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Cocomi×声優・花江夏樹 対談Part1。アニメにおける声と音楽の魅力とは?【新世代のミューズCocomiが学ぶ】

音楽家・モデルのCocomiが、ジャンルの異なる人々と語らう対談シリーズの第二弾がスタート。今回のお相手は、「鬼滅の刃」の主人公である竈門炭治郎をはじめ、さまざまなアニメで活躍する大人気声優の花江夏樹だ。大のアニメ好きで知られるCocomiが花江とともに、作品における声や音楽の個性や魅力について語り合った。※『VOGUE JAPAN』本誌9月号では音楽家の久石譲とCocomiの対談も掲載。そちらも是非チェックして。
「鬼滅の刃」の大人気声優と、アニメ好きのCocomiが初対面。

Cocomi 花江さんが主役の炭治郎役を演じられたアニメ「鬼滅の刃」をはじめ、いつも作品を拝見させていただいています。今日は対談の機会をいただけて、本当に光栄です。緊張のあまり、手が震えているほどです……(笑)。

花江 僕もお話をいただいて、とても光栄でした! 以前からCocomiさんがアニメ好きだとは伺っていたのですが、まさかご本人にお会いできるとは思いませんでした(笑)。今年の僕の誕生日には、インスタにメッセージを上げていただいて。僕の妻がCocomiさんのファンなので、そのストーリーを見て「お祝いしてもらっているよ!」と教えてくれたばかりだったので、とてもうれしかったです。

Cocomi お誕生日のメッセージ、ご覧いただいていたのですね。ご本人に届くとは感動です……。今日は、ぜひアニメと音楽をテーマに、いろいろとお話を伺わせてください。まず、花江さんは17歳で声優を目指して、18歳からお仕事を始めたそうですが、昔からアニメがお好きだったんですか?

花江 小さい頃から見ていましたが、「アニメが好き」というはっきりした感覚を抱くようになったのは、高校生のときですね。ちょうど深夜に「桜蘭高校ホスト部」という作品が再放送していて、観たらすごくおもしろくて……。アニメの概念が変わりました。

Cocomi 「桜蘭高校ホスト部」は、私も観たことがあります! 男の子だと勘違いされた高校生の女の子が、借金返済のためにホスト部の部員になるというストーリーですよね。

花江 はい。当初は原作が少女漫画だとは知らなかったんですが、男子高校生の僕でもスッと物語の世界に入ることができて。思い出の一作です。

Cocomi 私もアニメ好きになったきっかけは少女漫画でした。もともとジブリが好きで、3歳くらいからよく見ていたんですが、本格的にアニメにハマったのは小学校6年生から中学1年生くらいのときに観た「君に届け」という恋愛モノです。この作品も少女漫画が原作なのですが、当時は「ときめき」ってどんなものなんだろうって思って、恋愛アニメを見たんです(笑)。そしたら、見事にハマってしまいました。

「四月は君の嘘」の世界に浸って、ヴァイオリンを演奏したことも。

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花江 僕からも質問していいでしょうか。最初にCocomiさんが僕の存在を知ってくださったのは、どんなきっかけだったんですか?

Cocomi 以前から出演作品は拝見していたのですが、一番大きなインパクトを受けたのは「四月は君の嘘」の有馬公生くん役です。

花江 天才ピアニストである男の子・有馬くんとヴァイオリニストの女の子・かをりちゃんという二人の中学生の物語ですね。あの作品は、クラシック音楽もたくさん出てきますもんね。

Cocomi 当時、私はヴァイオリンを弾いていたこともあって、共感する部分も多かったんですよね。花江さんが演じる有馬くんのセリフのひとつひとつに感動して、ボロボロ泣いたのを覚えています。

花江 あの作品は、本当に泣けますよね。僕はあの作品に出会うまで、クラシックの知識はそこまでなかったのですが、作品を通して「音楽って本当に良いものだな」と思いました。

Cocomi 音楽好きな人にはぜひ見てほしい作品です。選曲も素晴らしいですよね。たとえば、フリッツ・クライスラーの「愛の悲しみ」とか。この曲はヴァイオリンとピアノのための楽曲で、有馬くんとかをりちゃんが一緒に演奏するシーンが感動的なのですが、アニメを見終わった後、余韻に浸って、「愛の悲しみ」を、一人でしんみりヴァイオリンで演奏したこともあります。

花江 それは、ぜひ聴いてみたかったです!

「音楽が出てくる作品は、登場人物の心の動きがすごく繊細なことが多い気がします」(花江)

Cocomi 「四月は君の嘘」以外にも、花江さんはピアニストの少年の物語「ピアノの森」など、音楽に紐づいた作品に多数ご出演されていますよね。

花江 初のテレビアニメのレギュラー作品が、高校の合唱部を描いた「TARI TARI」という作品だったせいなのか、以来、割と音楽に関係する作品に出ることが多いんです。あと、僕は声優の中でも、よりリアルなお芝居を好んでいるので、音楽作品と声の相性がいいのかもしれません。

Cocomi よりリアルなお芝居とはどういう意味でしょうか?

花江 多くの人は「アニメ」と言われたら、多分パッと思い浮かぶのは「ドラえもん」や「サザエさん」などの作品だと思うんです。そういうアニメは、抑揚を過剰につけてデフォルメする演技を求められることが多いのですが、僕はジブリ作品のように、細かな感情の起伏が伝わるような演技をする方が好きなんです。もちろん、どちらにも良さや大変さがありますが、音楽が出てくる作品は、登場人物の心の動きがすごく繊細なことが多い気がします。だから、僕の演じ方と相性がいいんだと思います。

Cocomi たしかに、音楽は演奏者の感情や気持ちの込め方一つで、すごく音が変わるものなので、音楽アニメでは登場人物の感情の動きが繊細に描かれることが多いですね。私が花江さんの声に惹かれてしまうのは、そうした理由もあるのかもしれません。作品によってはデフォルメしてしまうと、現実味が無く聞こえてしまう時もあるのですか?

花江 そうなんです。そういう作品で誇張すると、「人ってこういう風にはしゃべらないじゃん」って思っちゃうので。あとは、僕自身の声質も高くて少年っぽい声なので、音楽アニメと雰囲気的にも合うのかもしれません。

Cocomi 花江さんの声は、すごくクリアで、繊細な声ですからね。アニメで花江さんの声を聴くたびに、いつも耳が幸せな気持ちになります。「まるで陽だまりのような声だなぁ」って……。

花江 あ、それはたまに言われます。「声がオレンジ色しているよね」って言われたことがあるんです。

Cocomi わかります! ほかには、ご自身の声に対して、どんな言葉をかけられることが多いですか?

花江 以前、先輩に「花江君の声は町の雑踏みたいな周波数だよね」と言われたことがあるんです。最初は、意味がわからなくてちょっと戸惑ったのですが(笑)、どうやら「いろんなところにナチュラルに溶け込める声だ」という意味だったみたいで。

Cocomi 「鬼滅の刃」のようなシリアスなものから、「ハイキュー‼」のような明るい作品まで、どんな作品にもフィットする不思議な声ですよね。「なんでこんなに感情豊かに演じられるんだろう」と、思います。ジャンルは違えど、私自身も同じ表現者として、本当に憧れてしまいます。

「実はほんの数年、声優さんの勉強をしたこともあります……」(Cocomi)

花江 Cocomiさんは、現在フルート奏者として活動されていますが、いつ頃から音楽の道に進もうと思われたんですか?

Cocomi 実はそれもアニメがきっかけなんです。3歳の時にジブリ映画の『耳をすませば』を観たのですが、登場人物のヴァイオリン職人を目指している少年・天沢聖司に憧れて、「私もヴァイオリンを弾いてみたい!」と思ったのが、音楽の道に進んだきっかけです。

花江 僕にとって、クラシックってすごく崇高なものだというイメージがあるんです。だから、3歳くらいから「クラシックをやりたい」と思える感覚って、すごく尊敬しますね。

Cocomi 我が家は家族全員音楽をやるので、家の中で誰かしらがいつも何かの楽器を弾いている感じで、音が絶えない家だったんです。だから、音楽が身近だった部分もありますね。むしろ私は小さい頃からアニメが大好きだったので、ずっと「声優さんって素敵なお仕事だな」と憧れていました。

花江 声優になりたいと思ったことはないんですか?

Cocomi ……あります。お恥ずかしいのですが、実はほんの数年、声優さんの勉強をしたこともあります……。

花江 え、そうなんですか! いつ頃ですか?

Cocomi 中学1年生くらいの時です。その頃は、すでにヴァイオリンからフルートへ転向していたのですが、フルートのレッスンと同じくらい力を入れて、声優のレッスンを受けていました。

花江 きっかけはなんだったんですか?

Cocomi 声優さんのお仕事自体にも興味があったのはもちろんなのですが、「滑舌を治したい」という目的もあったんです。というのも、私は子どもの頃からインターナショナルスクールに通っていたので、日本語の発音が凄く下手だったんですよ。たとえば、日本語で「オムライス」と発音するところを「ウォムライス」と言っちゃうとか……。

花江 訛りみたいなものですから、直すのは大変ですよね。どんなことをしたんですか?

Cocomi アフレコなどをやりましたね。ただ、役の切り替えや声の出し方など、すごく難しかったです。このとき、自分自身が少しだけ声優さんの勉強させていただいたからこそ、余計花江さんたち声優さんのすごさがわかるようになりました。

花江 へぇー! 僕は養成所には通ってないので、ちょっとうらやましいです。

Cocomi 全部独学で学んで声優になられたということですよね? そちらの方がすごいです。どんな訓練をされたんですか?

花江 小説や漫画を朗読して、その声を録音したら、周囲の人に聞いてもらって、「ここがいい」とか「ここが変」とか意見をもらっていました。ただ、努力というよりは、趣味の延長線上でやっていたので、辛さは全然ありませんでしたね。ちなみに、いまも声優の勉強はしていらっしゃるんですか?

Cocomi いえいえ! そのほかに声にまつわる勉強をしたのは、学校の授業でオペラを選択したくらいです。でも、個人的に、お風呂に入っているときに一人で声を出したりしてますね。漫画や本を読みながら、セリフを朗読してみたり。あと、声優さんの声マネをしてみたりとか……。どんなセリフやキャラを真似しているかは、恥ずかしいので内緒です(笑)。

花江 それは、気になりますね……(笑)。

アニメの音楽にはキャラクターや物語がある。

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Cocomi 花江さんが登場しているアニメのキャラクターソングもよく聴くのですが、花江さんは歌もお上手ですよね。

花江 ありがとうございます。僕はすごく歌が好きなので、そう言っていただけるとうれしいです。高校時代は毎日5時間くらいカラオケに行って歌ってたほどです。いまはカラオケ自体にあまり行かなくなりましたが、相変わらず自宅ではよく歌っています。妻も歌好きなので、よく自宅で一緒に合唱してますね。

Cocomi どんな歌を歌うんですか?

花江 テレビに流れるCMソングから、アニメの歌とか。最近だと「鬼滅の刃」のオープニングテーマ曲である「紅蓮華」が多いですかね。

Cocomi 「紅蓮華」は、私もよく歌っています! 音楽番組などで流れたとき、一緒になって歌っています。

花江 Cocomiさんのように楽器に精通された方だと、聴き方も僕らとは異なるんでしょうね。たとえば、「ここはこういう楽器を使っているな……」とか。

Cocomi 確かに音楽を聴くと、その曲に使われている楽器が気になってしまいますね。最近よく、花江さんもご出演されている「ハイキュー‼」の最新作のサントラを聴いているんですけど、「4期はこういう系統の楽器を使うんだな」とか「こういうテイストの音楽でいくのか」とか、考えながら聴いています。あとは、「ここはこのキャラとあのキャラが一緒にいるシーンなんだろうな!」とかその背景を想像したりとか……。

花江 へぇ、すごい! 僕もサントラはよく聴くんですが、使われている楽器やテイストを意識したことはあまりないかもしれませんね……。自分で作品のオリジナルの音楽を付けてみたりとかはしないんですか?

Cocomi  以前「NARUTO」の主題歌を、フルートで尺八風に吹いてみたことはありますね。ちょっと息を強く多めに吹き込むと、少し尺八っぽくなるんですよ(笑)。あとは、もちろん「鬼滅の刃」のサントラもよく聴いています。ちなみに、花江さんご自身はアニメを観たりすることは多いんですか?

花江 実はアニメは最近それほど見てないかもしれません。

Cocomi え、どうしてですか?

花江 アニメを観ていると、「この人はどうしてこうやって表現したんだろう」「自分だったらどう演じるかな」とか考えこんでしまって、集中できないことがあるんです。特にアニメの場合は、その声優さん自身と面識があることもあるので、「この人、こういう声も出すんだな」とか分析してしまったり……。そのほかにも、街中で活字に出会うと、心の中でナレーションしたりしていますね。

以前も、新幹線のドアの上のある電光掲示板にテロップで流れるニュース速報を観ながら、「あのゆっくりしたスピードで違和感なくナレーションするなら、どうしたらいいのかなぁ」と考えたりしていました。

Cocomi 常に声のことを考えて生活されているんですね。そうした日々のちょっとした出来事でも意識し、鍛錬されているからこそ、表現力が高まっていくのかなと感じました。私自身も、日々の生活で意識してみたいです。

Profile
Cocomi
笛吹き、モデル。東京都出身。3歳からヴァイオリンを、11歳でフルートを始める。現在もフルートをN響・神田寛明氏に師事。2019年、日本奏楽コンクールで最高位(1位なしの2位)を受賞。2018年、2019年の全日本学生音楽コンクールで、2年連続入選を果たすなどのコンクール歴を持つ。桐朋女子高等学校音楽科を卒業し、現在大学1年生。

花江夏樹(Natsuki Hanae)
声優。1991年生まれ、神奈川県出身。17歳のときに声優を志し、18歳から声優として活動。2014年に出演した「東京喰種」の主人公・金木研役や「四月は君の嘘」の有馬公生役などを通じて、第9回声優アワードの新人男優賞を受賞。以来、多数の話題作に出演。2019年にはアニメ「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎を演じ、第14回声優アワードでは初の主演男優賞を受賞。2016年からは「おはスタ」でMCとして参加。そのほか、ナレーションやラジオドラマなど多数のコンテンツに登場している。YouTubeでゲーム実況なども配信中。

問い合わせ先/
イッセイ ミヤケ  03-5454-1705
クリスチャン ディオール 0120-02-1947
サカスPR(KIDILL)03-6447-2762

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Photo: Masato Moriama at Trival  Hair&Makeup: Mikako Kikuchi at Tron(for Cocomi), Yui Kato at Fringe(for Natsuki)  Stylist: Ayaka Endo(for Cocomi), Yuya Murata at SMB International.(for Natsuki)  Text: Haruna Fujimura  Editors: Maki Hashida, Saori Asaka