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『ハウス・オブ・グッチ』原作本が、とにかくものすごい。(Yaka Matsumoto)

レディ・ガガほか豪華キャストが集う映画『ハウス・オブ・グッチ』が話題ですが、今回は私がノックアウトされた原作本について。感想を一言で述べるならば「とにかくものすごい」! グッチ家を巡る壮大な物語としてはもちろん、ドラマティックに過ぎる教科書として、ファッションシーンに生きる人、ファッションビジネスに関心のある人にもお勧めしたい作品です。

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著者はサラ・ゲイ・フォーデン。WWD(ウィメンズ・ウェア・デイリー)のミラノ支局長も務めた元ファッション・ジャーナリストで、今はブルームバーグニュースで大手IT企業の取材などに携わっているそうです。イタリア在住歴が長かった著者が10年以上を費やして書き上げた原書が出版されたのは2000年。日本では講談社から2004年に単行本が出され、映画公開を機に、早川書房から昨年末に文庫版が発売されています。

文庫版は上下巻にわかれていてかなりの大作なのですが、久々に夜を徹して読みふけってしまいました。手にしたきっかけは本書の翻訳者であり、本誌書評欄や「VOGUEと学ぶフェミニズム」で常々お世話になっている実川元子さんの「映画はエンターテイメントとしてとても面白い。ただ、原作はまたまったく別の角度で興味深いです!」という一言。映画はレディ・ガガ演じるパトリツィアとグッチ家の跡継ぎマウリツィオの出会いから“別れ(事件)”までが主軸。栄華を極めたグッチ家とそこに生きる個性豊かな(アクの強い)面々が物語を彩ります。が、原作におけるパトリツィアの立ち位置はキーパーソンではあるものの、あくまでサブキャラ。下巻に至っては、パトリツィアの事件を巡る登場比率は高い一方で、グッチ家の誰もが表舞台から去っていきます。映画『ハウス・オブ・グッチ』がグッチ家の物語ならば、原作本は、何度も修羅場をくぐりぬけ、起死回生を繰り返しながらも時代とともにメタモルフォーゼするブランド「グッチ」の壮大な叙事詩なのです。

こんな従兄弟たちの3ショットも本作を読んだあとに眺めるととても味わい深い。1983年にオープンしたパリの新店舗の前に並ぶ、左から創業者グッチオ・グッチの次男アルドの子どもたち(三男ロベルト、長男ジョルジョ)と、グッチオの四男で俳優経験もあったロドルフォの一人息子マウリツィオ。Photo: Laurent MAOUS/Gamma-Rapho via Getty Images

Laurent MAOUS

左からマウリツィオ、次女アレグラ、長女アレッサンドラ、パトリツィア。Photo: Backgrid/アフロ

創業者グッチオ・グッチが築き、その息子の一人アルドが一気に海外進出をして拡大、三代目のマウリツィオが熾烈なファミリー闘争の果てにトップの座につくまでのグッチ家物語も、もちろんとても魅力的で読ませるのですが、グッチ家が経営の要から去った後半は、「企業買収劇」「ファッション界のコングロマリットが築かれる黎明期のドキュメンタリー」という、前半とはまったく違った映画をもう一本見せられているような読み応え。若く、勢いのあるスターデザイナーたちの台頭(トム・フォードはむろん、マーク・ジェイコブス、アレキサンダー・マックイーンetc.)とともに、ファッション/ラグジュアリービジネスの根幹が大きくシフトしていくこの時期に、ファッション界を文字通り牛耳る権力者たち(と投資会社)が、生き馬の目を抜くような闘いを繰り広げるさまが圧倒的な情報量とともに描かれます。え、この人こんな感じなの? え、これはそういうことだったの!? と、ジェットコースター級の展開を固唾を飲んで目撃できる、「ファッションビジネスを学ぶ教科書」としても圧巻の一冊です。

イブ・サンローランの両脇を固めるのは、グッチ家が去ったあとのグッチ物語で新たな主役に躍り出たドミニコ・デ・ソーレ(左)とトム・フォード(右)。デ・ソーレはグッチ・グループ(のちのケリング)CEOを経て、現在はトム・フォード・インターナショナルのチェアマンを務める。Photo: William STEVENS/Gamma-Rapho via Getty Images

本来ならば知り得ない、雲の上のような人々の詳細な会話や行動、時代を動かした瞬間の風景を疑似体験できる、家族ドラマであり、ビジネス書であり(ある側面では)、ドキュメンタリーでもある『ハウス・オブ・グッチ』、おうち時間のおともに激推しします。個人的には、グッチ家物語パートでも、ファッション界ドキュメンタリーパートでも、真のキーパーソン(影の主役)と呼びたくなるドミニコ・デ・ソーレの全編を通じてのメタモルフォーゼぶりに(でも本質はもしかしたらもっとも変わっていないのかも)感じるものがありました。

※ドラマのその後が凝縮された、文庫本版にあたって加えられた新版あとがきと訳者あとがきもぜひ忘れずにご一読ください。

Text: Yaka Matsumoto

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