1981年生まれ、“Queen Bey”の愛称で世界中から愛されるビヨンセは、シンガー、ソングライター、そしてパフォーマーとして揺るぎない地位を確立したスーパースターだ。幼少期よりさまざまな歌やダンスのコンテストに出演し、1990年代後半にR&Bガールズグループ「デスティニーズ・チャイルド」のメンバーとしてデビュー。その後ソロデビューアルバム『デンジャラスリィ・イン・ラヴ』(2003)からのシングルカットで、Jay-Zをフィーチャーした「クレイジー・イン・ラヴ」で世界的にブレイクした。昨年はアルバム『ルネサンス』をリリースし、2月5日に行われる第65回グラミー賞では年間最優秀アルバム賞をはじめ、9部門でノミネートされている。
また、映画『オースティン・パワーズ・イン・ゴールドメンバー』(2002)を皮切りに、『ドリームガールズ』(2006)、『ライオンキング』(2019)などで俳優としても活躍。多彩な才能を世界に見せつける彼女は、名実ともにショービズ界の“クイーン”だ。
国連との水衛生プロジェクトや自然災害時などの人道支援
そんな彼女はまた、社会的弱者のために尽力する活動家としても広く知られている。2013年に立ち上げたチャリティ財団「BeyGOOD」では、自然災害時の簡易ベッドや日用必需品、車椅子、食料などの購入や、長期的な復興支援を続けている。
「衛生的な水源が生活の中にあることは、人間の基本的な権利です。子どもたちに清潔で安全な水を与えることは、単に延命するだけではなく、彼らの健康や教育、そして明るい未来を与えることを意味しています。私は、ブルンジがいま直面している水危機の持続的な解決に貢献することを約束します」
2017年7月、BeyGOODは国連とパートナーシップを組み、ブルンジの水源問題の解決に挑む国際プロジェクト「BEYGOOD4BURUNDI」をローンチ。東アフリカの内陸国で最も支援が届きにくい地域である同国に対し、水や衛生設備、そして基本的な衛生習慣を改善するプログラムのサポートを行ってきた。
また同年8月に、故郷であるアメリカ・テキサス州ヒューストンをハリケーン・ハービーが襲った際には、被災者支援のために、新イニシアチブ「BeyGOOD Houston」をすぐさま立ち上げ、こうメッセージを発信した。
「私の故郷を襲った今回のハリケーンで被災された方々と、勇敢なレスキュー隊へ、私は毎日祈りを捧げています。そして私自身も、BeyGOODチームとともにルディ・ラスマス牧師と緊密に連携をとり、できる限り多くの被災者の生活をサポートします」
一方、2020年のパンデミックの最中には、米国疾病予防管理センター(CDC)が、「人種的・民族的マイノリティグループ、特に黒人患者の間で病気や死亡の負担が不均衡である」と示唆したことから、ヒューストンの人たちに新型コロナウイルスの検査を受けるよう促す“#IDIDMYPART”キャンペーンを実施。フェイスマスクや手袋、ビタミン剤、家庭用品、ギフトカードや無料食事引換券を配布するなど、現在も黒人コミュニティを中心に大規模な支援を続けている。
モダン・フェミニズムのアイコン
「私は、意識的にフェミニストになったわけではないのですが、私がデスティニーズ・チャイルドという女性グループで育ったことが大きく影響しているのは間違いありません。私は女性である自分を愛していますし、女性の友達も同様に愛しています。だから、この友情を決して裏切りたくない。みなさんがフェミニストとはどういうものなのかを理解しているかは分かりませんが、私にとってそれは至極シンプルなこと。それは、“すべての人の平等な権利を信じる人”のことを言います。だから、“フェミニスト”と聞くとネガティブな印象を持たれたり、異性を排除するという思考になぜなりえるのかが理解できないのです。あなたが男性でも、どんなジェンダーでも、自分の娘にも息子と同じ教育や就業の機会や権利が与えられるべきだと考えるなら、あなたもフェミニストなのです」
2020年10月に『ピープル』誌にこう語った彼女は、自身の楽曲とパフォーマンスに、ジェンダー平等社会の実現のための強い思いを込め、世界に発信し続けている。
2011年のビルボードミュージックアワードで披露した「ラン・ザ・ワールド (ガールズ)」のパフォーマンスでは、10人編成の女性バックバンド、女性バックシンガー、120人の女性ダンサーを従え、多様な人種や民族を代表する女性たちの“ガールズパワー”を力強く表現。
「世界を動かしているのは誰?ガールズ!この社会を動かしているのは誰?ガールズ!」(「ラン・ザ・ワールド (ガールズ)」より和訳・引用)
女性たちをパワフルに鼓舞するこの曲は、モダン・フェミニズムのアンセムとして強烈なインパクトを与え、今なお世界中で愛されている。
私はフェミニストであり、ヒューマニスト
「男性が社会で直面する文化的な圧力に関しては、私たち女性が経験するさまざまなプレッシャー同様に心を寄せています。だから、私は自分のことを単なる“フェミニスト”ではなく、ジェンダーのいかんに関わらずすべての人々のために心を砕く“ヒューマニスト”だと思っています」
こう語る彼女は、基本的人権の尊重を訴えるメッセージを楽曲の随所に散りばめてきた。
「パパはアラバマ、ママはルイジアナ、混血の私は、このアフロヘアも、ジャクソン5みたいな黒人ぽい鼻も好き。どんなにお金を持っても、故郷は捨てない」(「フォーメーション」より和訳・引用)
2016年にブルーノ・マーズ、コールドプレイと共演した2度目のスーパーボウルのハーフタイムショーで披露した曲「フォーメーション」のパフォーマンスでは、1993年にマイケル・ジャクソンがハーフタイムショーに出演した際に着用していたのと同じ軍服スタイルで登場。60年代後半〜70年代にかけて、アメリカ国内で黒人解放闘争を展開してきた急進派「ブラックパンサー党」を象徴する黒の衣装に身を包んだバックダンサーとともに、マルコムXのフォーメーションを作りながら、迫力あるパフォーマンスを披露した。人種差別撲滅のメッセージを力強いダンスとヴォーカルで世界中に発信したこのショーは、今も人々の記憶に鮮明に残っている。
音楽と夫と子どもに対して抱く、永遠の愛
人道主義者であり、モダン・フェミニストとして世界中に強烈なインパクトを与え続けるビヨンセ。プライベートではジェイ・Zことショーン・コーリー・カーターとの間にブルー・アイヴィーと双子のルミとサーの3児をもうけ、多少の波風はありながらも、今年で結婚15周年を迎える。あまりインタビューを受けないことでも知られる彼女は、かつて“結婚”について、「クリスチャンポスト」紙でこんなコメントを残している。
「よく結婚すると何かを失う、と考える人がいますが、私はそんなことはないと思っています。“人生の証人”がいるということは、とてもエキサイティングなこと。結婚とは、パートナーシップを結ぶという事です。そして、誰もがすべてにおいて優れているわけではありませんから、誰かに頼ってもいいのです。あなたが信頼し、愛し、あなたに尊敬の念を向け、ネガティブな面も受け止めてポジティブに反転させてくれる人──つまり、あなたのベストを引き出してくれると感じる人を見つけたとき、それはあなたの糧となり、内なる強さに変わる。ひとつ確かなことは、私が音楽と夫と子どもに対して抱いている愛は、永遠だということです」
Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba