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ケータハム・スーパーセブン1600(FR/5MT)

“セブン”という名の最後の魔法 2022.04.11 試乗記 田村 十七男 往年の「ロータス・セブン」を源流とするスポーツカーを、今なおつくり続けるケータハム。その走りを今の時代に味わうというのは、どのような行為なのか? 軽さがかなえる異次元のフットワークとクラシックな意匠を併せ持つ、「スーパーセブン1600」で確かめた。

始祖から60年以上を経ても実在する新車

「小さめのスニーカーを持参することをオススメします」

webCG編集部のホッタ青年が、例によって朗らかな声で電話をかけてきたのは取材前日の晩だ。事前に集合場所や時間をきっちり伝える彼が、当日前夜にわざわざ連絡してくるのは珍しいことだった。なのでつかの間、いぶかる思いを無言で発していたら、それを察知したのか「明日になればわかりますよ」と言って電話を切った。理由を言えよ、言わないと不安になるだろと返す間も与えず……。

そうして翌朝、僕はケータハム・スーパーセブン1600の横に立った。全長3380mmで全幅1575mmのそれは明らかに小ぶりな体格なのに、都会の真ん中を悠然と歩くトノサマガエルのように、「ここにいてなにか問題でも?」と言いたげに見えた。要は存在感が果てしなく異様で強力なのである。

クルマ事情に疎い僕でも、スーパーセブンの概要は知っている。英国のロータス・カーズが1957年に発表し、70年代中盤までつくっていたロータス・セブンが大本の出自。完成車だけでなく郵便配送が可能なキットカーの販売もあったと聞いて、かの国のクルマに対するおおらかさに感心したのはずいぶん昔のことだ。

さておき、ロータスがセブンの生産を中止すると、その販売事業を手がけていたケータハムが製造権を手に入れ、基本構成はそのままで生産を継承。似たような他社名義のセブンもあったと記憶しているが、いずれにしても、始祖の登場から60年以上経てもなお、本家の血筋を引くケータハムが存続させた“新車のセブン”を目の当たりにして、僕はしばし言葉を失った。温故知新を繰り返しながら脈々とつくり続けられていたとは! ホッタ青年、知らなかったのは僕だけなのかな?

「セブン270S」をベースに、往年のスポーツカーを思わせるデザインを取り入れた「スーパーセブン1600」。こうした意匠のモデルとしては、過去に「セブン スプリント」「スーパーセブン スプリント」なども設定されていた。
「セブン270S」をベースに、往年のスポーツカーを思わせるデザインを取り入れた「スーパーセブン1600」。こうした意匠のモデルとしては、過去に「セブン スプリント」「スーパーセブン スプリント」なども設定されていた。拡大
必要なものを必要な箇所に配しただけのシンプルかつミニマルなインテリア。ヒーターは備わるが、エアコンやオーディオなどは有償でも選べない。
必要なものを必要な箇所に配しただけのシンプルかつミニマルなインテリア。ヒーターは備わるが、エアコンやオーディオなどは有償でも選べない。拡大
ダッシュボードにエンボス加工であしらわれた「SUPER SEVEN 1600」のロゴ。2020年6月に発売された「スーパーセブン1600」だが、すでに生産は終了しており、今は在庫販売のみが行われている。
ダッシュボードにエンボス加工であしらわれた「SUPER SEVEN 1600」のロゴ。2020年6月に発売された「スーパーセブン1600」だが、すでに生産は終了しており、今は在庫販売のみが行われている。拡大
かつてはF1にも手を出すなど、拡大路線をとる時期もあったケータハムだが、今は初心にかえって少量生産のスポーツカーづくりに専念。2021年4月に、日本のVTホールディングスの傘下に入った。
かつてはF1にも手を出すなど、拡大路線をとる時期もあったケータハムだが、今は初心にかえって少量生産のスポーツカーづくりに専念。2021年4月に、日本のVTホールディングスの傘下に入った。拡大
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「This is me!」

しゃべれないままだとご迷惑をおかけするのでカタログを読み上げる。目の前の、というより全高が1115mmしかないので、足元の、と表したほうが正しいスーパーセブンは、2020年6月に国内販売が始まった新しいモデルらしい。フォード製シグマ1.6リッターエンジンを搭載した「セブン270S」をベースに、ヘリテージ感あふれる装備――フレアードフロントウイング、14インチ・クラシック・アロイホイール、最後部にマウントしたスペアホイール&キャリア、レザー内装等――を施したという。

新車のセブンを目の当たりにして一時的な失語症に陥ったのは、もうひとつ理由があった。折に触れ走る姿は見たことがあっても、自分が運転するのは今日が初めて。ゆえに乗り方がわからなかったのだ。たじろぐ僕を目ざとく発見したホッタ青年は、「こうしたほうが楽ですよ」と言いながら黒いソフトトップを剝がし始めた。見る間に全裸、いやオープンスタイルとなったセブンは、桜が満開になった週の花冷えなどまるで気にせず、誇らしげに「This is me!」と歌い出しそうな軽やかな姿に変わった。

時系列が逆になるが、後にソフトトップをつけて乗り込むのは本当に大変だった。ドアと呼ぶべき側面の風防を開けただけでは、上手に体を入れ込めない。低い天井に合わせて首を曲げ肩を差し込み、なおかつ最後に右足を詰め込むときには股関節までもが悲鳴を上げた。クローズド状態での乗降には、日ごろから実践すべきセブン専用のストレッチが不可欠だと思う。それほどにこのクルマの運転席はタイトなのだが、オープンであれば天が抜けるので確かに乗降は楽になる。それでも普通車に比べれば困難だが。

ボディーサイズは全長×全幅×全高=3380×1575×1115mmと、現代のクルマにあるまじき小ささ。オプションでワイドボディーの設定もあったが、試乗車は標準仕様のナローボディーだった。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=3380×1575×1115mmと、現代のクルマにあるまじき小ささ。オプションでワイドボディーの設定もあったが、試乗車は標準仕様のナローボディーだった。拡大
革巻きのダッシュボードはオプションで、標準仕様は黒のアルミパネルである。シート表皮はレザーが標準で、ブラックに加え5種類の有償色が用意されていた。
革巻きのダッシュボードはオプションで、標準仕様は黒のアルミパネルである。シート表皮はレザーが標準で、ブラックに加え5種類の有償色が用意されていた。拡大
ビートの利いた控えめな低音を奏でるサイドマフラー。運転席の側方を通るので、降車の際はヤケドしないようご用心である。
ビートの利いた控えめな低音を奏でるサイドマフラー。運転席の側方を通るので、降車の際はヤケドしないようご用心である。拡大
運転席の後方に備わる荷室。ソフトトップを張ると、容易に荷物の出し入れができないところが悩ましい。
運転席の後方に備わる荷室。ソフトトップを張ると、容易に荷物の出し入れができないところが悩ましい。拡大

座っただけで異次元

誰も入っていないコタツに滑り込むように足を投げ出して着座。目の前にはスミスのメーターとモトリタの小径ウッドハンドル。ずいぶん前に英国車専門店で見たきりのブランド名を確認して、キットカーの出自を思い出す。

シフトレバーはシルバーメッキの球形タイプ。試しに触ってみたら、極端にストロークが短く、カチッとギアチェンジができる予感がした。右ヒジは外に出すしかない狭いシートに収まったまま、背中をよじらせながら3点シートベルトを装着。イグニッションキーをひねって通電を確認したら、キーを揺らしてハンドル左奥の赤ランプが消えるのを待つ。詳しく聞かなかったが、セキュリティーシステムの解除を待つためらしい。

これら一連の儀式を経て、これまたハンドル左脇の赤いエンジンスタートボタンをプッシュ。グボボゥといううなり声はエンジンからなのか、運転席の横に突き出るマフラーからなのか判別不能。思ったほどエンジンの振動が体に伝わってこないと感じたのも、始動の過程で感覚がマヒしたせいかもしれない。

セブンは座っただけで異次元。なんだか別の宇宙に連れていかれるような気分になった。唯一、これが地上の現実と悟らせてくれたのは、左右に動くウインカーのトグルスイッチだった。使用頻度の高い箇所にこの形式のスイッチでは長くは持たないだろうと、蚊の鳴くような頼りない作動音を聞いていくらか冷静になれた。

アシストなしのハンドルをグイッと回して路肩を離れる。リアアクスルの直前に位置する運転席からフロントサスペンションまでかなり距離があるだろうに、ステアリングシャフトの動きは意外にも繊細で、拳半個でくいっと向きを変える。

視界の右端で路面が流れていくのを感じながら、最初の交差点で停止する際、前夜のホッタ青年の言葉がよみがえった。小さめのスニーカーは、両足のくるぶしが終始当たっているんじゃないかと錯覚するくらい狭いスペースに配置されたペダルを操作、というより踏み分けるために必要だったのだ。特に中央のブレーキペダル。サーボによる踏力支援がないこともあり、初めて足先を乗せたときは本当に踏めているのか不安になった。慣れるまでは、もしや自分の足を踏んでいるんじゃないかと何度も確かめたほどだ。確かめるといっても、運転中に目視できる位置にペダルがあるわけではないのだけど。

ステアリングホイールはモトリタ製。標準仕様は黒革巻きだが、試乗車にはオプションのウッドステアリングが装備されていた。
ステアリングホイールはモトリタ製。標準仕様は黒革巻きだが、試乗車にはオプションのウッドステアリングが装備されていた。拡大
ゴキゴキとした操作感のシフトノブ。ストロークは非常にショートで、本当に手首の動きだけで操れる。
ゴキゴキとした操作感のシフトノブ。ストロークは非常にショートで、本当に手首の動きだけで操れる。拡大
運転席のフットスペースはご覧のとおりの狭さ。フットレストなどないのはもちろん、ペダル間も近いため、ソールの張り出したクツで運転するのはご法度だ。
運転席のフットスペースはご覧のとおりの狭さ。フットレストなどないのはもちろん、ペダル間も近いため、ソールの張り出したクツで運転するのはご法度だ。拡大
ダッシュボードにはスミス製のクロームメーターを標準装備。ウインカーは、油圧計の右下に備わる小さなトグルスイッチで操作する。
ダッシュボードにはスミス製のクロームメーターを標準装備。ウインカーは、油圧計の右下に備わる小さなトグルスイッチで操作する。拡大
ブレーキもステアリング機構も“ノンアシスト”。制動時には力を込めてブレーキペダルを踏む必要があるが、車重が軽いこともあって、“利き”そのものは良好である。
ブレーキもステアリング機構も“ノンアシスト”。制動時には力を込めてブレーキペダルを踏む必要があるが、車重が軽いこともあって、“利き”そのものは良好である。拡大

クルマ好きにとって最後の福音

あらゆるフィーリングが特殊だった。実スピードと体感速度のギャップが大きすぎる。これはソフトトップ装着時(その日はあまりに寒く、わがままを言ってつけてもらった)に顕著だった。2速あたりで一気にスロットルペダルを踏み込んでみたら、なにが響き渡っているのかわからないが、とにかくごう音が室内に渦巻く。もしやと見たら回転計はレッドゾーンに達しているが、車速は60km/hを少し上回る程度。体感的にはその倍近くまで出ていると思ったが、すぐさま加速度で背中がシートに張り付いた記憶がなかったことに気づき、これもセブン・マジックなのだと悟った。

コーナリングもそう。曲がるというよりは折れる感じ。車体の最後部付近に座り、長い鼻先を視界の中に置いて舵を切っていくから、そんな感覚になるのだと思う。人馬一体という言葉があるけれど、セブンと人は混ざり合うのではなく、馬は馬のまま、人は人のままで互いの融通をいかに利かせていくかを楽しむ。これはそういう乗り物ではないだろうか。生粋のセブン乗りには拒まれるかもしれないが、個人的にはそういう結論に達した。

単刀直入に、スーパーセブンは有りや無しかを自らに問えば、有りだ。このジャッジは憧れが支えになっている。こんなクルマを維持していくには、相応の裕福さ以上に趣味に人生をささげられる覚悟が必要だろう。その道を選び楽しそうに暮らす大人たちに触れて、若い頃の自分は心から憧れた。当時の夢や希望を大人になった自分が否定するわけにはいかない。

それから、かつては想像もしなかった社会の変革。僕も辛うじて寿命が尽きぬうちに、新しいガソリンエンジンはつくられなくなるらしい。そうした、油の匂いが漂う時代の終焉(しゅうえん)間近に、スーパーセブンという極めてプリミティブな、クルマの形をした玩具を手にできる選択肢が残されている事実は、それを知る者にとって最後の福音になるのだろう。

「どこからどう見てもクルマ好きにしか見えませんよ」

シートに座ったままホッタ青年に声をかけられて、再び言葉を失った。なぜなら、そう言われるまでセブンの魔法に浸りきっていた自覚がなかったからだと思う。たぶん僕はニヤニヤしていたのだろう。

(文=田村十七男/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

動力性能については、0-100km/h加速が5秒、最高速が195km/hと公称されている。上位モデルの「480S」や「620R」などと比べれば控えめだが、十分に速いクルマだ。
動力性能については、0-100km/h加速が5秒、最高速が195km/hと公称されている。上位モデルの「480S」や「620R」などと比べれば控えめだが、十分に速いクルマだ。拡大
エンジンは最高出力135PSのフォード製1.6リッター直4 DOHC。ボア×ストロークは79.0×81.4mmというロングストローク型で、扱いやすいトルク特性を実現している。
エンジンは最高出力135PSのフォード製1.6リッター直4 DOHC。ボア×ストロークは79.0×81.4mmというロングストローク型で、扱いやすいトルク特性を実現している。拡大
サスペンションは前がダブルウイッシュボーン、後ろがドディオンアクスル。1985年から受け継がれる、伝統の形式だ。
サスペンションは前がダブルウイッシュボーン、後ろがドディオンアクスル。1985年から受け継がれる、伝統の形式だ。拡大
これも「スーパーセブン1600」の特徴である、クラシックな8スポークのアルミホイール。色はシルバーが標準だが、カスタムペイントも可能となっていた。
これも「スーパーセブン1600」の特徴である、クラシックな8スポークのアルミホイール。色はシルバーが標準だが、カスタムペイントも可能となっていた。拡大
余計なものを徹底的にそぎ落とし、走りの楽しさのみを追求し続けるケータハム。時代に合わせ、電気自動車の開発も進めているという。新しい時代のケータハムにも、期待したい。
余計なものを徹底的にそぎ落とし、走りの楽しさのみを追求し続けるケータハム。時代に合わせ、電気自動車の開発も進めているという。新しい時代のケータハムにも、期待したい。拡大

テスト車のデータ

ケータハム・スーパーセブン1600

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3380×1575×1115mm
ホイールベース:2225mm
車重:565kg
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:135PS(99.3kW)/6800rpm
最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/4100rpm
タイヤ:(前)175/65R14 82H/(後)185/60R14 82H(エイボンZT7)
燃費:--km/リッター
価格:621万5000円/テスト車=671万円
オプション装備:14インチClassicカスタムペイントアロイ<ダイヤモンドカットリップ>+Avonタイヤ(12万1000円)/アップレーテッドブレーキマスターシリンダー(3万3000円)/ダッシュボード<レザー/バーガンディー>(9万3500円)/シート<レザー/バーガンディー>+ユニークステッチパターン(18万1500円)/ウッドリムステアリングホイール<Motolita>(5万5000円)/マップポケット(1万1000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2352km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(3)/山岳路(0)
テスト距離:93.5km
使用燃料:10.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)

ケータハム・スーパーセブン1600
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