ファッション

榮倉奈々が「ニューナウ」で示す新たなブランドのあり方 自ら対面接客で受注生産

PROFILE:榮倉奈々/LAND NK CEO

(えいくら・なな) 2002年にファッションモデルとしてキャリアをスタートし04年に俳優デビュー。その後、数々のドラマや映画の話題作で注目を集めるとともに、ブランドのアンバサダーを務めるなど、ファッションアイコンとしても注目を集める。23年に自身の経験やビジョンを活かしてLAND NK 株式会社を設立しCEO に就任。新しい価値観を表現するブランド 「ニューナウ(NEWNOW)」をスタート 

俳優の榮倉奈々が、自身で立ち上げたアパレルブランド「ニューナウ(NEWNOW)」のファーストコレクションを発表した。スタイリストの上杉美雪をクリエイティブ・ビジョン・ディレクターに、「コート(COATE)」の福屋千春デザイナーをクチュール・デザイナーに迎えて始動。シーズンコレクションとなる2024年春夏のアイテムと、通年販売するカジュアルなアイテムをそろえた“Timeless(タイムレス)”ラインを提案する。価格帯はドレス類が5万円~、ニット類が2万円〜、トップ類が4万円〜、パンツ類が4万円〜。(※価格は参考で変更の可能性もある)

上質な素材と着心地、シルエットを追求して丁寧に仕立てたアイテムは、シンプルながら手に取るだけでこだわりやクオリティーを感じる、洗練された大人のためのワードローブ。販売は現在ECサイトのみ。一般顧客を招くオーダー会を半期に一度開催して受注生産する。事前抽選制となった初回は定員数の5倍の応募が殺到し、4日半でプレス関係者を含む872人が来場した。

モデルや俳優業の仕事に加えてプライベートでは二児の母でもある榮倉は、なぜ今、経営者となりアパレルブランドを立ち上げたのか?自ら受注会場に立ち積極的に来場客とコミュニケーションをとるなど、並々ならぬこだわりが詰まったデビューシーズンの披露を終えた榮倉に、ブランドに込めた想いから受注会の反響、今後の方向性まで聞いた。


育児を通して芽生えた新しい世界に飛び込む意欲

WWD:いつか自分でアパレルブランドを立ち上げたいと思っていた?

榮倉奈々(以下、榮倉):まったく思っていませんでした。服は大好きですが、着ることと作ることは全然違うことだと認識していたので。きっかけは子どもができたことでした。14歳から芸能界に入り、この業界しか知らないで走り続けましたが、育児を通して初めて外の世界とつながりました。「私はこのままでいいのかな」「でも何をしたいか分からない」と悶々と考えながら数年を過ごしていたと今となっては思います。これまで事務所が環境を整えてくれていたことも実感しました。外の世界に身を置いて、新しいことに挑戦したいと思ったんです。

WWD:スタイリストの上杉美雪をクリエイティブ・ビジョン・ディレクターに、「コート(COATE)」の福屋千春デザイナーをクチュール・デザイナーに迎えたきっかけは?

榮倉:美雪さんとは10年以上、福屋さんとも5年以上の付き合いで信頼関係を深めてきました。経営者の友人に相談をした時に「上杉美雪さんの世界観を貫き通せるなら、自分でアパレルブランドができるかもね」とアドバイスをもらって「その手があったか」と膝を打ったんです。美雪さんには「私は服作りのプロではないので、福屋さんがいるなら」と言ってもらえたので、すぐに福屋さんにも声をかけました。二人とも快く受け入れてくれたのは、私のセンスを認めてくれたのだなと嬉しくなりましたね。私は二人が作る服を世の中に伝えること、そして美雪さんの世界観を守ることが使命だと思っています。

WWD:ファーストコレクションのテーマはモロッコだった。3人ではどのようなプロセスでコレクションを作っている?

榮倉:美雪さんがコレクションのムードを写真集で見せてくれて、そこから福屋さんがイメージを汲み取って生地を選び、アイテムに落とし込んでいきました。今シーズンは、美雪さんが持っていたモロッコにまつわる写真集からインスピレーションを膨らませました。美雪さんと福屋さんが交互にパスを投げ合って、イメージを固めていく流れです。

3人の共通点は、判断が早いこと。そして今回の受注会に間に合ったのは、福屋さんが生地集めから工場との交渉まで、本当に奔走して頑張ってくれたおかげです。3人それぞれの熱意があり、自分ができることをまっとうしている。良いチームワークが出来上がっています。

WWD:「変わりつづける今を生きる服」というコンセプトにこめた思いは?

榮倉:ここは3人で一番じっくり長く話し合って決めました。流行りをずっと追い続けることって、精神が擦り切れるなと思っていて。10年後に着ても、その時にまた新たな着こなしが楽しめる服を作りたかったんです。それこそが今欲しい、人生にリアリティーを持つ服だと。「真剣に作っている服だけで生きていけたら幸せだよね」「3人が本当に着たいと思う服を作り続けたいよね」、そんな対話を3人で続けながら、コンセプトを形にしていきました。

WWD:ファーストコレクションで特にこだわったところは?

榮倉:“華美じゃなく洗練されていて、力強いひと”だということ。ユニセックスなので“ひと”と表現します。服が好きでファッションを一通り経験してきたひとが「いいな」と思える服になったと思っています。

スタイリングによって魅力がより輝く服だと直接伝えたい

WWD:対面接客にこだわる芸能人発のアパレルブランドはあまり例がない。受注会場で自ら一般顧客にコレクションを紹介していた姿が印象的だった。

榮倉:ストイックなモノ作りをする福屋さんの服の魅力は、写真だけでは伝えられないと思ったんです。それに、美雪さんならではのスタイリングの幅の広さを直接伝えたかった。シアーワンピースの下にロゴTシャツを重ねた今着ているスタイリングのように、美雪さんの提案はいつも驚きと発見の連続です。スタイリストがディレクションしているからこそ輝く魅力や着こなしの楽しさを、お客さまと一緒に共有したいと思い受注会形式に決めました。

それにアパレルブランドは今、世の中にたくさんあります。その中で、少しでも目に留めてもらうためには、今までと違う売り方を考えないと。出合うきっかけは私に会いたいなと思ってもらえることだけでもいい。それで結果として「ニューナウ」のファンになってくれたら嬉しいです。

WWD:受注会を終えたばかりの今、率直な感想は?

榮倉:受注会を開いて本当に良かったと感じています。期間中はずっと会場に立って、声が枯れるほど喋り倒しました。試着室まで入って話し込んでいたので、私の熱い接客が邪魔だったお客さまもいたかもしれません(笑)。コレクションに対する反応を直接たくさん聞けたし、お客さまの服にさらりと合わせたらそれが素敵な着こなしになったりして、新たな発見もたくさんありました。さまざまな身長や体型の方に合うシルエットなのもわかり「ニューナウ」のポテンシャルに改めて気づきましたね。

WWD:特にどんなアイテムに反響があった?

榮倉:カシミヤシルクのロングスリーブニットやウールペインターパンツ。ジャカードで花柄をあしらったシアーアイテムのシリーズも人気でした。あとスエットやキャップといった“タイムレス”のラインも、たくさんオーダーをいただきました。親子で買ってくれたり、夫婦でシェアしてくれたりと、年齢や性別の幅広さも感じました。ユニセックスで提案しているので、男女問わず着られるデザインは今後も重視したいですね。

WWD:アイテムのプライスタグについているQRコードを読み取ると商品詳細のページにつながり、その商品が買えるというオーダー方法もスマートだった。

榮倉:バックオフィスにITに強いスタッフがいるので心強いですね。ECサイトでの販売がメーンになるので、ファッションとITの融合は大きなテーマ。今後も積極的に進めていきたいです。

裏方作業全てに関わり進行を細かくチェック

WWD:余剰在庫を持たない受注生産のスタイルで、サステナビリティも意識している。

榮倉:自分だけのために生きる世の中ではなくなっていることは、もうすでに明らかな事実ですよね。「ニューナウ」では余剰在庫を持たないことに加えて、受注会場の什器もなるべくリサイクルできるものを選んでいます。日々の生活で今、ゴミの量が本当に気になっているんです。自宅でコンポストを実践しているのですが、圧倒的にゴミの量が減りました。そんな私がアパレルブランドを始めることは環境への思いと相反する部分もありますが、在庫をコントロールしながら10年先も長く着られる服を作るなら無駄じゃないと思います。生産過程で生まれた残反を活用して小物を作りたいとも今考えています。

WWD:CEOとして初めての経験もたくさんあった?

榮倉:バックオフィスのスタッフに頼りっぱなしで、経営についてはまだまだ勉強中です。でも受注会を終えて、皆で作り上げたという達成感をやっと感じることができました。限りなく完璧な形でローンチしたかったので、全ての進行に関わり細かく目を配りました。事務手続きから会場の掃除まで、なるべく自分で。アパレル企業の裏方は決して華やかではなく、地道な作業の連続です。山あり谷ありで「もう無理かも、間に合わない」と何度も心が折れかけましたが、これで夢を与えられるなら幸せな仕事だなと感じています。

そして改めて、自分が今までいた環境はいかに整えられていたかを痛感しています。服作りだけでなく「社会はこんな風にできているんだ」ということを日々教えられ、鍛えられていますね。その修行をしたくて経営者になると決めたので、やりがいを感じています。

WWD:今後どのようなことに取り組みたい?

榮倉:マネジメントの立場として、ブランドをどう伝えるかをじっくり考えたいです。服自体に非常にポテンシャルがあるので、言葉だけでなくどう見せていくかのブランディングとコミュニケーションが課題ですね。今までSNSにコミットしてこなかったので、今、試行錯誤しています。受注会の前日にインスタライブを開催しましたが、個人評価としてはまだまだ(苦笑)。SNSは今後も積極的に活用して、顧客と近い距離でブランドの魅力を伝えていきたいですね。

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