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「彼女の心の変化を映し出すようなファッションを」──映画『バービー』の衣装デザイナー、ジャクリーヌ・デュランに最速インタビュー

8月11日に全国公開を控える、グレタ・ガーウィグ監督による超大作『バービー』。そのコスチュームデザインを手掛けたジャクリーヌ・デュランに、US版『VOGUE』がインタビュー。バービーの世界観を体現した何百ものルックを、彼女はどのように作り上げたのか? そのインスピレーション源から、計算し尽くされたカラーチャートまで、衣装制作の舞台裏を明かしてくれた。
Photo: Jaap Buitendijk

「バービーとファッションは、切っても切れない関係にあります」と断言するのは、グレタ・ガーウィグ監督作『バービー』(8月11日全国公開)のコスチュームデザインを手掛けたジャクリーヌ・デュランだ。「バービーは着飾って遊ぶもの。彼女にとって、ファッションは表現手段なのです」。ガーウィグ監督とは、アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)でもタッグを組んだが、彼女がこの仕事を依頼されたとき、そのプロセスが他とは異なることに気づいたという。

「バービーは通常のキャラクターと同じように扱えません。なぜなら、彼女が身につけるものすべてが内面の表れではないからです」とデュランは言う。それもそのはず、バービーはかなりプラクティカルで、その装いは彼女がどこへ行くのか、何をするのかを表したものだからだ。デュランはさらにこう説明する。「彼女は目的に合わせて着飾るのです。どのバービーにも、服のセットが付いていますよね。ビーチがテーマなら、ドレスやロンパース、バッグ帽子シューズにアクセサリーまで、すべてのアイテムが付随しています。このセットは、バービーランドで何が起こっているかによって変化するのです」

何百ものルックの基盤となった“カラーチャート”

ピンクのドレスで“完璧”な1日をスタートさせるバービー。

Photo: Jaap Buitendijk

ギンガムチェックドレスのスケッチ。

Photo: Courtesy of Warner Bros. Pictures

この映画にとって重要なセッティングは、ビーチ。そこで「マリブのバービーが鍵」となった。しかし、デュランはオリジナルの人形をそのままコピーするのではなく、1950年代と1960年代を参考にし、ブリジット・バルドーから着想を得たレトロなひねりも加えたのだそう。

バービーランドの衣装はすべて、デュラン曰く「1960年代初頭のフレンチ・リビエラの海辺」をイメージした約15色の組み合わせのうちのどれかに当てはまる。「ラベンダー、鮮やかなブルー、ライトブルー、グリーン、オレンジ、ベージュ、オレンジ、ブルー、ピンク、イエロー……」など、夏にぴったりのパステル調のカラーパレットだ。「バイヤーたちは毎日、ロンドンのありとあらゆるショップで特定の色の服を探していました」と彼女は振り返る。

カウボーイ風のルックは「Western Stampin' Barbie」シリーズのケンにインスパイアされた。

Photo: Dale Robinette

1993年に発売された「Western Stampin' Barbie」。

Photo: Courtesy of Mattel and Warner Bros. Pictures

厳密なカラーチャートを用意し、全体のプロセスに沿ってそれを参照していたというデュランは、「細部までコントロールされた環境を描きたかった」と話す。そしてこのマインドセットこそが、気が遠くなるような作業にフレームワークを与えた。

「グレタは時速160kmもの速さで脚本を書き、1ページに4つのシーンを盛り込むこともあります。だから、必然的に衣装チェンジもたくさんあるんです」と笑みを見せる彼女は、チームが作り上げた何百ものルックを紹介してくれた。ごみ収集員から郵便局員まで、何十種類もの衣装があり、デュランのチームは完璧なピンクのボイラースーツやツールキットを求めてショップを探し回ったという。また、ドクターのコスチュームをめぐっては、マテル社が過去60年間に作ったモデルをすべて掘り起こし、インスピレーションを求めたそうだ。

ダブルデニムを纏ったケン。バンダナはピンクに。

Photo: Jaap Buitendijk
Photo: Courtesy of Warner Bros. Pictures

11週間という限られた時間ではあったが、衣装作りを撮影と並行して行うというのは、新しいアイデアを常時加えられる柔軟性をもたらした。例えば、ライアン・ゴズリングはフィッティング中に「下着はケンのオリジナルブランドにしたらどうか」と提案したそうで、これは映画のマーケティングが始まったと同時に大きな話題を呼んだ。デュランによれば、「とにかく急いで作った」ものだそうだ。

バービーに見るフェミニズム

また、ケンのイメージの基盤はビーチだが、ディスコ調のボイラースーツやマスキュリンなカウボーイルックと並んで、80年代のカラフルなスポーツウェアも彼のスタイリングのキーとなった。「レトロなスポーツウェアは、ケンのためにたくさん買い求めたもののひとつ。彼はスポーティーだし、それが彼のキャラクターだから。アメリカにもバイヤーがいて、ディーラーを回って買い付けたものを送ってもらいました。とにかく、たくさん必要だったんです」

しかし、ケンのそれ以外についてはほとんど後回しだったそうだ。「ケンのことを気にする人なんてほとんどいません。だって、みんなが遊びたいのはバービーですから」とデュラン。「彼はバービーに合わせてファッションも変えますが、その選択肢は(バービーと比べて)非常に少ないのです」

これについて彼女は、これまで触れられてこなかったバービーの一面、つまりガーウィグ監督が見出した一面とリンクすると考えている。バービーがフェミニストの側面を持っているとは考えたことがなかったそうで、その体型から「むしろアンチフェミニストだと思われがち」と指摘する。「この映画に取り掛かるまで、彼女が革命的であったというグレタの見方を理解できませんでした。でも確かに、ずっと赤ちゃんの人形のお世話をしていた女の子たちが、主体性を持ち、行動を起こしていく人形と遊ぶようになったきっかけを作ったのは、バービーです」

“バービーらしさ”の探求

バービーランドの主役はあくまでバービーとその衣装。ケンは彼女を引き立てる装いに身を包む。

Photo: Jaap Buitendijk

デュランはバービーの歴史を参考にしようと、その始まりとなった1959年まで遡った。モノトーンのワンピース型スイムウェア、赤いリップ、青いアイシャドウ、ヒールという最も初期のスタイルを再現したルックは、『2001年宇宙の旅』(1968)のパロディである本作の最初の予告編に登場する。撮影中に捉えられたパパラッチ写真には、マーゴットとライアンが全身ネオンカラーのルックを纏ってローラースケートをするシーンが写っていたが、これは1994年に発売された「Hot Skatin' Barbie」を蘇らせたものだ。「ローラースケートルックの着想源は『Hot Skatin’ Barbie』です。ケンはバービーのサポート役なので、もちろんバービーに合わせたスタイルになっています」

「Hot Skatin' Barbie」を再現したルック。

Photo: Atsushi Nishijima

1994年に発売された「Hot Skatin' Barbie」。

Photo: Jaap Buitendijk

しかし、このようにアーカイブを参照していく上で、デュランはひとつの問題にぶつかったという。

「より現代のものとなると、ひと目でバービーとわかるルックを見つけるのが難しいんです。というのも、あまりにも多くのルックが溢れているためです。マテル社に過去5年間で最も人気のあったコスチュームを教えてほしいと尋ねたところ、『黄色のドレス』だと言われました。でも、例えそれを再現したとしても、おそらくバービーらしくならないと思ったんです」

デュランは、バービーのさまざまなバージョンに目を向けることによって、「フェミニニティにまつわる多様な考え方、つまりそれが何を意味するのか、誰が所有し、誰を対象としているのかを考えるのに役立った」とも述べており、これは映画にも反映されている。

「バービーは常に理想を追求するものなので、コスチュームを通して、各キャラクターにストーリーに応じた究極の“バービー・ルック”を再現させた衣装を着せています。もちろん、バービーランドには複数のバービーがいるので、同じイベントに参加する場合は、『制服ではないけれど、みんなお揃い』にするようにしました。しかし、マーゴット・ロビー演じるバービーのキャラクターアーク(登場人物の精神的変化)が展開されるにつれて、ストーリーが彼女のファッションの選択を後押しし、彼女が進化することでファッションも進化していくのです」

ネタバレを避けるために慎重に言葉を選びながら、デュランは次のように語る。「この映画の一つの側面は、“自分探し”です。すべてのバービー、特にマーゴットが演じるバービーには行くべき旅があります。私たちはそのシーンにふさわしい、彼女の心の変化を映し出すようなファッションを選ぶことができました」。これを裏付けるように、最新の予告ではバービーがハイヒールかビルケンシュトックBIRKENSTOCKのどちらかを選ぶよう迫られるカットが登場する。

映画を支えたシャネルの存在

Photo: Jaap Buitendijk

もちろん、バービーにとってピンクは重要な色だが、それがすべてではない。「ピンクは彼女のワードローブの大部分を占める色ではありますが、それが100パーセントではありません」とデュランは言う。「でも、“バービーらしさ”を即座に演出したい時、ピンクがそれをやってのけるのだと思います」

バービーランドに登場する衣装の大半は彼女のチームが調達したものだが、もしバービーがそれらに身を包んでいないとしたら、そのほとんどは、マーゴット・ロビーが2018年からアンバサダーを務めているシャネルCHANELによるものだ。「シャネルは映画のサポートに協力的で、ストーリーの中で機能するルックを見つけるのを助けてくれました」と、メゾンの献身的な姿勢を振り返る。「私たちが必要とするアイテムを、何でも提供してくれました。彼らと一緒に仕事をするのは本当に最高でした」

アーカイブからはスーツ、ビーチウェア、スポーツウェア、アクセサリーなど、1980年代のものを中心に取り寄せられただけでなく、サイズや色が合っていないものでもリメイクしてくれたそうだ。

パーティーのための煌びやかなジャンプスーツ。

Photo: Courtesy of Warner Bros. Pictures

ケンのマリンルック。

Photo: Courtesy of Warner Bros. Pictures

中でも彼女のお気に入りは、モダンな「ココ ビーチ」のピンクのドレスに、シャネルのロゴ入りのジュエリー、バッグ、シューズを合わせたもの。このほかにも、1980年代のテイストを備えたルックが数多く採用されたが、その理由についてデュランはガーウィグ監督の影響があったことを教えてくれた。「グレタは、自分が幼い頃に遊んでいたバービーと同じものが好きだったんです。彼女は大のバービーファンでしたから」

Text: Amel Mukhtar Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.COM