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『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの人気を支えた名優たちにフォーカス

ジョニー・デップを揺るぎないトップスターの座に押し上げ、オーランド・ブルームキーラ・ナイトレイという若くフレッシュな才能を世に送り出した『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ。第1作『呪われた海賊たち』(2003)のヒットを受け、立て続けに公開された『デッドマンズ・チェスト』(2006)や『ワールド・エンド』(2007)に登場した主要キャストたちは、いかにして個性豊かなキャラクターを作り上げて演じたのか。その舞台裏や撮影秘話に迫る。
キーラ・ナイトレイ、オーランド・ブルーム、ジョニー・デップ『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』PIRATES OF THE CARIBBEAN  Keira Knightley Orlando Bloom Johnny...
© Walt Disney/Everett Collection

ジャック・スパロウ役 ジョニー・デップ

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)より。

© Walt Disney/Everett Collection

酔いどれの海賊ジャック・スパロウ役は、今やジョニー・デップの代名詞とも言えるが、『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)以前のジョニーは、作家性の強いアート系作品への出演が多く、当時は意外と思われた主演起用だった。

1990年代にディズニーパークの人気アトラクション「カリブの海賊」がテーマの映画化が企画された当初、ジャック・スパロウ役の候補に挙がったのはハリウッドの大物コメディ俳優たち──スティーヴ・マーティンやビル・マーレイ、ロビン・ウィリアムズだった。マイケル・キートンやクリストファー・ウォーケンなど個性派俳優や、若手ではマシュー・マコノヒー(脚本家のインスピレーションだった名優バート・ランカスターの若き日に似ていた)の名前も。共同脚本の1人、スチュワート・ビーティーはヒュー・ジャックマンを念頭に執筆したという。ジム・キャリーの名も挙がったが、『ブルース・オールマイティ』(2003)の撮影と重なり、NGとなった。

そんな紆余曲折を経てジョニーに白羽の矢が立ち、当時幼かった娘のリリー・ローズや息子のジャックを喜ばせたい気持ちもあって出演を決めた。常に酩酊状態で千鳥足だが、ユニークなスタイルとユーモアを持ち、窮地を切り抜ける悪運の強さがクールな海賊船の船長ジャックのモデルは、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズだ。キースはジョニーの友人でもあり、ジャックの父親役として映画に出演することも決まったが、ローリング・ストーンズのツアーがあり、3作目の『ワール・ドエンド』でようやく実現した。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(2007)より。

© Buena Vista Pictures/Everett Collection

ジョニーは入念な役作りに取り組み、多くのアイディアを監督にプレゼンし、一部の歯を金歯にするなど実現したものも少なくない。右あごの傷跡がシリーズを重ねるごとにだんだんと大きくなっていくのは、ジョニーとメイクアップ・アーティストの悪戯心によるものだという。アクセサリーなど私物も投入した装いは、重ね着した服のあちこちが破れたりしているが、不規則な形にしてあるのはジョニーのタトゥーを隠すため。撮影時は日光対策にコンタクトレンズを着用し、強い日差しの下でも目を見開いて演じるのが可能となった。入魂の演技で新しい海賊像を打ち出し、映画は世界中で大ヒットを記録、ジョニーは『呪われた海賊たち』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。

ウィル・ターナー役 オーランド・ブルーム

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)より。

© Walt Disney/Everett Collection

海賊だった父を持ち、鍛冶屋で働いて剣づくりのみならず剣の達人でもあるウィル・ターナー。総督の娘エリザベスと身分違いの恋に落ち、やがてジャックたちとの冒険に身を投じる青年を演じたのはオーランド・ブルームだ。有力候補の1人だったのはヒース・レジャーだが、キャスティングを進めていた当時、『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』(2001)が世界中で大ヒットし、同作でレゴラスを演じたオーランドの人気が急上昇していたことから、ゴア・ヴァービンスキー監督はオーランドに賭けることにしたという。

ちなみに『呪われた海賊たち』の予告編はオーランドが出演した『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(2002)が上映期間中に初めて映画館で流れたことから、『ロード・オブ・ザ・リング』ファンにも強烈にアピールすることに成功、オーランドは観客動員に貢献したと言えるだろう。オーランドは、ウィルをジャックに近い雰囲気でクールに演じるつもりでいたが、監督はウィルがいかにクールではないキャラであるか繰り返し説明した結果、かっこよくなりきれないところが逆にチャーミングなウィル像ができあがった。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006)より。

© Walt Disney/Everett Collection

2作目の『デッドマンズ・チェスト』にはエリザベスがジャックにキスするシーンがあり、目撃したウィルの「信じられない」という表情は説得力あふれるものだが、これはウィルというよりオーランド本人のリアクションだった。というのも、彼に渡された台本からはキスシーンが意図的に省かれていたからだ。ナチュラルな驚きと困惑の表情をとらえようとした演出が功を奏した。

エリザベス・スワン役 キーラ・ナイトレイ

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)より。

© Walt Disney/Everett Collection

ジャマイカのポート・ロイヤル総督の娘だが、結婚をお膳立てした父に背き、恋人のウィルと行動を共にするエリザベス・スワンを演じたキーラ・ナイトレイは撮影当時、17歳の若さだった。ファーストチョイスのキーラに次ぐ候補は、ソフィア・マイルズやジェシカ・アルバジェイミー・アレクサンダーで、アマンダ・バインズの名前もリストにあったという。

主演映画『ベッカムに恋して』(2002)などで注目されての大抜擢だったが、キーラ本人は『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』がヒットするとは思っていなかったようだ。1作目と同年に公開された『ラブ・アクチュアリー』(2003)の撮影現場でリチャード・カーティス監督が「次の作品は?」と尋ねたところ、「海賊関係の何か。たぶん失敗作!」と答えたそう。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006)より。

© Walt Disney/Everett Collection

『ベッカムに恋して』でサッカーに打ち込む少女を演じるためにショートにした髪が伸び切らず、『パイレーツ』の撮影ではヘアエクステンションで対応した。その頃、母国のイギリスでは新進スターのキーラをバッシングする報道、それも容姿に関する内容が相次ぎ、精神的に不安定になっていた彼女は「どうせすぐクビになる」と思い込み、渡米の時も小さなバッグしか持っていかなかった。まだティーンだった娘を案じて、撮影の全日程にキーラの母親が同行したという。蓋を開けてみれば、映画は大ヒットを記録し、キーラも一躍大スターとなり、自信を取り戻した。2作目の『デッドマンズ・チェスト』でエリザベスがジャックに手錠をかけるために一計を案じる場面があるが、これは脚本が未完状態の時点でキーラが提案したそうだ。

バルボッサ役 ジェフリー・ラッシュ

『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)より。

© Walt Disney/Everett Collection

ジャック・スパロウからブラックパール号を乗っ取り、船長となったバルボッサを演じたのは『シャイン』(1996)でアカデミー賞主演男優賞に輝いたジェフリー・ラッシュ。単なる敵役には収まらないキャラクターとして存在感を放っている。DVDのコメンタリーによると、ジェフリーは「人間はスクリーンを見るとき、読書するのと同じように左から右を見る」という持論に基づいて、なるべく画面の左側にいるように心がけたいう。特にペットの猿のジャックとエリザベスと一緒のシーンでは「そうでもしないと誰も見てくれないから」と左側にいるようにしたそうだ。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(2007)より。

© Buena Vista Pictures/Everett Collection

また2作目『デッドマンズ・チェスト』のラストにバルボッサが登場するシーンでも、サプライズが仕掛けられていた。実はキャストたちに渡された台本では、この場面に登場するのはゾーイ・サルダナ演じる女海賊のアナマリアとなっていた。階段から降りてくる人物を見て、オーランドやキーラが驚きの表情を浮かべるのは演技に素のリアクションも混ざったいて、大げさな表現ではなく、微妙に目が泳ぐ様子などが実にリアルだ。

デイヴィ・ジョーンズ役 ビル・ナイ

『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006)より。

© Walt Disney/Everett Collection

『デッドマンズ・チェスト』と『ワールド・エンド』でジャックの宿敵となる幽霊船「フライング・ダッチマン」号の船長デイヴィ・ジョーンズ。顔面からタコの足が生えている異様な風貌で、冷酷非情なキャラクターを演じたのはビル・ナイだ。『ワールド・エンド』ではなぜ彼が悪に染まったかが語られるが、複雑でドラマティックな背景を持つキャラクターを演じる候補には、リチャード・E・グラントやジム・ブロードベント、クリストファー・ウォーケンの名前も挙がったという。

ビルは直接監督からオファーの電話を受けた。その際に船名のフライング・ダッチマンに合わせてオランダ訛りで話す役だと聞かされたが、「スコットランド訛りならできる」と答えて、それが採用された。『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズでほかのキャラクターが使っていないアクセントにしたいという考えもあっての提案だった。参考にしたのはお気に入りだったスコットランドのシットコム「Still Game(原題)」だ。「アクセントの強さのようなもののヒントを得た」とビルは語っている。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』(2006)より。

© Walt Disney/Everett Collection

顔や手についているタコの足は全てアニメやCGで付け加えたもので、撮影時は「コンピュータ・パジャマ」と彼が名付けたビッグスーツとスカルキャップを着用し、顔には250もの白いドットが付けられた状態で演じることになった。本人曰く、「バカみたいな格好」で恐るべきヴィランになりきるためには「非常に想像力を要した」そうだ。1シーンだけ、ウィルが彼から鍵を盗むシーンだけは実際の触手をつけて撮影した。皮膚のテクスチャーは使用済みの発泡スチロール製のコーヒーカップを利用、コーヒーで着色したカップをスキャンして表現したという。

Text: Yuki Tominaga