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「私がセリーヌ・ディオンになった理由」──フランスの国民的俳優が語る、映画『ヴォイス・オヴ・ラブ』が出来るまで。

グラミー賞を5回受賞した世界的歌姫、セリーヌ・ディオンの半生を描いた映画『ヴォイス・オヴ・ラブ』が公開される。脚本・主演・監督を務めたのは、フランスの著名な俳優でコメディアンとしても活躍するヴァレリー・ルメルシエ。なぜ、彼女はそこまでセリーヌにのめり込んだのか。

俳優、監督、歌って踊るスタンダップコメディアンとして、多彩な芸を披露するフランスで人気のヴァレリー・ルメルシエ。そんな彼女が自ら監督、主演を務めた映画『ヴォイス・オヴ・ラブ』が公開される。映画はフィクションだが、セリーヌ・ディオンの人生を下敷きにした──寝ても覚めても彼女のことが頭から離れなかったというルメルシエに、そのオブセッションについて語ってもらった。

エネルギッシュで闘志に満ちたセリーヌを演じることで、力をもらった。

Photo: © Laurent Humbert / H&K

もともとセリーヌの大ファンというわけではなかった。でも彼女が夫のルネ・アンジェリルを亡くしたときの葬儀の映像をたまたま見て、とても心を動かされた。まだ若いのに、突然ひとりになってしまった彼女の様子が痛々しくて。それから本格的に彼女のことを調べ始め、すぐに映画を撮りたいと思った。セリーヌがパリでコンサートをしたときは、3日間通いました。普段なら終演と同時に帰るけれど、会場を離れられなかった。彼女のステージの素晴らしさや力強さに心を奪われると同時に、彼女のファンの温かい雰囲気も独特だったから。

12月24日都内先行公開、12月31日より全国公開の『ヴォイス・オブ・ラブ』は、驚異的な歌唱力を持ったアリーヌと、彼女を見出しスターにしたプロデューサーとの純愛の物語。Photo: © Rectangle Productions / Gaumont / TF1 Films Production / Del’huile / Pcf Aline Le Film Inc. / Belga © photos jean-marie-leroy

リサーチのあいだは朝から晩まで、セリーヌ関連の動画で観られるものを観続けていました。常に彼女のことを考えていたから、料理をしょっちゅう焦がしていたほど(笑)。セリーヌはエネルギッシュで闘志に満ちている。私は何かあったらすぐに逃げ出すほうだけど。だからこの役を演じることで力をもらったと思う。ボクシングやスポーツをして筋肉もつけました。肉体的にも強くなることが必要だと感じたのです。

「小さい頃から人を笑わせたいと思っていた」

ミロス・フォアマン監督の映画『アマデウス』(84)は、クラシックな伝記と異なるアプローチが、『ヴォイス・オヴ・ラヴ』製作時の参考になったという。Photo: Warner Bros./ Courtesy: Everett Collection / amanaimages.

伝記映画で好きな作品は『アマデウス』。サリエリの嫉妬を描くことでモーツァルトの天才性を浮き彫りにしているところが巧いと思う。映画で夫婦愛に焦点を絞ったのは、ルネがいなかったら、今のセリーヌは存在しなかったと思うから。ルネは彼女のことをとても愛し、支えた。私も彼みたいなパートナーが欲しいくらい(笑)。重苦しい雰囲気の家庭に育ったせいか、私は小さい頃から人を笑わせたいと思っていた。キャリアの初期に影響を受けたアーティストは、ミシェル・シモンや初監督作で取り上げたサッシャ・ギトリなど。映画では『トッツィー』の笑いや『キャバレー』が好き。

売れない俳優が女装して大成功する『トッツィー』(82)は、「エキセントリックなユーモアが魅力」。Photo: Everett Collection/amanaimages.

仕事以外の趣味は手芸。よくアクセサリーや服を作ります。新しいものとヴィンテージを合わせて独自のスタイルを作るのが好み。実は26回来日しているほど日本好きなので、日本の文房具や和紙もコレクションしています。

Profile
ヴァレリー・ルメルシエ/俳優・映画監督
1964年生まれ。舞台やTVドラマを経て、ルイ・マルの『五月のミル』(90)で映画デビュー。93年、『おかしなおかしな訪問者』でセザール賞助演女優賞を受賞。97年にはサッシャ・ギトリの戯曲を映画化した『カドリーユ』で監督デビューも果たす。カトリーヌ・ドヌーヴと共演した『パレ・ロワイヤル!』(劇場未公開)ほか、監督・俳優として独自のキャリアを築く。

Interview & Text: Kuriko Sato Editor: Yaka Matsumoto