声優・花澤香菜が感じた『鬼滅の刃』現象とは?「(日本のアニメは)コアなファンだけが楽しむ文化ではなくなった」

東京ウォーカー(全国版)

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11月7日から公開されている、中国のアニメ映画『羅小黒戦記』の日本語吹替版『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』で、人気声優の花澤香菜が、男の子の姿をした黒猫の妖精である主人公・シャオヘイの声を担当している。同作は2019年に字幕版が日本公開され、アニメファンの間で口コミが広まり話題となった作品。日本語吹替版公開を前に、本作の魅力やシャオヘイを演じる上でのこだわりをはじめ、中国でも人気を博する花澤香菜から見た中国のアニメ文化への印象、自身が甘露寺蜜璃役を演じる『鬼滅の刃』が社会現象になるなど、ますます盛り上がる日本アニメについて思うことを語ってもらった。

主人公・シャオヘイ役を演じた人気声優の花澤香菜撮影=Tsubasa Tsutsui


中国語アニメの吹き替えは「どう演じればいいのか悩みました」

――はじめてこの作品に触れたときの感想を教えてください。

【花澤香菜】どこの国で作られたアニメかは意識せず、とにかく映像のクオリティの高さにびっくりして、「すごいアニメがきたな」と思いました(笑)。特に戦闘シーンのカット割りが面白くて、「どういう風に作っているんだろう?」と引き込まれましたね。あとは、キャラクターがすごく魅力的で、特にシャオヘイのかわいらしさに魅了されてしまいました。オリジナルの(中国語版のシャオヘイ役・山新さんの)声がめっちゃかわいいんですよ。

日本で作られたといわれたらそうなのかなと思うかもしれませんが、音楽をはじめどこか中国の香りはしていて、たぶんこれは(MTJJ)監督にしか作れない作品だろうな、というのはわかりました。

花澤香菜が演じる主人公・シャオヘイ(C)Beijing HMCH Anime Co.,Ltd


――今回は中国アニメの日本語版吹き替えという形でしたが、いかがでしたか?

【花澤香菜】まず、コロナ禍ということもあって、収録は1人ずつ行っていて、私がトップバッターだったんです。相手(かけ合いをするキャラクター)は中国語で喋ってくれるので(笑)、そこまでやりづらいわけではなかったのですが、(1人で収録するのが)さみしくはありましたね。

実写の吹き替えをするときは、元の音声に寄せようとするとちょっと違った風に聞こえてしまったり、伝えたいことがうまく伝わらなかったりするのですが、今回は(どう演じればいいのか)悩みました。猫のときの声は、中国版の山新さんの音声をほぼそのまま使うことになっていて、そこは私の声から山新さんの声になめらかに切り替わるようにという思いがあったんですが、それ以外のシャオヘイの心の動きが現れるところでは、元の音声に縛られすぎず、自分の思ったように演技できたと思います。もちろん、元の音声で印象的なところ、素敵なところは参考にさせてもらいました。

黒猫の妖精であるシャオヘイは、猫と少年の2つの姿をもつ(C)Beijing HMCH Anime Co.,Ltd


――シャオヘイの心の動きを演じる上で、どういった部分を特に意識したのでしょうか。

【花澤香菜】シャオヘイは、最初はフーシー(声:櫻井孝宏)の強い思想に染まりつつあったというか、フーシーのことを純粋に信じてたと思うんです。そこから、だんだんと新たな選択肢が見えてきて、いろんなことに巻き込まれながらも「僕はこう思う」とシャオヘイ自身で選び取って、前に進んでいくんですね。そういう柔軟なところというか、しっかりしすぎず、でも今自分はこう思っているんだ、というのをちゃんと出していこうと思っていました。

それと、終始かわいいシャオヘイですが、終盤の勇ましく男らしさを感じるようなセリフのときには、「もっと男らしく!」というディレクションをいただきました。そこは、(製作陣が)新たな一歩を踏み出した感じと、少年から男になるような形を強調したかったのかなと思いました。

居場所を失ったシャオヘイを救い、仲間に加えてくれた妖精・フーシー(声:櫻井孝宏)(C)Beijing HMCH Anime Co.,Ltd


コロナ禍、何が正しいのかわからない今は“まさに主人公と同じ状況”

――かわいらしいシャオヘイは本作の魅力の1つですが、演じる上で花澤さんがシンパシーを感じたところはありますか?

【花澤香菜】食い意地が張っているところかもしれないです(笑)。シャオヘイも食べ物への執着が強いですが、自分にも弟がいるからか、小さいときから「自分の分は自分で食べたい、奪われたくない!」という思いが強かったので。

――シャオヘイ以外にも個性的なキャラクターが登場しますが、気になるのは?

【花澤香菜】ムゲン(声:宮野真守)とフーシー(声:櫻井孝宏)って、女の子同士で映画を観に行ったらたぶん「どっちが好き?」って話になると思うんですよね(笑)。そう考えたときに、私はムゲンかな、と。すごく強くて頼れると思ったのに、「財布持ってないじゃん!」みたいな抜けているところもあって、あのポケーっとしてスキがあるところが親しみやすくて素敵だなと思います。

「最強の執行人」として恐れられる人間・ムゲン(声:宮野真守)(C)Beijing HMCH Anime Co.,Ltd


――人と自然の関わりや、自分と違う存在をどう受け止めるかなど、この作品にはさまざまなメッセージが込められていると思います。花澤さんはどう受け取りましたか。

【花澤香菜】このコロナの状況下で、いろいろなことをいう人がいて、どれが正しいかわからないじゃないですか。それはまさにシャオヘイと同じ状況だと思うんです。ムゲンのいうこともフーシーのいうこともわかるというか、「そういう人もいるよね」って思うんですよ。不安はいっぱいあるけれど、みんながみんな一緒じゃなくて、いろいろなことを思っていいし、選択肢はきっといっぱいあるはずだよ、という前向きなメッセージを感じました。

「中国人ファンからの日本語での声かけ」に日本アニメの人気感じる

――自然豊かな土地と中国の現代的な街並みのコントラストも本作の特徴ですが、花澤さんはどんな印象を受けましたか?

【花澤香菜】私自身が中国に何度か行っているんですが、中国の街並みには独特の活気があって、「私はここにいたら自由なのかもしれない」って思えるところがあるんです。自然の中をのびのびと走り回るシャオヘイもいいなと思うんですが、そのシャオヘイが初めて街に出て、街で楽しそうに暮らす妖精と出会うシーンを見たときには、私が中国に行ったときの感覚と近しいものを覚えたので、街も悪くないよと(笑)。

【写真】花澤香菜、ぬいぐるみをぎゅっとしてキュートな笑顔を見せる撮影=Tsubasa Tsutsui


――本作の他にも中国でライブ公演をするなど、中国のアニメ文化に関わることも多い花澤さんですが、今の中国のアニメ文化への印象は?

【花澤香菜】まずびっくりしたのが、日本語(の音声)でアニメを楽しんでいる方ばかりなんですね。(日本では)韓国ドラマを観て韓国語を覚えるように、中国ではアニメで日本語を勉強するような状況になっているんだろうなとはすごく感じます。また、私が中国でイベントに参加したときも、ファンの方からの声かけが日本語なんですよ。だからアニメを通して、日本語や日本文化もすごく好いてくれているんだなというのを感じます。

『鬼滅』アニメがエンタメ牽引の時代、「コアなファンだけが楽しむ文化ではなくなった」

――一方、日本ではアニメをきっかけにした『鬼滅の刃』の大ヒットが社会現象になっています。ご自身も甘露寺蜜璃役として出演されていますが、声優として、今の日本でのアニメの盛り上がりについてはどう思われますか。

【花澤香菜】映画に限らず、Netflixなどでもいろいろなコンテンツが配信されていて、たくさんの人が実写映画を観たり海外ドラマを観たりしていますよね。その中で、アニメを楽しむことが同じように選択肢の1つとして存在していて、コアなファンだけが楽しむ文化では全然なくなっているなと感じます。

日本のアニメ文化に対して感じた変化を語る撮影=Tsubasa Tsutsui


――『羅小黒戦記』のシャオヘイのように、10代のデビューからキャリアを重ねて役柄の幅も広がっていると思います。今、改めて心境の変化はありますか。

【花澤香菜】本当に、長いこと続けさせていただいているのがなんだか奇跡というか。新人の頃は、自分が受けるオーディションを先輩声優の方々も受けているのを見て、「受かるわけない!」って思っていたんですけど(笑)。こうして経験を重ねていっても、オーディションで役を勝ち取るというのは変わらないですし、そこにチャンスがあるとも思うのですが、お仕事で経験値を積むこと以外にも、最近は自分の生活をいろいろな意味で豊かにしていくことが役につながっていくんだなと思うこともあります。

日々、いろいろな経験をして感じたことが、きっと次に演じる役の気持ちをどれくらい理解できるかといったところにも還元されていくと思うので、声優という仕事はもちろん、それ以外にも“いち社会人としての私”をしっかりさせていきたいですね。

――そうした心境の中で、今だからこその目標ってありますか。

【花澤香菜】私は声質的に学生や少女の役が多かったんです。シャオヘイは小さい男の子ですけど、最近は先生とか師匠とか、ボスに近い役柄を(笑)求められたりもするので、そうした役を演じる上での厚みを増すためにも、もっと(人生の)経験を積んでいきたいなと思います。

取材・文=国分洋平


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