箱根駅伝、節目の第100回は全国化…「原点」思い起こす機会にしたい

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編集委員 近藤雄二

 クリスマスに染まっていた街の風は、年末年始に向かって和の趣に変わる。大掃除をすませ、大みそかは紅白歌合戦を楽しみ、年越しそばで締める。年が明ければ雑煮を食し、初詣に出かけ、年賀状に目を通す。そして、2、3日はおせちをつつきながら、ゆるりと箱根駅伝を見る――。

 そんな流れにうなずいてくれた読者も、少なくないのではないだろうか。そう、箱根駅伝は、すっかり日本の年末年始を彩る、一つの風景としてなじんできた。

 それを支えるのが日本テレビが1987年にスタートさせた生中継だ。ビデオリサーチによると、前回箱根駅伝の平均視聴率(世帯)は関東地区で往路26.2%、復路28.4%。関西は往、復路とも16.2%だった。一方、前回NHK紅白歌合戦(同)は午後9時からの後半で関東34.3%、関西35.0%。紅白には及ばないが、数字の上でも、箱根が全国的な行事に定着していることはうかがえる。

第99回箱根駅伝予選会で力走する各校の選手たち(2022年10月)
第99回箱根駅伝予選会で力走する各校の選手たち(2022年10月)

 そのためか、知人や友人から度々受ける質問がある。「何で箱根には関西の大学は出ないの?」。陸上関係者や駅伝ファンの多くはご存じだろうが、箱根駅伝の主催者は関東学生陸上競技連盟。参加校は関東学連加盟チームに限られている。つまり、関東大会なのだ。

 そう説明すると大抵の知人は当惑した表情で「あの大きな大会が? 全国大会にすればいいのに」と、ほぼ同じ反応をするのだった。

 そんな声に応えるように、関東学連は2022年6月、英断に踏み切った。箱根駅伝は今度の正月で第99回を迎えるが、その次となる節目の第100回では、2023年秋に行われる予選会を全国化したのだ。予選会を通過すれば地方からも箱根駅伝を走れる。全国の学生ランナーたちに夢の広がる話ではないか。

 ところが、この企画、必ずしも好評ではないという。それは、現時点でオープン化は、この1回限りだからだ。ある西日本の大学の監督は言う。「あの青学大でも強化を始めてから出場まで5年かかった。たった1年で予選を通過するのは不可能。本気でオープン化するなら継続しなければ絵に描いた餅」とし、既に不参加を決めたという。確かに、今年の全日本大学駅伝は上位15位を関東の大学が占めた。来年の予選会に関東以外から参加しても、通過するのは極めて難しい。

 全国化を継続しないことにも理由があるという。関係者が指摘する壁には〈1〉既に全日本大学駅伝という日本一を決める大会がある〈2〉10月の箱根予選会を全国から目指せば、9月の日本学生対校選手権など他の競技会に悪影響を与える〈3〉全国で強化が箱根に偏るのは良くない――などがある。

箱根駅伝予選会で55年ぶりの本大会出場を決め、胴上げされる立教大の上野裕一郎監督(2022年10月)
箱根駅伝予選会で55年ぶりの本大会出場を決め、胴上げされる立教大の上野裕一郎監督(2022年10月)

 関東学連駅伝対策委員長の上田 誠仁まさひと さんは「オープン化には、予選会と日程の近い他の競技会をつぶすリスクもある。様々な方法論を考え、今回は記念大会のみ予選会で関東の枠を取り払ってみようという結論となった」と理解を求める。

 一方で上田さんは、今回の決定は「原点に立ち返る」思いを込めたとも言う。日本初のオリンピアン 金栗四三かなくりしそう は「世界に通じるランナーを育てる」との使命感から箱根駅伝を創設した。第1回が行われた1920年には日本陸連も日本学連もなかった。関東の枠を外したのは、全国から逸材を発掘する「原点」を思い起こす試みでもあるというのだ。

 確かに、競技日程を無視して関東学連単独で「全国大会」を開くのは難しい。ただ、箱根は既に「国民的行事」であるのも事実だ。次の100年、箱根駅伝をどう発展させるのが日本にとって最良なのか。100回の節目に金栗の「原点」に戻って、このテーマは日本陸上界全体で、広く、まさにオープンに、論じてみる必要があるのではないか。

プロフィル
近藤 雄二( こんどう・ゆうじ
 編集委員。1991年入社。早大時代に箱根駅伝3度出場。アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロの夏季五輪4大会を現地取材。2009年春から12年秋までロンドン特派員。19年にフルマラソンで2時間44分16秒をマーク。生涯一ランナーがモットー。

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