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ランウェイで服がバラバラに!フィレンツェ発アヴァヴァヴ(AVAVAV)が前代未聞の演出に込めた想いとラグジュアリーの再定義【若手デザイナー連載】

モデルが全員転倒したり、ドレスが分解され崩壊したりと、ランウェイショーで大胆な演出を行い、SNSで常に注目を集めているアヴァヴァヴ(AVAVAV)。現代における「ラグジュアリー」とは何か? 衝撃的なプレゼンテーションの背景にある創作への想いをデザイナーのビート・カールソンが語ってくれた。

2023-24年秋冬コレクションより。

「Fake it til you break it」と題した2023-24年秋冬コレクションのランウェイショーで、モデルが着ていたシャツの袖が破れる、ブーツのヒールが折れる、ドレスが分解され崩壊してしまう。そんな前代未聞の誰も想像しないような衝撃のパフォーマンスを披露して観客を驚愕させたフィレンツェ発のアヴァヴァヴ(AVAVAV)。2023年春夏コレクションにおいても、モデルが全員転倒するといった演出を披露しており、ユーモラスとブラックジョークを加える言わば”常習犯”のようだ。当然ながら販売される商品が壊れたり、破れてしまうことはない。

モデル全員が転倒する演出で大きな話題を集めた2023年春夏コレクション。

「ラグジュアリーファッションにおいて最も恥ずかしいことは、品質が悪いせいで服が破れたり、ほつれてバラバラになってしまうこと。それをランウェイで表現することによって、現代のファッション業界が抱えるクオリティの低下やラグジュアリーの不文律を伝えています」

大胆なアプローチと共にアンチテーゼとも取れる発言をしたデザイナーのビート・カールソンは、なぜこのような演出を行ったのか? そこにどんなメッセージが込めたのか、彼女に真意を尋ねた。

2023-24年秋冬コレクションより。一つ一つが個性的で斬新なデザインのアイテムを自由自在に組み合わせて着用できる楽しさがある。

──ブランドを始めたきっかけを教えて下さい。

ファッションやアイテムに新しい視点をもたらすことが私の原動力となっています。自分のブランドを立ち上げることによって、それらを実現することができる最も簡単で楽しい方法だと思いました。自分のブランドを立ち上げることができたのはとても光栄ですし、家族のように感じています。

アヴァヴァヴを纏うジュリア・フォックス。 Photo: Rachpoot/Bauer-Griffin/GC Images

──アヴァヴァヴを通じて表現したいこと、提供したいことはなんですか?

私はファッションをゲームのように捉えていますが、新しいレベルを「アンロック」する能力を持つデザイナーはほとんどいないと思っています。多くの人に共感してもらえるような新しい視点を提供することは最も難しいことですが、私にとっては最も楽しいことでもあります。私たちファッションデザイナーの使命は、業界のためではなく、エンドカスタマーのために業界に存在するルールから必要なものを選び出し、未来のファッションハウスのために構築することなのです。

──これまでに影響を受けたデザイナーはいますか? また、その理由も教えてください。

人間の心を開き、新しいアイデアを取り入れることができるデザイナーに特に感銘を受けています。例えば、イヴ・サンローランですが、女性の肩幅を強調したシルエットなど、当時はまだなかった画期的なデザインを生み出す才能を持っていたと思います。他にも、マルタン・マルジェラ、アレキサンダー・マックイーンデムナ・ヴァザリアヴァージル・アブローといったデザイナーもファッションの展望を切り開いたと思っています。

「ランウェイで起こる気まずい出来事」が着想源

2023-24年秋冬コレクションのランウェイショーで披露したドレスが崩壊するパフォーマンス。

──2023-24年秋冬コレクションのランウェイショーでは、モデルが着ていた服が破れたり壊れたりと、前代未聞の衝撃的な演出が披露されましたが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

ランウェイで起こる気まずい出来事とは何か?を想像しながら、パートナーとくだらない会話をしていた時にこのアイデアが浮かびました。デザイナーにとって最も重要なランウェイショーで服が壊れるというのは、おもしろいけれど最も恥ずかしいことですよね。

──観客からはどのような反響を受けましたか?

ファストファッションに対するアンチテーゼ的メッセージだと思う人もいれば、演出だと理解していない人もいて、批判的なコメントもありました。

恥ずかしさや羞恥心はラグジュアリーと共存できるのか?

2023-24年秋冬コレクションのランウェイより。ヒールが取れて歩くのが困難になったシーンを演出した。

──ラグジュアリーの不文律に着目した理由はなぜですか?

昔のメゾンは、ラグジュアリーをエレガントで高品質だと定義していました。しかし、今日のラグジュアリーは再定義されつつあり、私にとってそれはよりスタイルのようなものだと思っています。

2023年におけるラグジュアリーとは、履き古したバレンシアガBALENCIAGA)のスニーカー、高価なトラックスーツ、アップサイクルされたボロボロのコートのことを指します。今最もクールな姿勢は、自分の弱さをさらけ出し、それをアクセサリーとして身につけることだと思います。それは、リアルや強さを示す方法です。私は恥ずかしさや羞恥心がラグジュアリーと共存できるのか、ラグジュアリーを生み出すことができるのか、それらをランウェイで表現したいと思いました。羞恥心とは人が持つことのできる最も贅沢なアクセサリーなのかもしれません。

2021年のMTV MUSIC AWARDでドージャ・キャットが着用した“鶏の足”ブーツ。他にも、“カエルの足”ブーツを展開した。 Photo: Noam Galai / MTV VMAs 2021 / Getty Images for MTV / ViacomCBS

──着飾ることで本当の自分を隠し、より良く見せようとするフェイクは、ファッションに限らず、最近のソーシャルメディアでも同じことが言えるような気がします。そんな現代社会へのアンチテーゼのメッセージもあるのでしょうか?

確かにそうですね。でも正直なところ、今の時代は、特にインターネットを通してですが、私たちの普段の生活にどのようなフィルターをかけているのか、ただ、それをおもしろく考察しているだけだと思います。そのため、特にメッセージ性はなく、人それぞれの解釈があっていいと思っています。

──2023-24年秋冬コレクションで最も気に入っているルックはどれですか?また、その理由も教えてください。

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「Hot Rich Famous」とプリントされたオーバーサイズのトラックスーツです。この秋に着るのがとても楽しみです!

──5年後、10年後までに達成したい目標や夢は?

たくさんありまが、まずはファンを増やしてブランドを大きくして、楽しくてクリエイティブなものをもっと作りたいと思っています。

Photos: Courtesy of AVAVAV  Interview&Text: Kana Miyazawa  Editor: Mayumi Numao