美智子さん、水谷豊さん…俳優60年 熱い芸能史
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「この本、面白いですか?」
取材は逆質問で始まった。この道およそ60年。生粋のエンターテイナーには、作品の面白さが何より重要なのだ。
親交のあった故松田優作の元妻による聞き書きである。著者2人は「マミちゃん」「豊ちゃん」と呼び合う仲。「雑談がてらの対談で自伝の意識はなかった」。古希を迎えた昨年から、1年半行ったロングインタビューをまとめた。
夜遊びするよりマシ、と12歳で飛び込んだ演劇界。ドラマ「傷だらけの天使」で「アキラ」「アニキィ」と呼び合った萩原健一ら亡き名優たちとの交流。優作の命を奪った
芸能界は不向きだ。そう感じたのは若かりし頃。「テレビ局のために仕事してるのに、昼間はスキャンダルを流す。いつも逆らってたたかれた」。それでも撮影に入れば全力を投じ、「気がついたらこんなに長くエンターテインメントの世界にいてしまった」。
不良のアキラ、教師の北野広大、新聞記者の一太、刑事の杉下右京とはまり役は多い。「役名で呼ばれるとキャラがあるけど、『水谷豊』で語ると急に難しくなる。自分でも自分のことがわからない」。本当の自分はどうしてここにこうしているのか? それが本書のテーマでもある。
近年はオリジナルの映画も監督し、昨年の「太陽とボレロ」では逆境を越え市民オーケストラに心血を注ぐ人々を描いた。「悩みを忘れられる作品にしたい」と語る。そんな国民的俳優が「普通の人と違う」のは、「苦労話はしないところ」だと共著者は言う。
「逆境は結構好き。逆風は舞い上がるチャンスだから」と締めくくりかけ、ニヤリ。「でも、この自伝には逆風にならないでほしいな」(新潮社、1980円)武田裕芸