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『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』の撮影秘話──稀代の悪役俳優ハビエル・バルデム、ポール・マッカートニーのカメオ出演etc.

自由奔放な酔いどれ海賊、ジャック・スパロウの冒険を描く『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ。2011年の『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』に続く5作目の『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(2017)の舞台裏、豪華な新旧キャストのエピソードから見どころに迫る。

オーストラリアで史上最大規模の撮影

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』(2011)の世界興行収入が10億ドルを超え、ロブ・マーシャルディズニーと2年契約を結んで第5作の監督も務める方向で企画は進んでいた。だが、2012年になると、マーシャルはミュージカル映画『イントゥ・ザ・ウッズ』(2014)と他の作品の制作に取りかかることになり、別の監督候補を探す必要が生じたという。

ディズニーが白羽の矢を立てたのは、ノルウェー出身で第85回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた『コン・ティキ』(2012)のヨアヒム・ローニング&エスペン・サンドベリのコンビだ。脚本も、『生命の泉』までの4作を手がけたテッド・エリオットとテリー・ロッシオのコンビから『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)の原案を手がけたジェフ・ナサンソンに代わった。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

撮影地は数多くの候補の中からオーストラリア東海岸のクイーンズランド州ゴールドコーストが選ばれ、同地にあるスタジオや熱帯雨林の広がるタンボリー山、グレートバリア・リーフで有名なウィットサンデー諸島などでも撮影が行われた。舞台となるセント・マーティン島の町のオープンセットをクイーズランド州の2万平方メートル強の広大な土地に建てるなど、オーストラリアにおいて史上最大規模の撮影となった。製作費は約2億5000万ドル。毎回、撮影時に悪天候に苦しめられるシリーズだが、『最後の海賊』のオーストラリアでのロケもゴールドコーストにサイクロンが上陸し、61年ぶりの大雨で撮影は困難を強いられた。

愛妻の前作出演がきっかけでヴィラン役を快諾したハビエル・バルデム

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

スペインの海賊ハンターで、ジャックに対する恨みから復讐に燃えるサラザール。残忍な振る舞いから“海の死神”と恐れられるこの役には当初、クリストフ・ヴァルツの名が挙がっていたが、実現せず、ハビエル・バルデムが演じることに。

バルデムは、妻のペネロペ・クルスが『生命の泉』に出演した際に撮影地を訪れ、現場の雰囲気が気に入っていたことからオファーを受けたという。奇しくもヴァルツもバルデムも、『007』シリーズで悪役を演じたという共通点がある。スペイン人であるバルデムに合わせて、役名はジョン・ブランドからアルマンド・サラザールに変更。これは、ポルトガルの元大統領で独裁者のサラザールにちなんだ命名だ。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

バルデムが役作りのインスピレーションにしたのは、闘牛場で傷を負って血を流す雄牛と悲しみや苦悩をドラマティックに歌うフラメンコ歌手。スペイン王朝の海軍の歴史も研究したそうだ。生気のない真っ白な異様な風貌のメイクに3時間かけ、髪はすべてCGで作成した。

激戦のオーディションを勝ち抜いた新キャスト、カヤ・スコデラリオとブレントン・スウェイツ

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

新たなヒロインとなるカリーナ・スミスは、本作のキーアイテムである伝説の秘宝「ポセイドンの槍」の謎を追う天文学者。聡明で強い意志を持つカリーナを演じるのは、SF映画『メイズ・ランナー』シリーズのテレサ役で知られるカヤ・スコデラリオだ。イギリス出身の彼女は、ルーシー・ボイントンガブリエラ・ワイルドらが参加したオーディションを経て、カリーナ役に選ばれた。

大ヒットシリーズへの抜擢は若手俳優にとってはブレイクのチャンスだが、彼女は無条件に飛びついたりせず、カリーナが単なるお飾り的なキャラクターにされないように何度も製作サイドに確認を取ったそうだ。契約した時点で脚本は未完成だったこともあり、カヤはカリーナを自立した女性として描いてほしいと脚本のナサンソンに希望を出し、聡明で意志の強いヒロインが誕生した。アクションシーンの撮影中に左肩を骨折するアクシデントに見舞われたが、撮影を遅れさせないために養生しながら出演を続行。オフの日にゴールドコーストの街で腕を吊った姿を目撃されるも、「海賊の最新必須アイテム」とジョークで応えた。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

一方、オーランド・ブルームが演じたウィルの息子で、呪われた運命の父を救うために行動するヘンリー・ターナーを演じるのはブレントン・スウェイツだ。本作ではカリーナとともに、かつてのエリザベス(キーラ・ナイトレイ)とウィルに似た役回りでもある。ヘンリー役のオーディションには当時の新進俳優が勢揃いし、今や立派なスターとなったタロン・エガートンアンセル・エルゴート、ジョージ・マッケイ、サム・キーリーらと競って、当時『マレフィセント』(2014)で注目されていたブレントンが勝ち取った。ちなみに彼はオーストラリア・クイーンズランド州出身で、まさに地元での撮影となった。

オーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイのカムバック、ポール・マッカートニーのカメオ出演

©Walt Disney Studios Motion Pictures/Everett Collection

『生命の泉』には出演しなかったオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイだが、2人が演じたウィルとエリザベスの息子ヘンリーが活躍する本作には再び登場し、ファンを喜ばせた。第4作に出演しなかったのは、2人とも第3作『ワールド・エンド』(2007)完成の時点で全てやり切ったという思いが強く、新しいことに挑戦したかったから。オーランドは、オムニバス映画『ニューヨーク、アイラブユー』(2009)の岩井俊二監督のパート『映画音楽家』や『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』(2011)などに出演。キーラは『わたしを離さないで』(2010)や『アンナ・カレーニナ』(13)など文芸作の映画化に出演し、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)ではアカデミー 賞助演女優にノミネートされた。

実は『最後の海賊』は当初エリザベス抜きで完結していたが、テスト試写に参加した一般客から「エリザベスはどうしたの?」という声が多く、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーはエリザベスが登場するシーンの追加撮影を決めた。キーラも要望に応じ、撮影クルーが渡英して1日だけ撮影が行われたという。

『ワールド・エンド』と『生命の泉』でジャックの父親で海賊のキャプテン・ティーグを演じたキース・リチャーズは、スケジュールの調整がつかず、その代わりを務める大物として、ジョニーが長年の友人であるポール・マッカートニーに直接交渉して実現した。ジョニーがポールの楽曲「Queenie Eye」や「My Valentine」のミュージックビデオに出演している縁もあってのことだった。

ポールが演じたのは、ジャックのおじ、ジャックおじさん。トップシークレット扱いの撮影は、一度クランクアップした後に追加で行われた。海賊の衣装とメイクが似合いすぎて全くの別人になってしまったので、観客にポールだとわかるようにトーンダウンし、牢獄で甥のジャック・スパロウと偶然再会するシーンが撮影された。ポールのセリフ「がい骨は酒場でモップとビールを注文する」は、ジョニーが『フェイク』(1997)に出演した際、共演のアル・パチーノに何度も言われたジョークだという。

ちなみにキースとジョニーは『生命の泉』の時にミック・ジャガーにも声をかけたが、こちらは実現しなかった。

Text: Yuki Tominaga