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これが新時代のホンダデザインか? 「Honda 0シリーズ」に宿るミニマルデザインの可能性

2024.01.26 デイリーコラム 渕野 健太郎

「ホンダe」と「ホンダ0シリーズ」の違い

皆さんは、今のホンダにどんなイメージを抱くしょう? 私は「親しみやすさ」「スポーティー」「ユニーク」といったところでしょうか。特に日本市場だと、「N-BOX」や「フィット」「ステップワゴン」などを見て、生活に根づいた「親しみやすさ」を一番に感じます。アメリカでは「シビック」「アコード」「CR-V」あたりが売れ筋ですが、こちらもデイリーに使うイメージで、いわゆる「大衆車」だと思います。

電気自動車(EV)「ホンダe」のデザインは初代シビックのオマージュだと思いますが、まさに「親しみやすさ」を表現した、人々の日常生活になじみやすいミニマルデザインがいいなと思っていました。なので生産終了とのニュース(参照)を聞いて、残念に思いましたね。商品としてネックだった点はさまざまな要因があると思いますが、デザイン的な視点でいうならば、価格とのアンバランスでしょうか。現状、EVはエンジン車と比べて、どうしても価格が高くなってしまいます。ホンダeはシンプルながら細部まで質の高いデザインだったのですが、「値段相応」には見えてなかったのかもしれません。

今回の「Honda 0(以下、ホンダ0)シリーズ」は、ミニマルデザインを踏襲しながら、より価格にふさわしい付加価値があるクルマを目指していると思います。「共鳴を呼ぶ芸術的デザイン」をコアバリューの一つとして掲げていますが、「芸術的」という言葉はなかなか言えないものなんですね。それだけ付加価値が重要だと考えていると思います。

このクルマはモノだけではなく、非常につくり込んだコンセプトムービーがあるので世界観がわかりやすいのですが(コンセプトカーでここまでつくり込まれたムービーがあるのも珍しいですね。気になる方は検索してみてください)、私が感じたこのムービーのイメージは、「スマート」「知的」「パッション」でしょうか。他のブランドでいうと、アウディ的なイメージを感じました。このムービーを見る限り、これまでのホンダのコモディティー的なポジションとは違う、もっと高価格で、感度の高い人に向けたクルマを想像しました。

「CES 2024」にて世界初公開された「Honda 0シリーズ」のコンセプトモデル「SALOON(サルーン)」。ドアは前後一体のガルウイング式となっている。
「CES 2024」にて世界初公開された「Honda 0シリーズ」のコンセプトモデル「SALOON(サルーン)」。ドアは前後一体のガルウイング式となっている。拡大
プレスカンファレンスにて、「Honda 0シリーズ」について説明する本田技研工業の三部敏宏社長。同シリーズは「Thin, Light, and Wise.(薄い、軽い、賢い)」というアプローチのもとに開発されるホンダの次世代EVで、2026年の導入が予定されている。
プレスカンファレンスにて、「Honda 0シリーズ」について説明する本田技研工業の三部敏宏社長。同シリーズは「Thin, Light, and Wise.(薄い、軽い、賢い)」というアプローチのもとに開発されるホンダの次世代EVで、2026年の導入が予定されている。拡大
コンセプトモデルの「SPACE-HUB(スペース ハブ)」と、ホンダの新しいEV製品群に採用される、新しい「H」マーク。
コンセプトモデルの「SPACE-HUB(スペース ハブ)」と、ホンダの新しいEV製品群に採用される、新しい「H」マーク。拡大
2020年に発表された「ホンダe」。ドイツのデザイン賞「レッド・ドット・デザイン賞」において、プロダクトデザイン賞(自動車)の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞するなど、そのデザインは世界的に高く評価されていた。
2020年に発表された「ホンダe」。ドイツのデザイン賞「レッド・ドット・デザイン賞」において、プロダクトデザイン賞(自動車)の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞するなど、そのデザインは世界的に高く評価されていた。拡大
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「SALOON」のデザインに見る独自性

「SALOON(サルーン)」は、低く、長く、幅広い、普遍的な高級車にふさわしいディメンションなのですが、大胆なワンモーションフォルムで独自性を出しています。

前後でタイヤ径が違うと思うのですが、おそらく後輪を大径にして前傾姿勢を強調してますね。また無駄を削(そ)ぎ落としたミニマルデザインなのですが、高級車に必須の「情感」もあります。

平らなフロントガラスや、ミニバンくらい立ったサイドガラスなど、立体そのものもかなり独自性の強いデザインなんですよね。普通はキャビンがどのビューから見てもハの字で、かつタイヤがそれをしっかり支えていることで、いわゆる「スタンスのよさ」を表現します。が、このクルマはそのセオリーではなく、特に真正面のビューは四角い、つぶしたミニバンみたいに見えているのが面白いですね。

前後の四角い口が、ダイナミックな造形の“始点”と“終点”になっているのですが、このあたりも単純な面構成で、ミニマルデザインを志向していることがわかります。顔まわりはもう一つ造形を足してもいいかなと思ったりもしましたが、今回はシンプルに徹したのだと思います。カーデザインとして非常に新しいですね。これまでにない造形の一つだと感じました。

一点だけ言うとすると、ワンモーションのシルエットなので、おそらく乗員とフロントガラスはかなり離れていると思うのですが、Aピラーは乗員から離れるほど、または角度が寝るほど、視界が悪くなるものです。ホンダ0シリーズはドライビングプレジャーをウリの一つとしていますが、直感的に「運転しにくそう」と思ってしまいました。そこはテクノロジーで補完できるのならいいんですけどね。

「サルーン」のサイドビュー。低い車高とシンプルなワンモーションフォルムが特徴で、ウエッジシェイプのフロントまわりと底部が跳ね上がったリアまわり、強く張り出したリアフェンダーがスポーティーだ。
「サルーン」のサイドビュー。低い車高とシンプルなワンモーションフォルムが特徴で、ウエッジシェイプのフロントまわりと底部が跳ね上がったリアまわり、強く張り出したリアフェンダーがスポーティーだ。拡大
多くのクルマが上部をすぼめてキャビンをデザインするのに対し、「サルーン」ではミニバンのようにドアパネルが真っすぐに立っている。これにより、車内空間の圧迫を低減しているのだ。
多くのクルマが上部をすぼめてキャビンをデザインするのに対し、「サルーン」ではミニバンのようにドアパネルが真っすぐに立っている。これにより、車内空間の圧迫を低減しているのだ。拡大
「サルーン」のインストゥルメントパネルまわり。このデザインのクルマが市販されたとして、Aピラーによる視野の阻害をどう解消するのか。気になるところである。
「サルーン」のインストゥルメントパネルまわり。このデザインのクルマが市販されたとして、Aピラーによる視野の阻害をどう解消するのか。気になるところである。拡大
背の低いスタイルが特徴の「サルーン」だが、先述のサイドパネルや薄型の電動プラットフォームにより、車内には十分な空間を確保しているという。
背の低いスタイルが特徴の「サルーン」だが、先述のサイドパネルや薄型の電動プラットフォームにより、車内には十分な空間を確保しているという。拡大

「SPACE-HUB」のホンダらしいデザイン

「SPACE-HUB(スペース ハブ)」のほうは、基本構成はサルーンと同じなのですが、シルエットや立体の絞り方はもう少し常識的な造形ですね。顔まわりはどこかファニーな印象もあって、なんとなくこれまでのホンダのイメージや、ホンダeとの類似性も感じられます。

リアにガラスがありませんが、一部のスーパースポーツや「ポールスター4」などですでに市販されているように、後方視界が完全にカメラに置き換わるとすると、いずれこのようなクルマが多くなると思います。

インテリアはリビングにインストゥルメントパネル(インパネ)や操作系がついているようなイメージで、明快でいいですね。インパネの存在感をできるだけなくすことが、最近のインテリアデザインのトレンドだと思います。このクルマも居住空間にインパネが浮いているような構成で存在を軽く見せており、かつ、どこか現実的で市販車にも転用できそうなボリューム感になっているところがいいと思います。

サルーンのほうもそうなのですが、インパネ全面をおおうモニターを見ると、その画面自体に折れなどの造形がされており、まわりの造形ともなじんでいるので、大画面でも圧迫感がなさそうでいいですね。ホンダeの四角い画面を並べたものから進化していて、ぜひ市販車にも搭載してほしいところです。

「スペース ハブ」のリアクオータービュー。デジタルミラーの普及により、今後はこうした「リアウィンドウのないデザイン」が増えるかもしれない。
「スペース ハブ」のリアクオータービュー。デジタルミラーの普及により、今後はこうした「リアウィンドウのないデザイン」が増えるかもしれない。拡大
インストゥルメントパネルは一面がディスプレイとなっており、ダッシュボードから浮いたように設置されている。リビングのソファを思わせる、内装のしつらえにも注目。
インストゥルメントパネルは一面がディスプレイとなっており、ダッシュボードから浮いたように設置されている。リビングのソファを思わせる、内装のしつらえにも注目。拡大
広々とした車内空間と見晴らしのよさも「スペース ハブ」の特徴。ホンダいわく「人々に“暮らしの拡張”を提供するモビリティー」とのことだ。
広々とした車内空間と見晴らしのよさも「スペース ハブ」の特徴。ホンダいわく「人々に“暮らしの拡張”を提供するモビリティー」とのことだ。拡大
「スペース ハブ」のサイドビュー。「Honda 0シリーズ」のコンセプトモデルは、いずれもシンプルを突き詰めた意匠となっている。
「スペース ハブ」のサイドビュー。「Honda 0シリーズ」のコンセプトモデルは、いずれもシンプルを突き詰めた意匠となっている。拡大
これらのコンセプトモデルがそのまま市販化される可能性は低いが、ホンダにはぜひ、両車で提唱した“新しいミニマルデザイン”を市販車にも反映してほしい。
これらのコンセプトモデルがそのまま市販化される可能性は低いが、ホンダにはぜひ、両車で提唱した“新しいミニマルデザイン”を市販車にも反映してほしい。拡大

これからも「ミニマルデザイン」を追求してほしい

ホンダデザインのここ数年のミニマルデザイン志向は、個人的にはとてもいいと思います。一般的なメーカーはどこも存在感、ひいては威圧感を表現したものが多いなか、違いを出していますね。しかし、例えば国内ならフィットやステップワゴンなど、販売に結びついていない現実があります。ホンダが考える理想のお客さんと現実のお客さんに、ギャップがあったと思うんですよ。

そうしたなかにあって、ホンダは今回のホンダ0シリーズで、新たなミニマルデザインを提案してきました。それはこれまでと違い、高価格でも見合うものを目指していると思います。これからのホンダに期待したいですね。

(文=渕野健太郎/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

 
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渕野 健太郎

渕野 健太郎

20年選手だったカーデザイナーを「体力の限界」ということで現役引退。現役時代は「自称」エース格としてさまざまな試合に投入され、結果を出してきた(と思う)。引退後は監督やコーチにはならず、チームを離れセカンドキャリアを選択。これまで育ててくれた自動車業界への恩返しとして、自動車の訴求活動を行う。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業。

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