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草彅 剛──「シワの一本にも味がある、ヴィンテージのような人間でありたい」【THE ONES TO WATCH vol.1】

世代、性差、ジャンルを超えて『VOGUE JAPAN』が注目する人々が登場するスペシャル企画のトップバッターは、草彅 剛。『青天を衝け』での徳川慶喜役をはじめ、語らずして語る演技で俳優として快進撃を続ける。「人生のテーマは自分自身をヴィンテージにすること」と語るその真意とは?
「人生には正解も間違いもない」

視線や佇まい、顔に刻まれた一本のシワで、十人十色の感情を物語る──。語らずして語るその演技で、草彅剛が日本中を魅了し続けている。以前から演技力を多くの演劇人に絶賛されてきたが、トランスジェンダーを演じた映画『ミッドナイトスワン』では、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。NHK大河ドラマ「青天を衝け」では最後の将軍・徳川慶喜を好演。新境地を拓いた。「いつも目の前にある仕事のことで頭がいっぱいで、じっくりと過去を振り返ることは少ないんです。それでも、自分の仕事を褒めてもらえるのはうれしいですね。実はエゴサーチも大好きで、SNS上のコメントもよく見ます。悪い意見は極力流し、良い評価や声援を自分の活力にして、次の仕事に向かうようにしています。アカデミー賞受賞や大河の評判は、そんな僕にとって大きなご褒美でした」

10代の頃から国民的スターとして活躍し、2017年には「新しい地図」をスタート。ゼロからの再スタートが切れたのも、周囲の人々の存在が大きな支えになったからこそ。

「今、僕が活動できるのは、(香取)慎吾ちゃんや(稲垣)吾郎ちゃんなど、多くの人が支えてくれたおかげ。大きな決断の前では誰もが悩むと思うけど、人生には正解も間違いもないと思っています。常に自問自答はあるけれど、自分が楽しいと思う道を選び取る意志があるから、新たな一歩を踏み出せたんでしょうね」

止まらずに動き続ける理由は……。

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自らを誇示しない誠実な人柄でも知られるが、その柔和な表情や、人柄が伝わる言葉の一つひとつに、取材中もハッと惹きつけられる。穏やかながらも圧倒的な存在感は、いったいどこから生まれるのか。

「最近『青天を衝け』で共演した吉沢亮くんをはじめ、若いエネルギーにあふれる人に会うたびに、『僕がもう失ったものを持っている』と感じます。でも、だからこそ、年を重ねたことで生まれる輝きを、大切にするようになりました。僕は若い頃から古いジーンズやギターなどが好きで集めているのですが、今の人生のテーマは、自分自身をヴィンテージにすることですね」

だが、ヴィンテージにしても、ただ古くて希少価値が高いものには、さほど興味はないという。「僕が好きなのは、よく使い込まれて、メンテナンスされているもの。使われる回数が多ければ、当然シワもできるし、色褪せるし、傷もできます。でも、よくメンテナンスされていれば、そのシワや傷が、新品にはない独特の味や風合いを出すようになる。それがすごくかっこいいんです。自分もそんな存在になりたいから、止まらずに動き続けようと決めています」

魅力的なヴィンテージになるために。途切れなく仕事に打ち込んで“己を使い込む”一方で、自分自身を慈しむ時間も増えた。「欠かせないのは睡眠ですね。1日の睡眠時間は、最低8時間は確保します。今年は特に舞台の仕事が多かったせいか、以前より自分の体を気遣うようになりました。お風呂に入れば、足の裏をしみじみ見ながら『この足が今日の自分を支えてくれたんだ。ちょっと揉んでやろうか……』ってね(笑)」

取材の最後、まっすぐな視線で投げかけてくれたのが、「今の自分が一番好き」とのひと言。時を経るごとに深みを増すその横顔は、10年後、20年後、どんな風合いを見せるのか。その変化の過程を、今後も見つめ続けていきたい。

Profile
草彅 剛
1991年にCDデビュー。国民的なスターに。2017年に「新しい地図」として再スタートを切る。演技力も高く評価され、『ミッドナイトスワン』で、21年日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。主演舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』に加えて、2022年には松尾諭の『拾われた男』ドラマ版にも出演する。トーク番組「草彅やすともの うさぎvsかめ」のMCやYouTuberとしての活動も。

Photos: Takahiro Igarashi Interview & Text: Haruna Fujimura Stylist: Tomoki Sukezane Hair & Makeup: Eisuke Arakawa Editors: Maki Hashida, Yaka Matsumoto, Kyoko Osawa, Yui Sugiyama