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「日産キックス」新登場で国内のコンパクトSUV市場はどう変わる?

2020.07.03 デイリーコラム 渡辺 陽一郎

小さなクルマしか買えません

2020年6月30日にコンパクトSUVの「日産キックス」が発売され、注目を集めている。最近はコンパクトな車種の投入が活発で、2019年11月に出た「ダイハツ・ロッキー」&「トヨタ・ライズ」、2020年2月の「トヨタ・ヤリス」と「ホンダ・フィット」は売れ行きも好調だ。小型・普通車の販売ランキングでも上位に入る。

日本の道路や駐車場は狭いので、もともとコンパクトな車種は売れ筋だった。が、近年はこの傾向が一層強まっている。その理由は複数あるが、一番はクルマの価格の上昇だ。安全装備や環境性能が進化するのは良いことだが、それにともない価格が高まるのは避けられない。今は消費税も10%になり、割高感が一段と強まった。

例えば1999年に発売された2代目「日産セレナ」では、「ハイウェイスター」の本体価格が227万9000円だった。当時の消費税(5%)を加えると239万2950円だ。対する現行型セレナ ハイウェイスターは、10%の消費税を含んで275万8800円になる。20年ほどの間に消費税の増税もあって36万5850円値上げされており、比率に換算すると現行型は15%以上高い。車種によっては30%前後の値上げになる。

現行型セレナには、2代目が採用していなかった衝突被害軽減ブレーキ、横滑り防止装置、S(スマートシンプル)ハイブリッド機能、インテリジェントキーなどが標準装着され、走行安定性や乗り心地などの基本性能も向上した。これらの進化を考えれば、現行型は2代目に比べて断然買い得だが、価格が40万円近く高まると、多くの人の購入予算を超えてしまう。

その一方で人々の平均所得は、2代目セレナが登場した1990年代の中盤から後半をピークに減っている。直近ではやや持ち直したが、今でも20年前の所得水準には戻っていない。

モーター駆動のe-POWER専用モデルとして発売された「日産キックス」。海外では、1.5リッターのガソリンエンジン車も販売されている。
モーター駆動のe-POWER専用モデルとして発売された「日産キックス」。海外では、1.5リッターのガソリンエンジン車も販売されている。拡大
上質感をセリングポイントとする「キックス」のインテリア。写真のツートンカラーのほか、ブラック系のモノトーンも選べる。
上質感をセリングポイントとする「キックス」のインテリア。写真のツートンカラーのほか、ブラック系のモノトーンも選べる。拡大
「ダイハツ・ロッキー」のOEMモデルとしてラインナップされる、トヨタのコンパクトSUV「ライズ」。2019年11月の発売以来セールスは好調で、日本自動車販売協会連合会(自販連)の記録では、2020年1月、2月は全登録車の中で1位、同年5月は2位となっている。
「ダイハツ・ロッキー」のOEMモデルとしてラインナップされる、トヨタのコンパクトSUV「ライズ」。2019年11月の発売以来セールスは好調で、日本自動車販売協会連合会(自販連)の記録では、2020年1月、2月は全登録車の中で1位、同年5月は2位となっている。拡大
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コンパクトSUVの商品力が光る

つまりクルマは値上げされ、所得は減ったから、乗り換える時にはクルマのサイズを小さく抑えねばならない。ユーザーの切実な経済事情と高齢化などにより、小さなクルマに乗り換える傾向が強まった。

小さなクルマに乗り換えるダウンサイジングと、コンパクトSUVは親和性が高い。SUVはフロントマスクに厚みがあり、大径タイヤの装着も手伝って外観の存在感が強いからだ。例えばミドルサイズミニバンのセレナから、コンパクトSUVのキックスに乗り換えても、「小さなクルマに変更してしまった」というみじめな感覚は強まらないだろう。

またSUVのボディーを見ると、上側はワゴンに準じた形状になっている。ボディーサイズの割に車内が広く、コンパクトなキックスでも後席を含めて快適だから、4人乗車を不満なく行える。リアゲートを装着した荷室も使いやすい。子育てを終えてミニバンが不要になったユーザーが次の愛車を探す時、キックスのようなコンパクトSUVであれば、外観の存在感や4人乗車時の居住性をあまり低下させることなく小さなクルマへと乗り換えられる。

そしてSUVは、着座位置がセダンよりも少し高く、ミニバンに比べると低いため、乗降時の腰の上下移動量が少ない。乗り降りがしやすく、高齢化したユーザーのニーズにも合っている。中高年齢層のユーザーには、クルマ好きも多い。SUVの外観は前述の通りカッコイイから「コンパクトカーの『ノート』では面白みに乏しいが、キックスなら満足できる」という話にもなるだろう。

今は、クルマ好きが注目するメルセデス・ベンツやBMWでもSUVが増えており、カテゴリーのイメージも向上した。これらの事情により、コンパクトSUVは、今後さらに売れ行きを伸ばす。2020年秋にはトヨタの「ヤリスクロス」も加わるから、さまざまな上級カテゴリーのユーザーがコンパクトSUVに乗り換える。キックスはハイブリッドのe-POWERを搭載しながら価格も妥当で、売れ行きを伸ばすだろう。コンパクトSUVのイメージリーダーだ。人気が落ち着いたら、今は海外にしかない1.5リッターガソリンエンジン仕様を220万円前後でラインナップに加えることも考えられる。

コンパクトとはいうものの、「キックス」の後席(写真)は広さが自慢。600mmのニールームと85mmのヘッドクリアランスが確保されている。
コンパクトとはいうものの、「キックス」の後席(写真)は広さが自慢。600mmのニールームと85mmのヘッドクリアランスが確保されている。拡大
「キックス」の荷室。後席の背もたれを立てた5人乗車の状態でも、9インチのゴルフバッグが3つ積載可能。
「キックス」の荷室。後席の背もたれを立てた5人乗車の状態でも、9インチのゴルフバッグが3つ積載可能。拡大
「ロッキー」と「C-HR」を擁するトヨタは、2020年秋に新型コンパクトSUV「ヤリスクロス」を投入する。これでもかの販売攻勢からも、このカテゴリーの盛り上がりがうかがえるというものだ。
「ロッキー」と「C-HR」を擁するトヨタは、2020年秋に新型コンパクトSUV「ヤリスクロス」を投入する。これでもかの販売攻勢からも、このカテゴリーの盛り上がりがうかがえるというものだ。拡大

キックスはまさに“ど真ん中”

さて、そんなキックスの登場でコンパクトSUV市場がどのように変わるかといえば、従来にも増して競争が激しくなるのは間違いない。キックスは全長が4300mm以下のコンパクトSUVでありながら、ノートと同じVプラットフォームを使うこともあって空間効率が優れている。後席の足元空間と荷室の容量は、全長が4300mm前後のSUVでは広い部類に入る。

しかし燃料タンクを前席の下に搭載する「ホンダ・ヴェゼル」と比べると、キックスの後席と荷室は少し狭い。その代わりヴェゼルの登場は2013年、キックスは2020年だから設計が新しく、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能、ハイブリッドシステムの滑らかさと燃費などについてはキックスのほうが優れている。つまりヴェゼルは実用性は高いが、先進技術では少し不利になるわけだ。

「トヨタC-HR」はTNGAの考え方を盛り込んだ新しいプラットフォームで走行安定性が優れ、ボディースタイルも斬新だ。その代わり後方視界は悪く、後退しながら車庫から出る時などに気を使う。後席と荷室もキックスに比べて若干狭い。走りとデザインに重点が置かれているのだ。マツダの「CX-30」にはハイブリッドが用意されず、1.8リッターのクリーンディーゼルターボになる。動力性能的にはキックスよりもパワフルで、安全装備は後方の並走車両を検知できる機能などが採用されて先進的だ。外観にも個性がある。しかし、デザイン優先だから後席は狭いし、キックスよりも少し価格が高くなる。

このようにライバル車と比較すると、キックスのポジションは、まさに“コンパクトSUVの中心”に位置すると思える。外観はSUVの典型で視界が良く、運転しやすい。後席と荷室もファミリーカーとして使える広さがある。e-POWERは、動力性能、静粛性、燃費において優れており、一方で価格はヴェゼルを意識して割安に抑えられている。さまざまな機能がバランスよく高められているのだ。

今後は、割安な特別仕様車の追加、残価設定ローンの低金利プランなど、販売促進策も積極的に施されるはず。かようにキックスは、さまざまなコンパクトSUVに刺激を与え、このカテゴリーをこれまで以上に活性化させることだろう。

(文=渡辺陽一郎/写真=日産自動車、トヨタ自動車、本田技研工業、ダイハツ工業/編集=関 顕也)

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」。2018年にモデルライフ半ばのマイナーチェンジを迎え、2019年には走りが自慢のコンプリートカー「ヴェゼル モデューロX」が追加設定された。
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個性的な見た目が特徴の「トヨタC-HR」は、ガソリンエンジン車とハイブリッド車、FF車と4WD車、CVTと6MTが用意されるなど、選択肢の多さもポイント。
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「小さなクルマ」といえば軽乗用車だが、その軽もまたSUV(およびSUVライクなモデル)が人気を博している。写真は「ダイハツ・タフト」。「スズキ・ハスラー」と市場を分かつ。
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「日産キックス」の燃費は、WLTCモードで21.6km/リッター、JC08モードでは30.0km/リッター。運転支援システムの充実ぶりも強みで、ミリ波レーダーを使って高速道路の長距離運転や渋滞をサポートする「プロパイロット」や「踏み間違い衝突防止アシスト」が全車に標準装備されている。
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渡辺 陽一郎

渡辺 陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。

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