妻夫木聡インタビュー「僕が役者としてできることは、“伝えていく”ということ」

特集・インタビュー
2021年08月11日

太平洋戦争末期に行われた捕虜への実験手術で、命を救うはずの医師が犯した恐ろしい罪と、その裏に隠された真相。死刑判決を受けて自分自身と向き合う医師と、その判決に異議を唱え、公正な裁きを求めて奔走する妻が、苦悩の果てにたどりついたありのままの真実とは…。

「九州大学生体解剖事件70年目の真実」を原案とした終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』(NHK総合)の放送が8月13日(金)に放送される。それに先駆け、主人公・鳥居太一役の妻夫木聡さんに、本作への思いや共演者の皆さんとのエピソードをお聞きしました。

◆原案を読まれて、妻夫木さんが演じる太一のモデルとなった方についてどのような印象を受けられましたか?

原案を読み、一番最初に浮かんだ言葉は“誠実”という言葉です。「自分の身を犠牲にしても誰かのために」という精神を感じました。彼はきっと「どんな人にも生きる権利があって、人の命を奪った自分だけがのうのうと生きているということが許せない」という気持ちがあったと思うんです。その思いを胸にずっと生きていたんだろうなって。1人ひとりの命の尊さというものをあらためて実感しました。

◆本作の撮影を通し、ご自身の中で意識が変わった点などがあれば教えてください。

改めて、もっと命の尊さについて考えていかなくてはいけないなと感じました。「(太一のように)突然家族が目の前からいなくなったら…」と想像するだけで、とんでもない悲しみが襲ってくるんですよね。僕はあまり自分自身の人生と役を掛け合わせることはしないタイプなのですが、今回は掛け合わせながらやってみたりもしました。

◆それはどうしてでしょうか?

自分に子供ができたということが大いに関係していると思います。結婚する前であれば、きっと全く考えなかったのだろうなということをたくさん考えましたね。例えば、何かがあった時に極論自分が死ぬことはまだ受け止められるけれど、家族に悲しみだけでなく罪をも被せてしまうとなったら、それは許せないなとか。

◆結婚をされたり、お子さんができたりと、環境が変わったことでできた演技というのはありましたか?

うーん…。実感はあまりないかもしれません。そういうのって、映画やドラマでいただいた賞などと同じで、見てくださった方が判断してくれるものなのかなと思っています。なので、僕も周りの人たちを見ていてそう感じることはあって。例えば、(永山)瑛太や小栗(旬)も「父の顔になったな」と思った瞬間がありましたし。

◆「父の顔」ですか。

でも、“父になる”って、きっと自分がどうこうするというよりも、子供がならせてくれるものなんじゃないかなと思っています。例えば、子供が笑っただけで今まで感じたことのない幸せな気持ちになったりして。子供を育てていると大変なこともありますが、その分学ぶことも多いので、もっともっと成長させてもらうよと勝手に期待を寄せています(笑)。

◆劇中では、映画「家族はつらいよ」シリーズで夫婦役を演じられた蒼井優さんとの再共演、そしてまたしても夫婦役を演じられていますね。

(妻の)房子役が蒼井さんに決まったときはとてもうれしかったです。もう細かいことを話さなくても通じ合える間柄と思っていますし、お互い福岡出身ということもあって作品に通ずる部分がすごく多くて。なので、“一緒に戦える”ということが僕の中では安心材料になっていました。人を信じるってすごく難しいことだと思うのですが、僕は彼女を信じていますし、彼女もきっと僕のことを信じてくれていて…。蒼井さんは絶対に諦めないですし、何事にもまっすぐ突き進んでいく、本当に強い方なんです。

◆太一と共に死刑囚棟で暮らす、冬木克太役の永山絢斗さんとも共演シーンが多かったかと思います。何かお話はされましたか?

瑛太の話ばかりしていた気がします(笑)。声とか仕草とか、やっぱり兄弟なんだなと感じることが何度もあって、「瑛太に似てきたなぁ〜」って(笑)。ただ、役については話し合ってどうするこうする作品ではない、というのをお互いに感じていたと思うんです。なので、そこは芝居を通じてキャッチボールしながら心のつながりを探っていったというか。がっちりと握手はせず、何とか手が届くぐらいの距離感でいたような気がしています。

◆本作にちなみ、命の大切さや平和ということを踏まえて、役者としてやっていけることにはどんなことがあるとお考えでしょうか。

難しいですね…。“代弁者”とまで言えるほどのことは、まだ自分はできていないと思っていますし。でも、過去のことだからと終わらせてはいけない、後世に伝えていかなくてはいけないことはまだ山ほどあるはずで。僕が役者としてできることは、やはり“伝えていく”ということなのかなと思っています。

◆最後に、視聴者の方へのメッセージをお願いします。

こういった事実があったということを伝えていかなくてはいけない、という思いをまず第一に持って、僕たちは作品に取り組みました。このドラマを通じて、「自分にもっとできることがあるんじゃないか」とか「こういう人間になりたい」など、何か少しでも皆さんの中に芽生えるものがあればとてもうれしく思います。

PROFILE

●つまぶき・さとし…1980年12月13日生まれ。福岡県出身。О型。最近の出演作にドラマ『危険なビーナス』や映画「浅田家!」など。また、中国映画「唐人街探偵 東京MISSION」にも出演し、日本に留まらない活躍を見せる。

番組情報

終戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』
NHK総合
2021年8月13日(金)後10・00〜11・15

©NHK