ある穏やかな春の日の朝、赤西仁は愛車のメルセデス・ベンツGクラス、カスタマイズ・モデルを停め、ロサンゼルスの明るい陽光の中へと足を踏み出した。写真撮影が行われるウエスト・ハリウッドのスタジオへと向かう、このスターの洗練された身のこなしを、同行するカメラクルーが追いかけ、映像に収める。
赤西は日本ではトップアイドルとして君臨し、20年以上にわたり、音楽活動やドラマや映画への出演、曲作りなどを手がけてきた実績を持つ。そんな彼にとって、今日のような朝早い時間からの撮影で自らのスイッチをオンにすることなど、容易なのだろう。「友達数人と。でもけっこう遅くなったね」と、やんちゃさを感じさせる笑みを浮かべながら昨夜を振り返ると、サングラスを外してディレクターズチェアに収まり、撮影前のヘア&メイクに臨んだ。
きょうの赤西の私服は、片脚だけすそをたくし上げたスウェットパンツに、オーバーサイズの白いTシャツといういでたちだ。フォトグラファーのトーマス・ホワイトサイドと、撮影のファーストルックについて話すその姿には、自信がみなぎっている。この自信こそ、彼をスーパースターへと押し上げた原動力だ。彼はあらゆることに意欲的で、インスピレーションを得るためなら、創作活動でリスクをとることもいとわない。
今や36歳になった赤西だが、Jポップのレジェンドとしてファンを熱狂させた、ほお骨が高く彫りの深い顔立ちは、さらに美しさとシャープさを増している。メイクアップ・アーティストのナターシャ・セヴェリーノが、彼の左目にコバルトブルーのアクセントを加えていく。セヴェリーノはこれを「アシンメトリー・デザイン」と名付けた。その姿は、デヴィッド・ボウイの6枚目のアルバム、『アラジン・セイン』のジャケット写真のようでもあり、屈託のない好青年にも見える。このような二面性を持つ、大胆なルックへの挑戦は、ほんの数年前でもしり込みする男性タレントは多かったはずだ。
「男性的な側面をメイクを施すことでより浮き彫りにして、創造性の表現として見せたかったの」と、赤西の顔に光沢感のあるピグメントをブラシですべらせながら、セヴェリーノは5つのメイクルックの意図を説明してくれた。「メイクアップは想像力、そしてカルチャーや本人の自己表現の延長なのだから」
そして赤西自身も「男らしさ」という既成概念を捨てきれない一面も見せるものの、メイクという大胆な試みに挑戦することをいとわない、自由な魂の持ち主だ。今日のヴォーグ ジャパンのビューティーストーリーを飾るというプロジェクトも、アーティストとして新たな刺激を得るコラボレーションの機会ととらえている。「アート的なクリエイションとして、今日の撮影を受けとめています」
近ごろ、赤西の夢の実現を大きく後押ししているのも、さまざまな分野での「創造性の表現」だ。彼が抱いてきた夢の多くはすでに叶えられているが、それでもなお、彼には大きな志がある。さまざまな新しいプロジェクトを実現させており、すでにオープンしたYouTubeチャンネル「NO GOOD TV」もそのひとつだ。さらに今、彼が最も情熱を注ぐのが、「大きな」映像プロジェクト。現在製作中というこのプロジェクトについて、赤西は多くを語らなかったが、まもなく詳細が明らかになることを教えてくれた。
赤西は以前にもロサンゼルスで暮らしていたことがある。2010年、この街に拠点を構え、東京と往復する生活を送っていたのだ。2013年にはキアヌ・リーブス主演のサムライ・アクション映画『47RONIN』への出演を勝ち取り、重要な役どころを演じた。また、ジェイソン・デルーロをフィーチャーしたアメリカでのファースト・シングル「Test Drive」は、iTunesストアのダンス・チャートでナンバーワンに躍り出た。
日本での大成功に比べると、アメリカでの実績はささやかかもしれないが、赤西は未知の世界に飛び込んだことに喜びを覚えている。何より、今はアーティストとして、自由に自らのヴィジョンを形にすることにフォーカスしている。そして、現在のカリフォルニアでの活動は、他の誰でもない、赤西の意志で行われているものだ。
セヴェリーノが最後の仕上げを加えてメイクを完成させると、次はネイルだ。その爪に、黒い星、月、ドットが描かれていく。そのデザインは彼の作品などからインスパイアされたものだ。赤西は、マニキュアを塗ること自体、今回が初めてだったと告白する。ネイルアーティストが爪の甘皮を取り除いたのにも驚かされたという。「裸になった気がする」と彼は言い、自分の爪を見つめた。
Model: Jin Akanishi Photos: Thomas Whiteside Hair: Rob Talty at Forward Artists using R+Co Makeup: Natasha Severino at Forward Artists using Pat McGrath Labs Manicure: Yoko Sakakura at A-Frame Agency using Chanel Stylist: Sandra Amador and Tom Eerebout Stylist Assistant: Chloe Takayanagi and Jaiin Kang Production: Emmanuel Tanner at Eiger Agency Creative Consultant: Studio Handsome Text: Kai Flanders (Interview), Misaki Yamashita(Makeup Tips) Editor: Kyoko Muramatsu