ヤマハサウンドシステム株式会社

本多の森北電ホール 様 / 石川県
Japan / Ishikawa Aug. 2023

本多の森北電ホール 様

加賀百万石の文化を映す名勝、兼六園に隣接する「本多の森公園」。美術館などの文化施設が集まるその一角にある「本多の森北電ホール」は、2009年10月に「石川厚生年金会館」をリニューアルして誕生したコンサートホールです。2020年に行われた改修工事では、「本多の森北電ホール」の音響システムをヤマハサウンドシステムが担当しました。施設の音響システムの概要やヤマハサウンドシステムの仕事ぶりなどについて、本多の森北電ホール 矢田 卓巳 館長と、ホールの音響を担当する株式会社 北陸共立 営業制作技術部 酒井 恵一 氏、同 松島 由志 氏、同 中道 里玖 氏にお話をうかがいました。

本多の森北電ホール 様

本多の森北電ホール 矢田 卓巳 館長(前列左から2番目)
株式会社 北陸共立 営業制作技術部 係長 酒井 恵一 氏(前列左端)
同 営業制作技術部 松島 由志 氏(前列右から2番目)
同 営業制作技術部 中道 里玖 氏(前列右端)
ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 システム設計課 石井 志歩(後列左)
同 営業部 名古屋営業所 営業課 月見 壮一(後列右)
同 技術部 東京技術3課 吉村 紳平(リモート参加)

人々が熱狂する野球場のDNAを色濃く継承し
地域の活性化や文化・芸術活動の振興を担うホール

● 「本多の森北電ホール」についてご紹介ください。

矢田館長:
このホールは加賀藩の重臣であった本多家の武家屋敷が軒を連ねた本多の森にあります。実はこの場所はもともと「兼六園球場」という県営の野球場でした。その跡地に1977年に建築家 黒川紀章氏の設計による「石川厚生年金会館」が作られ、2009年に「本多の森北電ホール」としてリニューアルオープンしました。ホールは非常にユニークな扇型の形状をしていますが、これは野球場の外野の膨らみがそのまま生かされたものなんです。

本多の森北電ホール 様

本多の森北電ホール 矢田 卓巳 館長

● ステージ側にホームベースがあったということですか。

矢田館長:
そうです。舞台側が内野で、客席側が外野でした。兼六園球場の時には1試合で13本もホームランが出たり、たった79球での完全試合が行われるなど、球史に残る大記録がここで誕生しています。多くの人々が集い、熱狂して感動する場であるというDNAは「本多の森北電ホール」にもしっかりと継承されていると思います。

● 野球場だったころからずっと、金沢の方々に親しまれてきた場所なんですね。

矢田館長:
私が小学生の頃はまだ野球場でした。そして「石川厚生年金会館」になってからはコンサートなども頻繁に開催されましたし、「厚生年金会館」の時代は地元の人間にとって結婚披露宴の場所としても馴染み深い場所でした。コロナ禍で催事が減っていましたが、最近ようやく賑わいが戻ってきつつあるところです。

● 「本多の森北電ホール」の特長を教えてください。

矢田館長:
「本多の森北電ホール」の特長は「1スロープ」です。1,707席もの収容人数を持ちながら、いわゆる1階席、2階席、3階席となっているのではなくすり鉢状に配置された座席のすべてが1つのスロープでつながっています。ですから後ろの席からも舞台を見やすく、特にバレエなどの演目ではお喜びいただいています。

本多の森北電ホール 様

本多の森北電ホール 外観

本多の森北電ホール 様

本多の森北電ホール 内観

音響卓を先行して更新し、その後再生系と
エントランスロビーの音響システムを更新

● ここからは「本多の森北電ホール」の音響に携わっている株式会社 北陸共立のみなさんにお話しをうかがいます。まずこのホールの音について教えてください。

酒井氏:
このホールは癖のない自然な響きのホールだと思います。開催する演目は多種多様で、講演会などでのスピーチ、そしてクラシックのコンサートやバレエの発表会、ポップスのコンサートなど、どんな演目にも対応できます。

本多の森北電ホール 様

株式会社 北陸共立 営業制作技術部 酒井氏(左から2番目) 松島氏(右から2番目) 中道氏(右端)

● 「本多の森北電ホール」ではどのようなプロセスで音響システムの更新をされてきたのでしょうか。

酒井氏:
まず「石川厚生年金会館」時代の1997年から1998年にかけて大規模な改修があり、その後10数年以上が経過した時点でミキサーが故障したので、急遽音響卓をヤマハの「CL5」に更新しました。それが2016年です。その後プロセッサーや再生系も不具合が出てきたため、スピーカーを含めた出力系の更新を行いました。

本多の森北電ホール 様

株式会社 北陸共立 営業制作技術部 係長 酒井 恵一 氏

本多の森北電ホール 様

ヤマハデジタルミキサー「CL5」を導入した音響調整室

本多の森北電ホール 様

「CL5」をワイヤレス操作できるCLエディターが活用されている

● 調整卓にヤマハのデジタルミキサー「CL5」が導入されています。使い勝手はいかがでしょうか。

酒井氏:
導入したのは「CL5」が発売になったタイミングで、もしかしたら初号機かも知れません。そういう意味では長く使っています(笑)。「CL5」は私たちホールスタッフにとっても、ご利用いただくお客様の音響エンジニアの方にも操作がしやすいミキサーです。タブレットでワイヤレス操作できることもメリットです。ヤマハさんのミキサーは直感的に操作できますし、信頼性が高いと思います。

● 出力をマトリクス拡張するマトリクスコントローラー「MDN2R」が導入されていますね。

酒井氏:
以前は不二音響(現、ヤマハサウンドシステム)さんのアナログ卓「アルカディア」を使っていました。設備では出力系統が多く必要ですので、「CL5」を導入すると同時にヤマハサウンドシステムさんのマトリクスコントローラー「MDN2R」を導入しました。「本多の森北電ホール」のプロセニアムスピーカーはL、C、Rの3構成で、通常CはLとRをミキシングしたものを出しているのですが、時にはCを個別にしたいこともあります。そのような操作は「MDN2R」で行っています。

本多の森北電ホール 様

マトリクスコントローラー HYFAX「MDN2R」

● 出力系の改修はどのような経緯で行われたのですか。

酒井氏:
「本多の森北電ホール」は1スロープであることもあり、スピーカーから後部客席まで距離があります。客席全体を均一に明瞭よく拡声することを目的に、メイン系スピーカーをラインアレイスピーカーに更新しようということになりました。そこで、数種類のラインアレイスピーカーを持ち込み、館長と事務の代表、さらに音響オペレーターの私と松島の4人で試聴しました。そしてスピーカー、アンプ、プロセッサーなどの機種選定を行いました。このときのコンセプトは「スピーカーを持ち込みしなくてもいい音」でした。コンセプトどおり迫力ある音の再生ができて満足しています。もちろん、スピーカーを持ち込みいただくことも多くあります。その際には中通路後ろの席をプロセニアムスピーカーで補助してほしいというご要望をよくいただきます。持ち込みスピーカーの補助をするにはパワーに余裕が必要ですが、改修後は安心して音が出せるようになりました。スピーカー出力レベルを細かく監視できるHYFAXのデータロガーシステム「DL3 System」も重宝しています。

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L、C、R構成の埋め込み式プロセニアムスピーカー

本多の森北電ホール 様

ステージ下手上手の埋め込み式のサイドスピーカー

本多の森北電ホール 様

客席壁面の埋め込み式のウォールスピーカー

本多の森北電ホール 様

アンプ室のパワーアンプ架

本多の森北電ホール 様
本多の森北電ホール 様

HYFAXデータロガーシステム「DL3 System」によりアンプ室でのアンプの挙動が音響調整室から視認可能

松島氏:
改修にはもう一つポイントがありました。エントランスロビー周りの音響です。改修前のエントランスロビーには数台の天井埋め込み型のスピーカーが設置されていましたが、開演前や休憩時に物販などで賑わっているとアナウンスがほとんど聞こえませんでした。スピーカーの数も少なく、それぞれパワーも足りていませんでした。そこで今回はスピーカーを追加し、ホール内でもエントランスロビーでも同じようにしっかりとアナウンスが聴こえる音響システムを構築しました。

本多の森北電ホール 様

株式会社 北陸共立 営業制作技術部 松島 由志 氏

酒井氏:
実際にエントランスロビーでもホール内と同じように測定器を立てて測定をして音響調整を行ってもらいました。正直言ってここまでエントランスロビーの音にこだわっているホールは珍しいと思います。また、以前はエントランスロビーのスピーカーは非常放送と兼用だったのですが、エリア毎に音量調整ができず使い勝手がよくありませんでした。今回の改修でスピーカーは全て新規設置とし、非常放送とはきちんと切り分けてもらいました。

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エントランスロビーの物販売場付近に増設したスピーカー

本多の森北電ホール 様

ヤマハサーフェースマウントスピーカー「VXS5W」

切り換えスイッチには確実性・視認性・設置性に優れ、
暗転時の光量を押さえられるトグル式スイッチを採用

● 改修に際し、操作性や使い勝手の面で重視したことはありますか。

松島氏:
よく使うスイッチ類に関しては、従来から使っているトグル式スイッチを採用しました。トグルとはスイッチを上下や左右などどちらかに倒して切り替えを行う方式です。オン/オフが視覚的にも明確で「押したつもり」が防止でき、入れ忘れや切り忘れも瞬時に分かるメリットがあります。採用したトグルはレバーの上部に小さなLEDがあって光るので暗転時でも視認できます。システムの更新にあたってプッシュ式ボタンのご提案もいただきましたが、設置面積が大きくなる点と、光る部分が大きいので暗転時に光が漏れる可能性があり、トグル式スイッチを選択しました。

本多の森北電ホール 様

スピーカーのON/OFFにはトグル式スイッチを採用(音響調整室)

酒井氏:
もうひとつこだわった点は、エアモニターマイクで聴く音響調整室でのモニタースピーカーの音です。「本多の森北電ホール」の音響調整室は上手のサイド投光の位置にあって、しかも窓を開放できません。そのためホール内のサウンドを確認するためにはエアモニターマイクとモニタースピーカーが必須です。音響調整室においても音質、音量ともにエアモニターマイクの真下で聴いている感覚と同じようにするために、測定器を使って徹底的に追い込んでもらいました。

本多の森北電ホール 様

エアモニターマイク

オンラインミーティングに時間をかけることで
きめ細やかにシステム設計を詰めることができた

● ここからは、音響機器のシステム設計や施工に関わったヤマハサウンドシステムのメンバーも参加させていただきます。営業の月見さんは、「本多の森北電ホール」の改修でどんなことを得ることができましたか。

月見:
今回は弊社でシステム設計をしてお納めしたというより、時間をかけて細かいところまでホールの方々のご意見をうかがいながら一緒に作り上げることができました。通常なら我々が現地調査にうかがい、そこでご要望をいただき、納入仕様書を完成させ、チェックをいただき、手直しをして製作に入るという流れですが、今回はコロナ禍でリモート会議だったこともあり、ミーティングに時間をかけることでシステム設計段階から非常にきめ細やかに詰めていくことができました。また先ほどのトグル式スイッチの採用などは、現場の方ならではの意見で、私としても大変勉強になりました。

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ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 名古屋営業所 営業課 月見 壮一(写真左)
同 設計部 システム設計課 石井 志歩(写真右)

本多の森北電ホール 様

舞台袖のスピーカーのON/OFFにもトグル式スイッチを採用

● 設計の石井さんは、今回のシステムで特に印象に残った点はありますか。

石井:
今回の音響システムの主幹伝送がフルアナログからDanteというデジタルオーディオネットワークに切り替わりました。ただ、万一Danteに不具合が起きた場合に、瞬時にアナログに切り替えられるバックアップシステムがほしいというご要望をいただきました。当初私は系統ごとにアナログのチャンネルを用意するつもりでしたが、「それではいざという時切り替えが追い付かない」との意見をいただき、瞬時に全てが切り替わるシステムとしました。現場においてバックアップシステムに求められるものが何なのか、を深く考える機会となりました。それ以来、バックアップに対する意識が大きく変わりました。私にとって非常に勉強になり、成長できました。

● 施工管理を担当した吉村さんは、「本多の森北電ホール」の施工でどこに力を入れましたか。

吉村:
「本多の森北電ホール」の改修工事ではエントランスロビーや楽屋周りのシステムを新設しました。私は今までエントランスロビーと楽屋だけの回線を完全に引き直す、という経験はありませんでした。そこで「なぜこの工事が必要になったか」を考えてみたんです。その結果「ホールの音は、客席の中だけではなく、ロビーにいるお客さんにもきちんと伝わらなくてはならない」ということだと解釈しました。そこを重視して作業を行いましたので、結果的にホールの中の音より、エントランスロビーや楽屋などの外周りの音作りに力を入れました。

本多の森北電ホール 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 東京技術3課 吉村 紳平(リモート参加)

実は、私は石川県の出身で小さい頃からこのホールでいろいろな催し物を見て育ちましたから、このホールではバンドのライブもあれば劇団四季さんの公演もあるということをよく知っていました。さまざまなジャンルに対応できるエントランスロビーの音作りはなかなか難しかったです。というのも、催し物の種類によって求められる音量や音質が変わるんです。結果として講演会用、音楽用など、エントランスロビー用にいくつかの設定を用意し、切り換えて使っていただくことにしました。また酒井様から、エントランスロビーのどこにいても均一に聴こえるようにしたいというご要望がありましたので、測定器を使って緻密にチューニングしました。このホールに携わったことでホールの外の音に対する意識が変わりました。これからも客席の中だけでなく、ロビーや楽屋などの音に対しても丁寧に対応していきたいと思います。

本多の森北電ホール 様
本多の森北電ホール 様

通路用スピーカーのうち階段付近の1台は音響設備のない階段方向に向けて設置

本多の森北電ホール 様

非常放送と系統を分けて連絡用に増設したシーリングスピーカー「VXC4W」

今後も金沢の文化発信の中心であるために
素晴らしく仕上がった音響システムを長く維持・継続したい

● 最後にホールのみなさんにうかがいます。ヤマハサウンドシステムと仕事をしてみて感想はいかがでしたか。

酒井氏:
私たちからとにかく細かく注文をつけ、いろいろ無理を押し付けてしまったと思います。でもそれは逆にヤマハサウンドシステムさんにだからこそ言えた、ということでもありました。最も信頼のおけるパートナーだからこそ、一切妥協することなく要望を伝え、その全ての要望を叶えていただきました。さすがです。おかげさまで全くストレスなく運用ができています。

松島氏:
私は工事期間中、現場にいることが多く、吉村さんとご一緒させていただくことが多かったんですけど、現場で細かい修正や要望を再三してしまいましたが、逐一対応していただきました。本当にありがたいと思っています。

● 中道さんは改修後に「本多の森北電ホール」に参加されたということですが、改修の話をきかれていかがでしたか。

中道氏:
これまで音響設備を不便なく使っていましたが、今日はじめて改修の時のやりとりや、その趣旨、それでこういう仕組みでこうなったのか、といった詳しい内容を知ることができました。そして、ヤマハサウンドシステムさんとの厚い信頼関係はこういった経緯があって構築されたんだな、とよく理解できました。

本多の森北電ホール 様

株式会社 北陸共立 営業制作技術部 中道 里玖 氏(写真右端)

● 矢田館長は今後、ヤマハサウンドシステムにどのようなことを期待されますか。

矢田館長:
私もここの館長になったのは改修後ですので、改修についての内容を詳しくは知りませんでしたが、今日のお話でよく理解できました。音響を担当される北陸共立のみなさんの強い思い、それをしっかりと受けとめてくださったヤマハサウンドシステムのみなさんのお陰で素晴らしい音響システムができあがったわけで、本当に感謝申し上げます。これからもこの状態を維持・継続できるよう、今後もヤマハサウンドシステムさんとお付き合いできればと思っております。
やっとコロナ禍もおさまりつつあり、世の中はようやく落ち着きを見せ始めました。コロナ禍以前の賑わいを見せるのも、そう遠くはないと思っております。今後は石川県の方だけでなく、多くの方に足を運んでいただき、よりいっそう石川、金沢の文化を感じていただけるホールにしていきたいと思っています。

本多の森北電ホール 様

● 本日はご多忙中ありがとうございました。

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