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BLACKPINKの伝説的ステージを支えたセットデザイナー、STUFISHとは?

2023年4月、コーチェラ・フェスティバルでヘッドライナーを務めたBLACKPINK。その歴史的なステージを支えたのが、セットデザインを手がけたロンドンのアートスタジオ、スタフィッシュ・エンターテインメント・アーキテクツ(以下、STUFISH)だ。世界中を釘付けにした「コーチェラ 2018」ヘッドライナーのビヨンセのセットデザインをはじめ、数々のグローバルスターとコラボレーションしてきたSTUFISHのCEO、レイ・ウィンクラーと建築家のディオ・トゥマジスに話を聞いた。

韓国伝統建築の韓屋(ハノク)をモチーフに

──「コーチェラ2023」のBLACKPINKは、Youtubeを通してライブ配信も行われ、世界中から注目を集めました。ステージセットについて、BLACKPINKチームからはどんなリクエストがありましたか?

ディオ・トゥマジス:壮大でありながらミニマルな美しさを持ち、背後のビデオウォールに通じる開口部を持つようなデザインを、とリクエストがありました。私たちは、できる限り巨大な存在感を与えることを重視しました。

──韓国の伝統的な建築様式である韓屋(ハノク)をモチーフにし、「韓国文化への敬意を表したい」という思いが込められていたそうですが、決定までにはどんなコミュニケーションがありましたか?

レイ・ウィンクラー: 韓屋スタイルのセットデザインは、BLACKPINKチームから具体的に提案されたものです。私たちも、図書館にたくさんある韓国建築に関する文献やネットを駆使して資料を探し、BLACKPINKのプロダクションチーム、振付師、クリエイティブ・ディレクターのキール・トゥーテン(Kiel Tutin)とマーヴィン・ブラウン(Marvin Brown)と密に連携を取りながら進めていきました。また、ダンスパフォーマンスがダイナミックに見えるように、カメラ映えすることが重要だとも考えました。

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──STUFISHのインスタグラムにアップされていたセットのラフ案と比べると、実際のステージはとてもシンプルでシャープな印象を持ちました。イメージを実現する上で苦労した点は?

ウィンクラー:伝統とテクノロジーの絶妙なバランスですね。今回のセットには、伝統的な韓屋(ハノク)の屋根に、ライトやレーザー、特殊効果のための機材を設置する必要がありました。さらに、カメラがクローズアップしたときに見えるディテールについても、会場にいるオーディエンスだけでなく、配信映像を見ている人の目も惹きつけるものでなければなりませんでした。

──韓屋の上に置かれた照明セットが、曲のアプローチに合わせて色や光を変化させ存在感を放っていたのが印象的でしたが、その点についてはどんなところにこだわりましたか?

ウィンクラー:セットと照明はコインの裏表のように、互いに補完し合うよう、統合されたデザインに見える必要があります。(ブルーノ・マーズのツアーなどを手掛ける)照明デザイナーのコーリー・フィッツジェラルドと密に連携を取り、彼のリクエストを盛り込みました。

ビヨンセ「コーチェラ2018」ステージ (c)Beyonce

ビヨンセ「コーチェラ2018」ステージ (c)Beyonce

──STUFISHがコーチェラのステージを手掛けたのは、2018年のヘッドライナーのビヨンセ以来だそうですね。その時の経験がBLACKPINKのステージセットに活かされた部分はありますか?

ウィンクラー:あのビヨンセのセットデザインは、規模感やスケジュール感を含めて、コーチェラで実現できることのひとつの指標になりました。ただBLACKPINKのセットデザインも、2018年のビヨンセのステージと同様、インパクトをもたらすものでなければならなかったですし、スケジュールと空間的な制限がある中で、また新たな指標を示す必要がありました。

──アーティストのセットデザインを手掛けるプロセスにおいて、最も重要視していることは何でしょうか?

ウィンクラー:アーティストやその周りのクリエイティブ・チームとの共同作業です。

「BLACKPINKのメンバーからもとてもポジティブなフィードバックをもらえました」

──コーチェラ本番で、セットの中でパフォーマンスするBLACKPINKのステージを見てどんな思いを抱きましたか?

ウィンクラー:彼女たちは明らかに今を代表するグループであり、ステージ上で大きな存在感を放ち、オーディエンスを惹きつける魅力を持っています。K-POPアーティスト、そしてガールズグループとして初めてコーチェラのヘッドライナーを務めた歴史的瞬間に参加できたことを誇りに思います。

照明、映像、振り付け、すべてを活かすセットをつくり、その要素を融合させたステージパフォーマンスを実現する上で、私たちにとっての挑戦は「BLACKPINKらしさをどう表現するか」でした。それは達成できたと思います。ステージからピュアなエナジーを感じましたし、実際、BLACKPINKのメンバーからもとてもポジティブなフィードバックをもらえました。

トゥマジス:他にはないオーディエンスのエネルギーを感じましたね。BLINK(BLACKPINKのファンの呼称)の熱狂に、あのライブを観ていた何万人もの人々の心と魂が映し出されていると感じました。ショーのスタートから熱量が伝わってきましたし、ライトポッドが動くたびにステージ上のヴィジョンに様々な表情が映し出されていく様子に一番興奮を覚えました。

──BLACKPINKやビヨンセのほかにも、マドンナエルトン・ジョンアデルロザリア、日本では嵐のラストライブまで、それぞれにまったく異なるジャンルのアーティストを手がけられています。アーティストのライブにおいて、セットデザインはどのような役割を果たすと考えていますか?

ウィンクラー:まずは、アーティストがベストなパフォーマンスを行うための環境を提供すること。そして、そのセットデザインが目の前でパフォーマンスをしているアーティスト独自のものであるとオーディエンスに認識してもらい、世界観により引き込むための要素だと考えています。

──最後に、今回のBLACKPINKとのコラボレーションは振り返ってみていかがでしたか?

トゥマジス:BLACKPINKのクリエイティブ・プロダクション・チームと協力してステージを作ることができて本当に楽しかったです。彼/彼女らも私たちとのコラボレーションを楽しんでくれていたらうれしいですし、また一緒に仕事ができることを願っています。

Photos: Courtesy of YG Entertainment Text: Kaori Komatsu Editor: Saori Asaka