ホンジュラス共和国は、北をカリブ海、南を太平洋に接する中米の国です。世界遺産であるマヤ文明の遺跡や、カリブ海でも屈指のダイビングスポットがあり、欧米人には高級リゾート地として知られています。しかし、外務省の海外安全情報で危険度レベル2(不要不急の渡航中止)以上の地域が多く、「人口あたりの殺人事件発生率が世界で最も高い国の1つ」と説明されています。国民の多くが貧困に苦しんでいます(注1)。
クーデターによる政情不安や、ハリケーンなどの自然災害、ギャングの存在による治安問題に悩まされ、その影響で「移民キャラバン」が一気に増加。ホンジュラス共和国と隣国の人々の数千人が一団となり母国を離れる決意をしてアメリカを目指す姿は国際社会にも影響を与えました。
本記事ではホンジュラス共和国の現状、課題を解説します。貧困に苦しむホンジュラス共和国の人々に対して私たちができることを考えてみましょう。
ホンジュラス共和国の現状を解説します。
ホンジュラス共和国は中南米の最貧国の1つとして知られています。農業に依存した産業構造に加え、頻発する自然災害が経済発展の妨げになってきました。
治安も悪く、世界的にみても殺人事件が高い水準で発生している国であり、現在も麻薬組織やギャングの存在は人々の暮らしを脅かしています。
ホンジュラス共和国では、日本の約3分の1の国土に約975万人が暮らしています。首都はテグシガルパで、公用語はスペイン語です(注2)。
中南米の最貧国の1つと言われ、国民の約48.3%が国の貧困ライン以下で生活しています。国民の約70%は農業で生計を立てていますが、バナナ、コーヒーなど一次産品へ依存する現状です。海外製造業の誘致や観光業など新たな産業の育成を図っていますが発展の途上にあります(注3)(注4)。
子どもたちの貧困はさらに深刻で、国の貧困ラインを下回る割合は74%です。食料不足、栄養不良により、5歳未満の子どもの2割以上は年齢に比べ発育が遅れています。
中米地域のホンジュラス共和国は、地震、風水害、土砂災害、火山災害など自然災害が多く、住民の命を危険にさらし、また経済発展の妨げになってきました。
とくに被害が大きいのはハリケーンです。1998年の「ハリケーン・ミッチ」では約14,600名が命を落としたうえ、当時の名目GDPの約68%にあたる約36億ドルが失われました。農業に偏った産業構造はより深刻な被害を拡大させたと言えるでしょう(注5)。
2020年にも1カ月足らずの間に、2つの大型ハリケーン「エタ」「イオタ」がホンジュラス共和国を襲いました。国民の450万人以上が影響を受けたと言われています(注6)。
さらに地球の気候変動の影響で乾期が長期化したことにより干ばつも深刻です。トウモロコシなど多くの農家が栽培している作物の不作により食料危機が起こっています。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、さらなる温暖化の影響により今後も海面上昇、干ばつ、大雨などリスクが高まる可能性が懸念されています。(注7 p.28)。
ホンジュラス共和国は2011年には、殺人による死者数が世界最悪と言われる水準にありました。現在も凶悪犯罪はあとを絶ちません。
ギャング集団「マラス」などによる銃器、薬物の密売をめぐる抗争により殺人事件が頻発しています。さらに一般市民に対する殺人、放火なども発生しています。また、カリブ海沿岸や近隣諸国との国境で活発に活動する麻薬組織は、治安悪化の大きな要因です(注8)。
恐喝、虐待、レイプなど非道を尽くすギャングの存在により、人々の生活は脅かされています。一部の裕福な家庭を狙った、犯罪組織による身代金目的の誘拐事件も問題化しており、外務省は「日本人が誘拐の対象となる可能性は排除できない」と注意喚起しています。
こうした不安定な政治も治安悪化の原因の1つと言えるでしょう。
ホンジュラス共和国での貧困や犯罪組織による暴力の危機に耐えかねた人々は国内からの脱出を試みます。
目指す先はメキシコを経由してのアメリカです。しかし非正規ルートで不法移民としての旅路では道中で亡くなるケースもあります。
またアメリカや途中の国の国境が閉ざされ強制送還されるケースも少なくありません。その後、さらに悲惨な貧困状況に悩まされています(注9)。
ホンジュラス共和国からアメリカへの移民を希望する何千人もの集団「移民キャラバン」が初めて報告されたのは2018年です。
従来、母国からの脱出行動は人目につかないよう秘密裏に行われるのが一般的でした。しかしSNSで拡散された影響で続々と参加者が増え、子ども連れの家族も加わるようになったと言われます。しかし道中は危険と隣り合わせで、命を落とす移民も少なくありません(注10)。
また2021年にアメリカで政権が変わり、それまで移民に対して取られていた厳しい政策が緩和されるものと期待されてました。
しかし2021年12月、アメリカは難民申請者をメキシコに待機させる制度を再度設けました。一度は「非人道的」として撤回された制度の復活により、移民キャンプでの犯罪や暴力行為を誘発しかねないと懸念されています。
ホンジュラス共和国では220万人以上が食料不安の状態にあり、これは全国民の24%にあたります(注11)。
原因は食料と燃料の価格高騰やトウモロコシ・豆などの穀物生産が減少しているためです。ハリケーンの自然災害も作物の不作に影響しています。
総合的食料安全保障レベル分類(IPC)の危機レベルによると、緊急度が2番目に高いフェーズ4には24万人が該当します。「人道的危機」「緊急事態」と定義され、急性栄養不良や飢餓による死亡のリスクが急速に高まっている状態です。
さらに、少なくとも190万人が「急性食料不安」の危機にあるフェーズ3と報告され、とくに農村地域では穀物やコーヒーの生産者の間で食料不足に苦しむ人々の割合も高くなる傾向にあります(注11)。
ホンジュラス共和国の子どもたちの権利は深刻な危機にさらされています。
ホンジュラス共和国では、青少年のギャング集団が麻薬密売、誘拐、殺人、強盗などの組織犯罪を行っています。子どもや若者が新たにギャングの一員になるケースも続いてきました。
ギャング集団は次の世代を巻き込んで存続を続け、治安悪化や政情不安の連鎖を引き起こしているのです。
ギャングのメンバーによれば、年齢で最も多いのは11歳から20歳であり「拉致がきっかけ」でグループに加わったケースもあるようです。ギャングへの加入を拒んだ子どもが殺害される痛ましい事件も起こっています。
ギャンググループの5人に1人は女性ですが、他のメンバーから性的搾取を受けている場合も少なくありません(注12)。
ホンジュラス共和国では望まない妊娠が多いにもかかわらず、中絶が禁止されています。レイプや近親相姦が原因で妊婦の命が危険な場合や重度の胎児障害が見つかっても中絶は禁止という世界的にも珍しい国です。
緊急避妊薬の販売、使用、中絶そのものは懲役刑になると定められています。ホンジュラス共和国の農村地域では、思春期の少女の妊娠率が30%に達し、原因の多くはレイプと近親相姦の犯罪の結果です。
国際基準に従った安全かつ合法的な中絶が認められるべきと、国連の人権専門家は指摘しています(注13)。
ワールド・ビジョンは、ホンジュラス共和国の人々が安心して暮らせるよう、食料や水の配布、教育や学校の支援活動を行っています。
治安が悪く、災害が多い地域だからこそ、緊急性が高く的確な支援が必要です。人々の命を救い、子どもたちが十分な教育を受けられるようにサポートを続けています。
また支援活動の資金は、皆さまからの温かい寄付によってまかなわれています。
ホンジュラス共和国では、食料危機への緊急支援を必要としています。それだけではなく、生活水準を上げるために以下の対応策も必要です。
暴力から逃れようと移民となった人々が強制送還されれば、以前のコミュニティでさらなる危険にさらされます。
子どもたちが再び学校に受け入れられるのは、両親の仕事探し同様に極めて困難であり、移民となった人々への支援は欠かせません。
ワールド・ビジョンはホンジュラス共和国で、貧困や暴力から子どもたちを救うためにさまざまな活動を行っています。
重要なのは、その地域が今、必要な支援を適切に行うことです。
例えば新型コロナウイルス感染症の拡大や自然災害発生、治安悪化などの緊急支援が必要な場面では、衛生キットや食料の配布などを通じて命を守る活動を優先します。
情勢が落ち着いた後は、教育の再開を支援するなど地域の持続的な発展につながる活動へ移行していきます。
ホンジュラス共和国に暮らすオマールくん(6歳)は立て続けに、学校、住まい、家族を失った経緯がある子どもです。
「ハリケーンが襲って、家が壊されちゃったんだ。大雨のため電線が切れて火事が起きて、水は家の天井にまで届きそうだった。そのころ学校は新型コロナのせいでずっと休みだったから、家族で学校に避難したんだ」
ワールド・ビジョンでは、避難所である学校で子どもが安心・安全に過ごせる場所(チャイルド・フレンドリー・スペース:CFS)を運営しています。被災した子どもたちの心身に必要なサポートを行っています。
当初、災害の記憶に怯えていたオマールくんは、スタッフの支援により、少しずつ心を開き、落ち着きを取り戻していきました。しかし、オマールくんの元に再び悲劇が訪れます。
オマールくんの父は避難所である学校の前でギャング集団による銃撃に遭いました。オマールくんは目の前で父を失ったのです。
その後、ワールド・ビジョンではそれまで以上にオマールくんとその家族のケアを続けています。
ホンジュラス共和国のような危険地域では、家族や友だちなどを失う子どもたちが大勢います。心のケアを必要とする子どもたちを中心に、悲しみを乗り越えて前に進むためのサポートが必須です。
ワールド・ビジョンでは、開発途上国の課題解決のための支援の1つとして、プロジェクト・サポーターを募集しています。
紛争や感染症などの危機にさらされている子どもたちの命を救う「緊急支援」や、水道設備の建設や心のケア、教育など「長期的な支援」により子どもたちの暮らしを守れる寄付金です。
寄付額は1,000円単位で任意の金額に設定いただけます。支払い方法は、クレジットカード払いまたは口座振替です。
プロジェクト・サポーターとして毎月1,000円の寄付を1年続けていただくと、1カ月分の抗菌石けんを12世帯に提供できます。
現在、多くの難民は衛生的とは言えない狭いテントで密集して暮らしています。新型コロナウイルスは当然、難民キャンプの身近にもあり、もし感染拡大が起きたら、悲惨な事態になるでしょう。
プロジェクト・サポーターには、メールマガジンや年に一度、年次報告書を郵送します。メールマガジンでは子どもたちの様子や最新の活動状況を、年次報告書ではご寄付で実現した成果や会計について詳細を報告しますので、お受け取りください。
なお、ワールド・ビジョン・ジャパンへの支援金は寄付金控除の対象です。
プロジェクト・サポーター参加のお手続きはホームページで承っています。支援内容についての詳細や個人情報などを入力するだけで、簡単に申し込みいただけます。
注1 外務省:ホンジュラスの危険情報
注2 外務省:ホンジュラス基礎データ
注3 国連世界食料計画:ホンジュラスって、どんな国?
注4 世界銀行:Poverty & Equity Brief Honduras
注5 JICA:「ホンジュラス ハリケーン・ミッチ20年のつどい」式典
注6 世界銀行:An unprecedented response to an unprecedented disaster in Honduras
注7 IPCC:第6次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠) P.28 C.2.3
注8 外務省:海外安全情報
注9 UNICEF:チャイルドアラート| 2018年8月
注10 JETROアジア経済研究所:新型コロナ禍下の中南米移民
注11 国連人道問題調整事務所:Honduras: Integrated Food Security Phase Classification Snapshot | December 2021 - August 2022
注12 UNICEF:ホンジュラス:ユニセフが支援する調査が明らかにしたギャングの実態
注13 国連人権高等弁務官事務所:Honduras: UN experts deplore further attacks against right to safe abortion
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