ベントレー・ベンテイガ(4WD/8AT)
最上級のフツーに感謝 2018.04.02 試乗記 ランボやロールス、アストンなど、ラグジュアリーブランドのSUVが続々とデビューを果たした後も、「ベンテイガ」は孤高の存在であり続けられるのか? 大阪・京都へのちょっとぜいたくな旅を通して感じたのは、少し意外な“スゴさ”だった。なぜ大阪でベントレー?
2015年9月にデビューし、16年の11月下旬から英国のクルー工場で生産が始まったベントレー初のSUV、ベンテイガはすでに日本に上陸していて、東京でもチラホラ見かけるようになった。車両本体価格2739万円もする高級車だけに、見かけるのはチラホラでしかないけれど、「ポルシェ・カイエン」を上回る608psのモンスターSUVを女性がドライブしていたりする。大和撫子もやるもんだな、と思う。
そのベンテイガの試乗会が、さる3月初旬、大阪をベースにして行われるということで、なぜに大阪で? といぶかりつつ、筆者はまだベンテイガに乗ったことがなかったこともあり、喜び勇んで新幹線のぞみの車中のひととなった。さすが高級車ブランド。新幹線のチケットはグリーン車で、ありがとうございます!
新大阪駅に夕方到着すると、ベンテイガ2台でスタッフが迎えに来てくれていて、われわれwebCG取材班はそのうちの1台に乗せてもらって、目的地の「セントレジスホテル大阪」へと向かった。
「セントレジス」はマリオット・インターナショナルが世界60カ所以上に展開している最高級ブランドで、いまのところ日本には2010年にオープンした大阪、より詳しくは梅田となんばをつなぐ御堂筋のちょうど真ん中あたりに位置するココ、にしかない。
レザーとウッドとクロームに囲まれた豪華なベンテイガの後席から大阪の街を眺めていると、アッという間にホテルに到着。エレベーターで12階ロビーまで上がると、立派なシャンデリアが天井からつり下がり、壁にはビリケンさんとか太陽の塔とかが描かれた大きな絵画が飾られ、窓の外には石庭があった。ベントレーのようなイギリス的高級の世界に浸ったあとだと、たいていの場所は安っぽく思えるものだけれど、セントレジスは違った。しかも、単に贅沢(ぜいたく)なだけではなくて、そこに大阪独特のユーモアが感じられて、高級なのにリラックスできる自分がいたのだった。
夢のタッグが実現
部屋に行ってみると、デスクに黒い2段重ねの重箱と、その隣にイチゴが5個置いてあった。おいしそうなので、思わずイチゴをパクパク食べた。その昔、「アルファ156」の試乗会が箱根で開かれたとき、イチゴが6個、各テーブルに置いてあったことを思い出した。お重のふたを開けると、白いザラメ砂糖の上に焼き菓子がいくつか入っていて、新しい「ベンテイガV8」の絵が描いてあるビスケットもあった。これもセントレジスが用意したものらしい。
バスルームは西洋の高級ホテル同様、はっきり申し上げてエロティックでありまして、高級とエロとは相性がいいとはいえ、独り寝にはモッタイナイ。高級車ならではの贅沢である。主催者さまに感謝である。ありがとうございます!
夕食の際にごく簡単なブリーフィングがあって、ベントレーはセントレジスホテルと2012年からパートナーシップを結んでいることを知らされた。アブダビやサンフランシスコなどでは「フライングスパー」が送迎等に使われ、ドバイやニューヨークではベントレーのデザインチームが内装を手がけたスイートルームが設けられていたりする。
中東でのベンテイガの試乗会も、かの地のセントレジスホテルがベースとなったそうだし、ベントレーの社員は出張のおり、割引で泊まれたりもするという。せっかくセントレジスホテル大阪があるのだから、日本でも、ということで今回初めて夢のタッグが極東でも実現した。もっとも、広報のスタッフは近くのビジネスホテル泊だったそうだけれど。
ベンテイガずくめのおもてなし
セントレジスのウリは「バトラーサービス」で、『日の名残り』の映画版の主人公を演じたアンソニー・ホプキンスみたいな人がいるかどうかは知りませんが、大阪でも各種チケットや予約の手配はもちろん、パッキングのお手伝いまでしてくれて、長期滞在のひとやジェットセッターに好評だ、ということをあとからホテルのひとに聞いた。『ミシュランガイド京都・大阪2018』では大阪で唯一ホテルの最高評価である「5レッドパビリオン」を3年連続で獲得している由である。
今年1月から3月31日まで「ベントレーカクテル コンチネンタル333(トリプルスリー)」というカクテルを12階のバーで供してもいる。新型「コンチネンタルGT」の鮮やかなブルーをイメージしたこのカクテル、ジン・ベースでスッキリした飲み心地だそう。一杯2000円は、クルマを買うことに比べればバーゲンである。ちなみにネーミングの333は、新型コンチGTの最高速を表す。
しかしながら、この晩、われわれに用意されたのはブルーではなくて、赤かった。お菓子にも描いてあったベンテイガV8をイメージしたもので、ジンにフランボワーズリキュール、ココナツウオーター、アールグレイ、クランベリーにラズベリーが入っていて、甘いけれどスッキリしていてたいへん飲みやすい。4月1日から6月末まで、バーで提供されるという。そういえば、料理はベンテイガに合わせてオフロードをイメージさせるウイットに富んだもので、ベンテイガのオーナーにとっては最高のおもてなしだったろう。筆者がそうではないことはかえすがえすも無念である。
1920年代に活躍した、リッチなジェントルマン・ドライバーにしてプレイボーイの集まりだったベントレー・ボーイズが遊んだホテル・サヴォイのバーには、「ベントレーカクテル」と名付けられたカクテルがあるらしい。カルバドスとデュボネ(フランス産のアペリティフ・ワイン)を半々に入れてシェイクするこのカクテル、筆者は飲んだことがないけれど、ベントレー・ボーイズという洒落者軍団がベントレーとカクテルをはるか昔に結びつけていた。もしもベントレーのドライバーになったなら、最寄りのセントレジスホテルへと愛車を走らせたいものである。
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王侯貴族のように悠然と
翌日、ビュッフェスタイルの朝食をたっぷりいただいてのち、7時半にセントレジスホテル大阪を出た。そのとき筆者がステアリングを握っていたのは、「オニキス」と呼ばれる漆黒のボディー色に、「キャメル」と「サドル」、茶系の2トーン内装をもつベンテイガであった。この春、4リッターのV8モデルが登場したわけだけれど、こちらが上陸するのは本年秋になる。そこで、2016年に発売した12気筒モデルをいま一度、メディアに露出しておきたい、というのがベントレー・モータース・ジャパンの狙いなのだった。
webCG取材班は、全長5m、全幅2m、全高1.7m強という巨体の超高級SUVで大阪市内をウロウロしながら撮影した。ときに迷惑だったろうけれど、大阪のドライバーは運転がとてもエレガントで、クラクションをならすようなマナーのひとはひとりもいなかった。ベンテイガの威容がどれほど影響しているか。日頃の大阪を知らない筆者には不明ながら、王侯貴族のスーパーSUVにふさわしい堂々たる態度でもって、気持ちよくスムーズに走ることができた。
タイヤ&ホイールが見た目優先の22インチ仕様だったこともあって低速でのあたりは硬めながら、全体的にはエアサスのおかげで一瞬だけフワッとしつつ、フラットな乗り心地を実現している。車重2560kgの重しも効いている。ただし、新開発の6リッターW12 TSIツインターボ・エンジンをもってしてもゼロスタートにおいては悠然と構えているべきである。自動的にブレーキがかかる設定になっていたこともあるかもしれない。アクセルペダルを踏み込んだあと、一拍してから巨体が動き出す。う~む。これはなんとかならんものか。
乗れば誰もが大富豪!?
というようなことを思いながら、中之島にある大正時代の赤レンガの大阪市中央公会堂を眺め、通天閣を仰ぎ、太閤殿下の大阪城を望むなど、大阪を観光した。大阪城の近くで写真を撮るべく、駐車場に入ろうとしたら、警備係のおじさんが寄ってきたので、窓ガラスをスーッと下げると、「ノーパーキング」とひとことだけ英語で言った。もしかして大富豪のインバウンド観光客と思ったのかもしれない。
それから阪神高速の環状線に上がって京都へ向かった。途中は流れているけれど、けっこう混雑していて、前のクルマのあとをダラダラ走るしかなかった。このとき、W12は半分のシリンダーを休止してV6になったりしていたはずだけれど、まったく感知できなかった。タコメーターを眺めていると、ときおりアイドリング状態になって燃費を稼いでいることはわかった。
京都に到着して、祇園で写真をいくつかおさえたあと、昼食をとるべく、銀閣寺の近くの「日本料理 藤井」というお店に向かった。今年2月にオープンしたばかりのそのお店をwebCG編集長がなぜ知っていたのかは定かではないけれど、普通の日本家屋を改造した建物に入ると、白木のカウンターがあってたいへん清々(すがすが)しい印象を受けた。席は6席ほどしかない(奥にテーブル席ほか座敷もあるらしい)。
ご主人とおぼしきひとがカウンターの内側に立っていて、奥で仕込んであった食材を目の前で完成させては出来立てを出してくれる。まずは、お茶のように出されたカツオと昆布の一番出汁をいただく。具はなんにも入っていないけれど、カツオと昆布の風味に感激する。あー、おいしい。京都の日本料理を味わいに来たという思いがしみじみ。
京都ならではの出会いが
最初のお皿は山芋とゆばである。上にしょうゆを固めたもの、ウズラの生タマゴ、わさびとシソがのっていて、感激する。あー、おいしい。京都の日本料理を味わいに来たという思いがしみじみ。
こしび(マグロの幼魚)とひらめの刺身。何気ない刺身だけれど、感激する。おろしたての生わさびが利いている。あー、おいしい。続いて、ハマグリのしんじょ。それから、天ぷらである。ふきのとう、ししとう、舞茸、ゴマ豆腐。ゴマ豆腐の天ぷらなるものを初めて食した。まるでチーズのような香りがする。タンパク質という共通点があるのでしょうか。あー、おいしい。それから若竹煮。えぐみが見事になくて、さらっとしている。サンショが効いていて、あー、おいしい。最後はタイのゴマみそあえごはんにみそ汁。あー、おいしい。
以下同文の連続。カウンター席の一番端っこに女性が先に座っておられて、ご丁寧に名刺を差し出して話しかけてこられた。でもって、こちらのご主人は若いけれど、和久傳のご出身であるとか、あちらのお店とかこちらのお店とか、京都のおいしい情報をいっぱい教えてくださった。その女性は京都では有名なおみそ屋さんの女将(おかみ)で、女将がつくるみそはそれこそ和久傳をはじめ、有名料亭がこぞって使っているという。いやはやビックリ。京都ならではの出会いだ。
新宮川町というところからタクシーでいらっしゃったということなので、食事が終わったあと、われわれはベンテイガでお送りすることにした。彼女が乗車するにあたり、たいへんに申し訳ないことに、エアサスの車高調整装置の存在を失念して不自由をおかけした。こういうときのためにエアサスはあるのに!
大失敗であった。
滑らかさが気持ちいい
京都市内は、祇園周辺以外は混んでいなくて、ベンテイガをスイスイ走らせることができた。ここにいたって、動き出したらしめたもの、ベンテイガはスイスイ走るとまことに気持ちがよいことがわかった。W12をはじめとする駆動系が流体のような、もしくは全身オイルたっぷりのような滑らかさでもってドライバーを気持ちよくさせてくれる。極低速のトルクが細い分、トルクにのったときの快感が際立つ。直噴化されたW12 TSIはかつてのようなビートを発しなくなったけれど、より静かで、スムーズになっている。着座位置が高いから眺めはいいし、知らない土地を走る観光にはピッタリではないか。
お店に到着すると、われわれは京都一、ということはおそらく日本一の赤みそと白みそをセットでもらってしまった。女将はベンテイガに乗り込んだ直後、お店に電話して、「3人分、用意しておいて」と伝えておられたのだけれど、ありがとうございます。感謝感謝であるその白みそで、帰宅後つくったみそ汁の、あー、おいしいこと! 京都へ行ったら山利商店にお寄りになることをオススメします。
でもってベンテイガだけれど、誤解を恐れずに申し上げれば、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のでっかい版であると思った。なるほど英国のクラフツマンシップにあふれてはいる。でも、その機械部分については国民車であるフォルクスワーゲンと同じ設計思想、すなわち機能主義と民主主義が貫かれている、ように思われる。
ごくひらったくいえば、フツーのクルマのように扱える。608psのモンスター、になるかもしれなかったスーパーSUVを、実用車の鑑ともいわれるゴルフにも似た平易さで乗れるクルマに仕立てたのだからスゴイ。スーパーヘビー級だけにブレーキは早めに、とは思ったけれど、どんなクルマであれ、ブレーキは早めにかけるにこしたことはない。
それにしても、ベントレーとセントレジスはいい組み合わせであった。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=近藤 俊)
テスト車のデータ
ベントレー・ベンテイガ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5150×1995×1755mm
ホイールベース:2995mm
車重:2530kg
駆動方式:4WD
エンジン:6リッターW12 DOHC 48バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:608ps(447kW)/6000rpm
最大トルク:900Nm(91.8kgm)/1350-4500rpm
タイヤ:(前)285/40ZR22 110Y/(後)285/40ZR22 110Y(ピレリPゼロ)
燃費:13.1リッター/100km(約7.6km/リッター、EU複合モード)
価格:2739万円/テスト車=3239万6700円
オプション装備:22インチ 5本スポークダイレクショナルアロイホイール<ポリッシュ>(112万9800円)/ツーリングスペック(109万8400円)/オールテレインスペック(87万8700円)/フロントシートコンフォートスペック<5シーター>(49万7100円)/コントラストステッチ(27万6500円)/ウッドセンターフェイシアパネル(8万9400円)/LEDウエルカムランプ(14万1800円)/ボディー同色ロワーエリア(18万6200円)/3本スポーク デュオトーンステアリング(6万3300円)/ステアリングホイールへの追加コントラストステッチ(2万8900円)/ウッドパネル<リクイッドアンバー>(25万6000円)/ディープパイルオーバーマット(6万8900円)/オーバーマットへのコントラストバインディング(3万1600円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1173km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:160.2km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.2km/リッター(車載燃費計計測値)
今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。