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小池栄子の愛とキャリア。『鎌倉殿の13人』で見せる生き様に触れる。(後編)

表現者として円熟味を増し、凄みを感じるほどのNHK大河ドラマでの熱演でファンを増やし続ける俳優・小池栄子のインタビュー・後編。豊かな感受性と懐の深さ、柔軟でスマートな思考を武器に、演技の幅を広げる彼女の、役を通した作品への愛、仕事への向き合い方を探る。※「俳優・小池栄子が語る、彼女の愛の形とは?(前編)」はこちらをチェック。

『鎌倉殿の13人』、北条政子を演じて。

スリーブ ¥33,000/HAENGNAE(ヘンネ カスタマーサポート)  ドレス ¥147,400/ROSETTA GETTY(メゾン・ディセット)

── まずお伺いしたいのは、大河ファンならずとも日曜夜を心待ちにさせるNHKの『鎌倉殿の13人』。北条政子役、いかがですか。

「演じていて、擦り切れるし痺れます(笑)。小栗(旬)さんとも、人相変わってきたよね、悪い顔になってない? と。これから実年齢を超えて50代、60代を演じるので、さらに学びの連続。いい意味で緊張感を味わっています」

── 御台所も、愛の人ですよね。

「鎌倉幕府の発展に尽力した尼将軍として知られ、強い女性のイメージですが、頼朝様の意思を継いで政治の世界へ足を踏み入れることはどれだけ心細かっただろう、と。大切な人を亡くし、愛し合っていた家族がバラバラになり、でも泣いてなんていいられない、やらなきゃならないことがある。私自身、撮影現場で大泉さんがいなくなって不安になったほどです。頼朝様への想いと周りの愛が支えてくれたからこそ、頑張れたんでしょうね」

── 愛にまっすぐで嫉妬心も強い北条政子にシンパシーを感じるところはありますか?

「仕事に関しては情熱的にのめり込むことがあっても、恋愛において、あまり激しさはないかもしれない。わかったー、いいよー、という、受け身ののんびりタイプです」

撮影のビハインドザシーンと、インタビュー動画では、愛犬との初共演を披露。

── 今まで小池さんが演じた中で、記憶に残るラブシーンはありますか?

「私自身はこれまでラブシーンを任されたことがほとんどなくて。男女ではありませんが、究極の愛の形を感じたのは、日本テレビ系列の『母になる』というドラマ。子供に恵まれない女性の役で、他人の子を連れ帰り、7年間自分の子供として育て、実の母と対決するというもの。撮影の3カ月は濃い時間で、とにかく可愛くて、芝居といえども誰にも触れさせたくないと思ってしまうほど愛おしい。人生で味わったことのない無償の愛を経験させてもらいました」

── では、印象に残っている恋愛作品は?

「バーバラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが共演した1973年公開の映画『追憶』。性格も思想も何もかも正反対の2人が惹かれあって、ぶつかりあって、最終的には別れてしまうのですが、出会いから恋に落ちるまで、恋愛の要素が全部詰まっています。静かなんだけどジェットコースターのような感情の抑揚があって。何度も見返す作品です。この年齢になってあらためて観たら、政治活動に積極的な自己主張の強いヒロインを、尊敬しながら愛する男性の器の大きさにグッときました」

恋愛も仕事も、基本スタンスは受け身。

撮影には愛犬2匹を同伴。常に彼女のまわりを離れないその様子から、愛情をたくさん与えらている様子が伝わった。スリーブ ¥33,000/HAENGNAE(ヘンネ カスタマーサポート)  ドレス ¥147,400/ROSETTA GETTY(メゾン・ディセット)

── 最近ときめいたラブシーンがあれば、教えてください。

「残念ながら、今の私のマインドがワンコ中心になってしまっていて。究極は、『僕のワンダフル・ライフ』の、人間と犬の久しぶりの再会のキスシーン。これに勝るラブシーンは近年見ていない気がします。でも素直に胸がキュンキュンするものはありますよ。韓国俳優のパク・ソジュンコン・ユが好きなので『キム秘書はいったいなぜ』とか『トッケビ』とか。気持ちがふわっと明るくなるようなラブシーンは、おもに韓国ドラマでいただいてますね」

── 日本の場合、恋愛模様を描くドラマや映画の主人公は、ほぼ10代、20代。大人が楽しめる作品が少ないですよね。

「キラキラした若い美男美女が主人公というスタイルは、もう古いんじゃないかな。同じくらいのボリュームで大人の恋愛も描いてほしいし、ミドルエイジが主役の、不倫や略奪ではないラブストーリーを見てみたい。今は40代、50代の魅力的な女性がこんなにいるのに、そこをターゲットにしないのは不思議なくらいです」

── 一定の年齢になると、お局や母親役。実際には、独身生活を謳歌するミドルが多い時代なのに、作り手の感覚が遅れていると感じます。

「ほんとにね。“女は若い方が”なんていう男性は、いい恋愛をしてこなかったのかしら、と思っちゃう(笑)。大人も積極的に素敵な恋愛を楽しめる文化が育てば、若い人も歳を重ねることを成熟ととらえ、老化が恐怖じゃなくなるのでは?」

── 恋愛作品のヒロイン、やってみたいと思いますか?

「それが、何かをやってみたいという感覚はほとんどなくて。受け身が基本で、常に、きたものを喜んでやらせていただくスタンス。意図していない仕事が来るのが楽しいんです。ただキャリアが長くなるとどうしてもオファーされる役どころが固まって絞られてしまうので、そこは悩みでもあります。煮詰まったら、こういう作品のこんな役をやりたい、と思うのかもしれません。企画するなら舞台がいいですね」

ドレス ¥288,750/SIMONE ROCHA(ドーバー ストリート マーケット ギンザ)  イヤリング ¥6,160,000/TASAKI(タサキ)  パンプス ¥128,700/CHRISTIAN LOUBOUTIN(クリスチャン ルブタン ジャパン)

── 恋愛も仕事も、基本スタンスは受け身、というのは意外な気がします。

「主体的に何かをするタイプではなく、いろんな人の考えや行動を見て感じて吸収して影響を受けて、美味しいとこどりしてきた人間です(笑)。セルフプロデュース能力もないし、SNSで自己発信したいとも思わない。役を与えられてそれを演じる俳優という仕事は受け身の最たるもので、私にはとても向いています。行動も発言もリアルな自分から遠い、意外な役ほど発見や冒険があって楽しい。一つ役をやるごとに、気づいたら自分の感情の引き出しも増えて、成長している感じです」

── 役者としても人間としても女性としても熟成されて、脂が乗っていく理由がわかりました。最後に、ご自身は加齢をどう捉えていますか?

「40代になって、肌も体も若い頃とは確実に変わりました。でも20代の頃だって、自信満々ではなく、もっと痩せたい、顔がパンパンで嫌だな、と悩んでいたわけじゃないですか。昔に戻りたいなんて、1ミリも思いません。美容医療という選択もあり、この年齢になると感覚は人によって大きく違うようですが、私は、シミやシワも含め、積み重ねた時間が表れる今の自分を否定したくないんです。芸能界には、倍賞(美津子)さん、(宮沢)りえさん、(鈴木)京香さんなど、ナチュラルで魅力的な先輩がたくさんいます。20代、30代のような見た目を目指すより、ある意味覚悟を持って、流れるように年齢を重ねる人生が素敵だな、と」

Profile
小池栄子(こいけえいこ)
1980年、東京都出身。1998年ドラマデビュー。以降、TV、映画、舞台、CMとジャンルを超えて活躍。2009年に映画『接吻』で毎日映画コンクール主演女優賞、2012年に映画『八日目の蟬』で、日本アカデミー賞優秀助演女優賞、キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞など。2016年には主演舞台「グッドバイ」で読売演劇大賞・最優秀女優賞を受賞。現在放送中のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に北条政子役として出演。

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Photos/Cinematographer: KINYA Styling: Aya Fukushima(OTUA) Make Up: Koichi Yamaguchi Hair: Tomo(Perle) Text: Eri Kataoka Video Director:Yukari L.Takatori (blackout pictures)  Video Producer:Yosuke Endo Editor: Kyoko Muramatsu 

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