CHANGE / SUSTAINABILITY

消費行動にもっと責任を! 活動家メリル・ストリープの30年の軌跡。【世界を変えた現役シニアイノベーター】

環境問題がテーマのレオナルド・ディカプリオとの共演作『ドント・ルック・アップ』(2021)で気候変動問題に懐疑的な大統領役を演じ、圧倒的な存在感を見せつけた名優メリル・ストリープ。実は、80年代から地球温暖化に警鐘を鳴らしてきた環境活動家でもある彼女の取り組みの軌跡をたどる。
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LONDON, ENGLAND - FEBRUARY 12: Meryl Streep attends the 70th EE British Academy Film Awards (BAFTA) at Royal Albert Hall on February 12, 2017 in London, England. (Photo by Samir Hussein/WireImage)Samir Hussein / Getty Images

「私の両親は、子ども時代に世界恐慌を経験し、祖父母は大変な苦労をしました。そのため祖母はアルミホイルの切れ端を集めてボールを作り、外皮を剥がすようにして何度も再利用していました。このような彼女の生活の工夫は、まだ幼かった私の頭にインプットされ、今なお大きな影響を及ぼしています」

OnEarth』誌の取材に対し、俳優のメリル・ストリープはこう語った。1949年6月、アメリカ・ニュージャージー州に生まれたストリープは、ロバート・デ・ニーロ主演『タクシー・ドライバー』(1976)で彼の演技に衝撃を受け、俳優を志した。イエール大学卒業後にNYへ移り住み、数々の端役等を経てジェーン・フォンダ主演の映画『ジュリア』(1977)でアン・マリー役を獲得して正式デビュー。その後、ダスティン・ホフマン共演の『クレイマー、クレイマー』(1979)でジョアンナ・クレーマー役、『ソフィーの選択』(1983)でホロコーストを生き延びたポーランド人の女性ソフィー役、マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(2011)では元イギリス首相のサッチャー役を演じ、これら3作においてアカデミー賞を受賞した。その40年以上に及ぶキャリアにおいて、アカデミー賞へのノミネーションは21回、ゴールデングローブ賞ノミネーションは32回(8回受賞)と、ハリウッドスターの中でも唯一無比の経歴を誇る。

一方で、2017年にロシアの偽装裁判により収監されたウクライナ人映画監督オレグ・センツォフの解放運動に尽力したほか、’18年にはセクハラ撲滅運動「Time’s Up」をサポートするなど、積極的な人権活動家としての顔も持つ。

80年代から始めた環境活動。

『クレイマー、クレイマー』(1979)でアカデミー助演女優賞を受賞した時の俳優のメリル・ストリープ。1980年4月撮影。Photo: Michael Montfort / Michael Ochs Archives / Getty Images

「子どもを授かり、自分の体内に入れるものがお腹の中にいる子どもの発達に影響を及ぼすことから、環境問題を強く意識するようになりました」

1983年に第一子を出産し、4人の子どもに恵まれたストリープが環境活動に本腰を入れ始めたのは、映画『クライ・イン・ザ・ダーク』(1988)の撮影で訪れたオーストラリアで、オゾンホール発見のニュースを耳にしたことだった。この時、直感的に世界中の母親たちに情報を共有する必要性を感じ、アメリカ帰国直後からNRDC(自然資源保護協議会)の支援を表明し、環境保護団体「Mothers & Others」をローンチした。

「コネチカットに住んでいた時、CSA(地域支援型農業)やフードコープ(生活協同組合)を立ち上げました。こうして人々の日々の食卓に農家から直接手に入れた食材がのぼるようになり、環境配慮型の農業にも注目が集まるようになりました。ですが、今も多くの製品に化学物質が使われ、中には健康への影響について十分なテストが行われていないものもあります。私が母親になったばかりの頃、こうした情報が少なく、何も知らなかったことを今でも悔やんでいます。だから、この団体を通じて啓発活動をしているのです」

そして、普段の生活の中では、プラスチックゴミの削減を心がけ、商品を購入する際には容器がリサイクル可能であるかどうかや、環境ラベルを確認することが習慣になっている、とも。

「環境に良いブランドが評価され、消費者が選択することが主流となっていけば、他のブランドも追従するはず。わざと読めないような小さな文字で注意書きを添えた製品より、いずれは一目で安心であることがわかるようになるのが理想です。今はまだ、消費行動において全ての決断に思慮深さと慎重さが大切だと思います」

自分ごととして考えるために。

2021年12月にNYで行われた映画『ドント・ルック・アップ』(2021)のワールドプレミアに出席。左から、ジェニファー・ローレンス、レオナルド・ディカプリオ、ストリープ、ジョナ・ヒル、アダム・マッケイ。Photo: Dimitrios Kambouris / Getty Images for Netflix

ストリープが現在もっとも心を砕くのは、先進国の負の影響を受けているグローバルサウスの問題だ。とりわけ、アフリカ・ガーナの首都アクラのアグボグブロシー地区に暮らす子どもたちの健康を危惧しているという。この地区では、世界中から集まった年間25万トンもの電子廃棄物(E-Waste)を焼却し、その際に発生する有害ガス等で、健康を害する人が後を絶たない。だからこそこの現状を重く受け止め、大量生産や大量消費のあり方を抜本的に変えていかなければならないと訴える。

「電子機器を大量に生産し、陳腐化したものを捨てているせいで、アフリカの子どもたちはさまざまな健康被害に苦しんでいます。私たちは、消費行動にもっと責任を持たなければなりません。同時に、シリコンバレーなどで最先端のテクノロジーで製品を生み出す人たちにも、この問題を自分ごと化して行動を起こしてもらわなければならないと思っています」

自分にとって真に良いものとは何なのかを知り、選び取る能力を身につけることが重要──ストリープは、自らの経験を顧みながら、わたしたちに、かしこく生きることを呼びかける。

「今、私が欲しいものは“本当に良いもの”であり、“自分の子どもにとって良いもの”です。利他主義も素敵だと思いますが、結局のところ、本当に人を動かすのは『利己心』なのですから」

Text: Masami Yokoyama  Editor: Mina Oba