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『アルマゲドン』がもっと面白くなる、5つの事実

地球を壊滅させる規模の小惑星の接近という人類滅亡の危機に直面し、とてつもないミッションを担って宇宙へ飛び立つ石油掘削のスペシャリストたちが奮闘する『アルマゲドン』(1998)。ブルース・ウィリスが個性豊かなチームを率いて任務にあたる主人公を演じ、愛娘との親子の絆もエモーショナルに描いた1990年代のSF大作は、製作背景もドラマティックなエピソードに満ちていた。
ブルース・ウィリス『アルマゲドン』ARMAGEDDON  Bruce Willis 1998
Photo: © Touchstone Pictures/Everett Collection/amanaimages

1. クライマックスシーンはクランクインの日に撮影

映画の撮影は必ずしも時系列に沿った順撮りではないのは常だが、いきなり重要なシーンから撮ることは珍しい。『アルマゲドン』(1998)では、初日に石油掘削作業員の主人公ハリー(ブルース・ウィリス)と愛娘グレース(リヴ・タイラー)の別れというクライマックス・シーンの撮影が行われた。そこでブルースが用意したのは、実の娘たちの写真。デミ・ムーアとの間にもうけた3人の娘たちに別れを告げるのを想像しながら演じたという。一方、リヴも実父のスティーヴン・タイラーの写真を見ながら気持ちを盛り上げ、モニター越しの切ない別れのシーンが完成した。

Photo: © Touchstone Pictures/Everett Collection

父と娘の絆と並行して、グレースとA.J.(ベン・アフレック)の恋愛も描かれるが、これは『タイタニック』(1997)の大ヒットを受けてのものだ。当初の脚本は、ハリーとNASA総指揮官トルーマン(ビリー・ボブ・ソーントン)の物語になっていたが、スタジオ側は恋愛要素が必須と考え、ロマンティックな要素を大幅に増やしたという。エンドクレジットではグレースとA.J.の結婚式の様子が流れるが、このシーンはベンのアイデアでスーパー8のカメラで撮影された。

2.マイケル・ベイ監督の高い要求

Photo: © Touchstone Pictures/Everett Collection

ベン・アフレックは、マイケル・ベイ監督に「NASAが宇宙飛行士に石油掘削の訓練をさせる方が、石油掘削員を宇宙飛行士にするより簡単なのでは?」ともっともな疑問をぶつけたところ、監督は黙れと一喝。さらに監督やプロデューサーのジェリー・ブラッカイマーから、体を鍛えてセクシーになるようにと日焼けとワークアウトを課せられたのだそう。「ジムで走って、体にオイルを塗って、トップレスの男性カレンダーモデルみたいになった。マイケルは『これを予告編に入れて、チケットを売るぞ』と思ったんだろうね」と振り返っている。

Photo: © Touchstone/Everett Collection

そして、ベンには歯の審美治療も課せられ、歯科医のもとで1日8時間、1週間かけて小さい乳歯のようだった歯を義歯に置き換えることに。費用は約2万ドルかかったそうだ。ちなみに掘削チームのロックハウンド役のスティーヴ・ブシェミが歯の矯正に興味を示したところ、監督は「君は百万ドルのスマイルの持ち主だ」と断念させたという。

ハリーたちがNASAに任務を引き受ける条件を提示するシーンのために、監督は各俳優に「もし自分がこの状況に置かれたら何を要求するか」を事前に紙に書かせた。ブルースはそのリストを実際に見ながら即興で演じたという。

そんな彼が本作に出演したのは、自身が製作・主演しディズニーで配給予定だった『Broadway Brawler(原題)』がトラブルで製作中止となったから。負債返済のためにディズニーと3本の出演契約を結んだうちの1本が『アルマゲドン』だった。残り2本は『シックス・センス』(1999)と『キッド』(2000)。契約の一環として、ギャラも大幅に抑えられた。

3.脚本のリライトにはJ・J・エイブラムスも参加

2009年、ユニセフのチャリティイベントに出席したブルース・ウィリスとJ・J・エイブラムス。

Photo: Kevin Mazur/WireImage

本作には「脚本・脚色・ストーリー」として5人の名前がクレジットされたが、実際は9人の脚本家が執筆にあたっている。そのうちの1人がJ・J・エイブラムス。当時はまだTVシリーズ「エイリアス」や「LOST」を手がける前で、スクリプトドクターとして脚本の手直しをしていた彼は、ブラッカイマーからリライト要員として召集された一人だ。

『アウトブレイク』(1995)のロバート・ロイ・プールによるオリジナルをもとに、本作プロデューサーのゲイル・アン・ハードの夫でもあるジョナサン・ヘンズリーがまとめた脚本を、さらに複数の脚本家が推敲を重ねた脚本のクレジットについて、1998年7月の全米公開前にアメリカ脚本家組合(WGA)仲裁委員会は、エイブラムスを含む5人の記載を決定した。

グレースとA.Jのロマンスの部分は大半を担当したスコット・ローゼンバーグ、ポール・アタナシオやロバート・タウンといったアカデミー賞候補や受賞経験もある著名な脚本家は、クレジットなしとなった。

4.NASAの協力で迫力の映像が実現

Photo: © Touchstone/Everett Collection

愛国的な内容でもあり、スペースシャトルが登場するシーンではNASAの協力を得て、実物を撮影することに成功した。打ち上げシーンでは16台ほどのカメラの設置も許可されたが、発射台に置いたカメラは激しい衝撃でネジが全て外れて分解してしまったのだそう。

ハリーたちがシャトルに向かって歩くシーンに登場する機は、撮影の数日後に打ち上げられる予定があり、安全のために撮影はわずか数分間しか許されず、照明や音響機材を持ち込むこともできなかった。シャトル内に入らないことが条件だったが、ベンは一瞬だけ中に入ってNASAの技術者に注意されたという。他にも実物の石油掘削機を使用するなど、機材費は190億ドル相当かかっている。

一瞬登場するカメオ出演の面々にも注目したい。松田聖子は、乗車中のタクシーが渋滞に巻き込まれた日本人観光客役で出演した。これは、ベイ監督が松田聖子のMVを制作していたプロパガンダ・フィルムズに所属していて知り合いだったのが縁。監督自身もNASAの科学者役で登場している。また、撮影当時に宇宙飛行士で女性として最長の宇宙滞在記録を保持していたシャノン・ルシッドが、ハリーたちが行う水中シミュレーションのシーンの背景にいる。

5.主題歌「ミス・ア・シング」の誕生秘話

Photo: © Walt Disney/Everett Collection

リヴの実父であるスティーヴン・タイラーがフロントマンをつとめるエアロスミスによる主題歌「ミス・ア・シング(I Don't Want to Miss a Thing)」は、ポップソングのヒットメイカー、ダイアン・ウォーレンが映画のために書き下ろしたもの。エアロスミスはそれまで他人が書いた曲を演奏したことがなかったが、娘の出演映画の主題歌というだけではなく、曲そのものを気に入って実現。ダイアンによると、スティーヴンはつい最近になって「君がピアノでデモ演奏をしてくれるまで、やる気になれなかった。迷っていた」と告白したそうだ。

インスピレーションとなったのは、バーブラ・ストライサンドの夫ジェームズ・ブローリンのインタビュー記事だった。「彼女がいないとき、眠りにつくのが嫌」という発言から、まずタイトルを思いつき、曲のアイデアを温めていたところ『アルマゲドン』の依頼が来た。当時、一緒に就寝している愛猫の寝息を聞くのが好きだったことから、「I could stay awake just to hear you breathing」という歌詞は生まれたという。実はセリーヌ・ディオンのような女性シンガーを想定して書き上げた曲だが、「マッチョなロックスターであるスティーヴンが繊細な歌詞を歌うことで、それまでにない別次元の魅力が生まれた」とダイアンは語っている。

Text: Yuki Tominaga