ランボルギーニ・ガヤルドLP550-2 スパイダー(MR/6AT)【試乗記】
完成されたガヤルド 2012.07.11 試乗記 ランボルギーニ・ガヤルドLP550-2 スパイダー(MR/6AT)……2566万8615円
マシンコントロールの楽しさをウリにする、後輪駆動のランボルギーニ「ガヤルドLP550-2」。 そのオープンバージョンは、どんな走りを見せるのか? ワインディングロードで試した。
素性のよさは間違いない
2010年の暮れ、『webCG』の取材でクローズドボディーの「ランボルギーニ・ガヤルドLP550-2」に試乗した。
記憶を掘り起こせば、それはとても刺激的な体験だった。そりゃそうだ。だって、乾燥重量1380kgの軽量かつコンパクトなボディーには、550psものパワーを発生する5.2リッターのV10エンジンが縦置きされている。しかもその駆動方式は、それまで「ガヤルド」がトレードマークとしていた4WDシステムではなくMRなのだから。
身構える筆者に「代わりにロック率45%のLSDを付けといたから、思う存分ドリフトしてみてよ」と言うわけである。ほんと「タガが外れてしまったのかな?」とすら思ったものだ。
幸い、試乗の舞台となった袖ヶ浦フォレストレースウェイでは、コースの所々にパイロンが設置され、「責任とれないドライバーは飛ばしちゃだめ!」と言わんばかりの警戒態勢だったから、多くのジャーナリストが内心ホッとしたはずである。
ただ、そのクルマとしての精緻な出来栄えや、ドライビングの興奮は、今でも体が覚えている。
そもそもが四輪の駆動力を受け止めるキャパシティーを持ったシャシーだからか、二駆になったところでシャシー剛性には何ら不満は感じられない。いま考えれば、だからこそドリフトコントロールを楽しむモデルとして「ガヤルドLP550-2」がローンチされたのだな……と合点がいく。
今回は、その「スパイダー」の試乗。オープンモデルになったことで、その素晴らしい性能はどれだけドロップしているか? あるいは、全く違った味わいが得られたのか? といったところが評価の対象になる。
オープンボディーにうま味あり
その登場から9年。“ガヤルド最後のテコ入れ”のように送り出された「LP550-2 スパイダー」。しかし、むしろそれは「長い時間をかけてついに完成の域に到達した」と言えるような、素晴らしい仕上がりだった。
これだけ高額なスポーツカーに乗る機会を得るや、その“アラ”を探したくなるのは庶民の悲しい性(さが)なのだが、乗れば乗るほど、ガヤルドスパイダーはピターッと体になじんでくるのだった。
とにもかくにも、速い。公道を走る限りにおいては、もうこれ以上のパフォーマンスは必要ないだろう。
それでも、スピード以外でこのV10を手に入れたくなる要素があるとすれば、それは燃焼の制御のきめ細かさ。つまり、機械的な完成度の高さだ。そして、そのバリトンを、オープンボディーの“劇場”で、大音量で味わえることである。排気管をちょこっといじる今どきの音作りをデジタル音源に例えるなら、その野太く立体感のあるエキゾーストノートは、野外音楽堂の生演奏のようだ。
同セグメントのフェラーリやアストン・マーティンといったライバルたちより2気筒多いV10は、非常に“切れ味”が鋭い。1シリンダー当たり520cc、合計5204ccという大排気量にもかかわらず、軽やかにトップエンドまで回るうえ、アクセルのオン・オフには、きめ細やかに反応する。だからドライバーは、その音を判断材料として、コーナーの脱出からじわりとトラクションをかけていくことができる。その精密機械を運転しているという満足感、征服感には、思わず頬がニタ〜ッとなってしまう。
550psのパワーに対して、“スパイダー化”によるシャシーのねじれなど、常識的な速度領域ではみじんも感じられない。もしもこのクルマを剛性不足と言えるのなら、運転の仕方を見直すか、今からでもプロのレーシングドライバーになった方がいいと思う。
ドライバビリティーという意味でも、路面の凹凸によってフロアが震えるような安っぽい振動は起こらない。オープンボディーとするにあたって、そのスプリングやダンパーレートはそれなりに引き上げられているようで、路面のうねりや突起に対して突き上げ感は多少出ている。だがそのあんばいは絶妙で、クローズドボディーがもたらす足腰のまったり感よりも、むしろスポーティーで好ましいと感じるユーザーもいるのではないかと思えた。
ガヤルド共通のネガもある
残念なのは――クーペの「LP550-2」も同じだが――ブレーキのタッチが大衆スポーツカーレベルにとどまっていること。
効きそのものは、この加速力に見合うだけの制動力を持ってはいる。しかしペダルストロークが大きく、減速Gを素早く立ち上げることができない。フロント:8ピストン、リア:4ピストンのキャリパーは、マスターシリンダーとの容量が若干合っていないのか? それとも操作性をシビアにしないことで、より多くのドライバーに受け入れられるとランボルギーニが考えているのか? 550psのミドシップ・スーパースポーツカーならば、それにふさわしいタッチのブレーキが必要だと思う。
もうひとつ気がかりなのは、ライバルたちが次々進化していくなか、いまだにトランスミッションがシングルクラッチ式であることだ。
「ノーマル」「スポーツ」「コルサ」と、走行モードに応じて段階的に変速時間を短縮できるのは事実。だが、デュアルクラッチのシームレスな加速や快適性を知ってしまった身にとっては、全開加速時における加速Gの途切れ具合や、一般走行時におけるクラッチ断続時のピッチングは、走りの興をそぐものとしか感じられなかった。
そのほかネガをあげつらうなら、ポルシェはもちろん、フェラーリにすら搭載されるようになってきたアイドリングストップ機能がない。座席の後部には、ちょっとしたスペースさえ残っていない。
「そんなの、どこ吹く風のイタリアン!」というわけではないだろう。単純に、ガヤルドの生まれたのがライバルより少し前だったせいで、キャッチアップできていないというだけの話なのだろう。
そして、そうした要素がこのクルマの魅力を大きく損なうかといえば、それほど問題でもないのだ。
飛ばしてヨシ、流してヨシ
今回の試乗の舞台は箱根のターンパイク。比較的長めのコーナーが続く、高速ステージだ。クルマにそれ相応の安定感がなければ、正直ここを飛ばすのは気がひける。
しかし、このスパイダーは飛ばせば飛ばすほど面白い。鼻先に重量物を持たないから、ターンインは素直かつ軽やかで、ステアしたあとのハンドリングにもブレがない。横Gに対してはシャシーがこれを受け止め、脱出に際しては精密な制御のトラクションコントロールがさらなる安心感を与えてくれる。どれだけタイヤに依存しているのかわからないけれど、「タイヤにおんぶにだっこ」という印象はない。
軽く流してもたまらない。新緑から降り注ぐマイナスイオンのシャワー(?)と、V10サウンドのシャワーを前後から浴びながら、いつまでも走っていたくなる。どんなに嫌なことがあっても、この咆哮(ほうこう)に包まれていれば、新たな活力が得られる気がする。
「スパイダーの方がクーペよりも、断然お買い得じゃないか!?」
そう思えるクルマは、そうそうないものだ。
スポーツカーとは不思議なもので、走りがいいと全てがよく見えてくる。「エキゾチックカーとしてはコンサバティブにすぎないか?」と思えたアピアランスも、ポルシェのように、それほど身構えることなく使えることに意義を見い出してしまう。ところどころコンサバでも、全体的なシルエットとしては、非常に美しいクルマだし……。
だから本当は“アガリの一台”としてこのスパイダーを、愛すべきクルマバカに推薦したいところだけれど、2500万円もするスーパーカーを、おいそれとお薦めすることはできない。
このクルマが買えるような方は、筆者の鼻息荒いリポートなんて読まずとも、「カッコいいね、1台もらうよ」なのだろうし、むしろじっくりと目を通される読者のほとんどは、筆者と同様、買えないのだと思う。
それでもいいでしょう。LP550-2 スパイダーは、スポーツカーとしての性能を高いレベルでまとめているうえに、「ま、“小さい方”のランボですから……」とエスプリも利かせられるという、ツウな1台なのである、というのが筆者なりのまとめ。
若いときはひっちゃきになってドライビングを習熟し、いまは肩の力が抜けたエンスージアスト、かつお金持ち。そんな御仁がどれだけいるのかわからないけれど、そういう方にこそこのスパイダーに乗ってほしい。と、まこと庶民な筆者は強く思ったのでありました。
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。