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75歳のアーノルド・シュワルツェネッガーが今こそ伝授する、肉体と精神へのアプローチ法【世界を変えた現役シニアイノベーター】

オーストリアからアメリカに渡り、俳優、実業家、そして政治家と、あらゆるジャンルで成功を収めたアーノルド・シュワルツェネッガー。現在75歳の彼は、元プロボディビルダーとしての視点から、自身のニュースレターを通じて若者たちのメンタルヘルスを多角的にサポートする。

2023年4月、カリフォルニアで開催された環境イベントに参加したアーノルド・シュワルツェネッガー。Photo: Mario Tama / Getty Images

「あなたの姿勢はとても素晴らしい。私は、トレーニングを毎日反復できるあなたをとても誇りに思います。今度はバーベルの重量をさらに落として、筋肉のしなやかさと伸びを感じるくらいゆっくりとした動きで繰り返してみてください。筋トレで大切なのは、些細な筋肉の動きと感覚を味わうことです」

2023年3月15日、ツイッター上に動画と体重を実名で記録し、本気でダイエットに取り組む大学院生、デイヴ・ダナの投稿にこうリプライしたアーノルド・シュワルツェネッガー。まさかの本人からのメッセージに世界の注目を集め、フォロワー数の急増に驚いたダナだったが、現在は以前にも増して筋トレへのモチベーションも上がり、目標達成までやり抜く覚悟が決まったという。そんなダナを始め、彼の真摯な言葉に勇気付けられている若者たちが今増えているのだ。

1966年、カリフォルニアにて。Photo: Hulton Archive / Getty Images

シュワルツェネッガーのキャリアについては、もはや言及の必要はないだろう。1947年7月30日、オーストリア・タールに生まれ育ったアーノルド・アロイス・シュワルツェネッガーは、1970年に“アーノルド・ストロング”の名で出演した『SF超人ヘラクレス』(1969)で俳優デビュー。以降『ターミネーター』(1984)等世界的ヒット作品に主演する俳優であり、実業家、映画監督、そして2003〜2011年までカリフォルニア州第38代州知事を務めた政治家でもある元プロボディビルダーだ。

母アウレリアと警察官だった父グスタフのもと「悪いことをしたり親に逆らうと鞭打ちは免れなかった」というほど厳格な家庭で、兄マインハルト(1971年に事故で他界)とともに育ったシュワルツェネッガーは、身体能力の高い父の影響で、少年時代にさまざまなスポーツに挑戦していた。

そして1960年、所属するフットボールチームのコーチに連れて行かれたジムでウェイトトレーニングと出合い、これを機に生涯のキャリアとしてボディビルを選んだ。そんな彼は、「父は私に自分のように警察官になることを、母は専門学校に行くことを望んでいた。でも私の人生の計画は14歳の時にすでに決まったのです。その後ボディビルダーのダン・ファーマーのもとで集中的なトレーニングプログラムを始め、15歳で肉体と精神の関係を深く知るため心理学を学び、17歳で正式に競技生活を始めました」と過去に自身のウェブサイトで当時をこう振り返っている。

メンタル強化の鍵は、“その瞬間”に集中すること

1976年撮影。Photo: Jack Mitchell / Getty Images

トレーニング開始後、めきめきと頭角を現したシュワルツェネッガーは、1965年にジュニア・ミスター・ヨーロッパ・コンテストで優勝し、19歳でミスター・ヨーロッパを受賞。以降数多のボディビル・コンテストに出場し、そのほとんどで優勝を飾るようになった。そして引退した現在も、彼の名を冠したボディビル大会「アーノルドクラシック」や数多くのコンテストを主催する傍ら、ジムやフィットネスメディア等で活躍するなど、ボディビル史上に名を残すレジェンドとして君臨する。

現役時代の彼のルーティンの中心は、ハードなワークアウトと、タンパク質メインの栄養豊富な食事だ。そして、通常のルーティンにこだわることなく臨機応変に“自分自身のニーズ”に合わせ、堅実な集中プログラムをこなしてきたという。そんな彼が常に重視してきたのは、「肉体と精神的へのアプローチは同等」という独自の哲学だ。

2023年3月、映画『FUBAR』の試写会にて。Photo: Tommaso Boddi / Getty Images

現在、自らの経験と哲学に基づき、トレーニングやメンタルのアドバイスを綴った無料のニュースレターを配信する彼のもとには、読者からさまざまな相談が日々寄せられている。中でも多い質問が、「日々のストレスへの対処法」。これに対し、シュワルツェネッガーはこう回答している。

「ストレスを感じるということは、頭の中が余計なことでいっぱいだから。一つの行動に対し、一つのことに集中することが大切です。例えば、私がこのニュースレターを書いている間、私の友人たちがこの部屋に来て、台本を読み始めたり、自転車に乗りに行こうと誘ったとします。こういう時、私なら“どうか別の部屋でチェスでもしていてください”と言います。今この瞬間私の頭の中にあるのは、台本でも、自転車でも、ましてやジムに行くことでもない。ニュースレターを書くこと。それだけです。つまり、余計なことを考えず、ただその瞬間瞬間に集中する。そして、すべての問題を一挙に解決しようとせず、できることを分割して、ひとつ済んだら次に移るのです」

また、うつ病でジム通いが再開できず悩んでいるというカナダ・ケベック在住のアリという男性ファンとのやりとりではこんなアドバイスを送り、同じ病に苦しむ人たちから大きな注目を集めた。

「何かをしなければならない、と自分に負荷をかけてはいけません。私は、あなたに厳しい言葉をかけるつもりはありませんし、あなたも自分に厳しくしないでください。誰もが皆困難や失敗を経験する。時には、人生そのものが精神の“ワークアウト”になることもある。それでも大切なのは、何度でも立ち上がること。あなたの場合は、ほんの少し動くだけでも良しとしましょう。ベッドから起き上がるだけでもいい。それができたら、次は腕立て伏せをしたり、散歩に出たり、気の向くままとにかく何かをしてみてください。一度にひとつのことでいいのです。元気になれば、またジムに通えるようになります。だからジムに通えない自分を絶対に責めないこと。そして、助けを求めることを恐れないでください」

“もし本人から返事が来たら、ジムに通えるようになるかもしれない”──その後BBCの取材に対し、メッセージを送った理由をこう明かしたアリは、本人からの返信に当初は驚いたものの、現在はジム通いを再開しているという。

成功の秘訣は、常に原点に立ち返ること

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「限界を決めているのは心です。そして、心が可能性を感じてそれを100%信じる限り、できないことはないのです。そして、強さとは勝つことからは生まれない。苦労が強さを育てるのです。そして苦難を乗り越え、決して諦めないと決めたとき、それが強さとなるのです」

プロボディビルダーとして成功を収め、故郷オーストリアから単身アメリカに渡り、すべてを手にしたシュワルツェネッガー。日々トレーニングと食事、そして精神的アプローチに100%専念し、成功のための準備を怠らなかったと語る彼は、直近のインスタグラムで自身の“原点”と語るとっておきの場所を公開した。

「ここまで自転車で12マイル(約19.3km)走ってきました。ここに立ち止まって、しばし素晴らしい思い出に浸るのがとても好きなのです。1975年に『パンピング・アイアン(鋼鉄の男)』を撮影したゴールドジムです。この前を通るだけで、今でもトレーニングの音や、汗の匂い、そしてここで築いた友人たちと分かち合った喜びが、当時のまま心に蘇ってくるようです。こうして折に触れ、自分の人生を立ち返り、助けてくれた人たちのことを思い出すのはとても大切なこと。ここが、私の原点なのですから」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba