文学の薫りが似合う女優。
若き実力派という言葉が、これほど似合う女優は多くはないだろう。24歳にしてすでにアカデミー賞に3度ノミネートされ、作品を重ねるごとに少女から大人の女性へと着実に成長を遂げてきたシアーシャ・ローナン。幼さゆえにある罪を犯してしまう女の子を演じた映画『つぐない』(07)は、彼女の底知れない才能を鮮烈に印象づけた作品だ。当時から子役という呼び名には収まらない存在感を発揮していたシアーシャは、以降も驚くほど多彩な作品に出演してきた。
アクションに挑んだ映画『ハンナ』(11)と異色SF映画『わたしは生きていける』(13)では現実をサバイブする少女を演じ、映画『レディ・バード』(17)では自分探しをする17歳の痛みときらめきをチャーミングに表現。一方、映画『ブルックリン』(15)や、映画『追想』(17)では文学の薫りが似合う女優であることも証明している。タイプキャストに陥ることなく作品を重ねてきた彼女だが、演じた役柄に共通しているのはインディペンデントな精神を感じさせるところだろうか。
「でも、私は本当に有名じゃないから.......」
青い瞳の奥に宿る聡明さと強い意志を生かして、忘れがたいヒロイン像を生み出してきた。アイルランド人の両親を持ち、故郷を愛するシアーシャはハリウッドのセレブリティの仲間入りをすることに興味はないらしい。インタビューで名誉や名声がなくても女優の仕事を続ける? と聞かれた彼女は「続ける」と答えたうえで、「でも、私は本当に有名じゃないから……。セレーナ・ゴメスは有名だけど」と語り、今でも外で誰かに気づかれると「びっくりする」のだという。
子どもの頃から華やかな世界に身を置きながら普通の感覚を持ち、プライベートでのゴシップとは無縁な彼女は、スターではなく女優としてキャリアを築く若い女優たちのロールモデルといえるかもしれない。最新作はマーゴット・ロビーとともに“ふたりの女王”を演じる映画『Mary Queen of Scots(原題)』(18)。演技の力によって新しい世界を切り拓いていくシアーシャの健やかな挑戦は、これからも続いていく。
シアーシャ・ローナン
1994年、NY生まれの女優。幼い頃に両親の故郷アイルランドに移住。アイルランドやイギリスで子役としてドラマや映画に出演。12歳のときに映画『つぐない』(07)のブライオニー役に大抜擢され、アカデミー賞助演女優賞にノミネート。
Text: Mika Hosoya Editor: Mihoko Iida