NEWS新着情報

2019.02.05

前人未到のV10。水谷隼はなぜ全日本選手権で勝ち続けられるのか?

水谷隼 Photo:Itaru Chiba


初優勝から12年。ついに掴んだ「V10」の大記録

1月14日~20日に大阪で行われた「天皇杯・皇后杯 平成30年度全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)」(以下、全日本選手権)。一般男子シングルスは、長く日本男子チームの屋台骨を支えてきた絶対的エース、水谷隼(木下グループ)の10度目の優勝で幕を閉じた。

究極の『メンタル戦』、それが全日本選手権。優勝者のコメントに見る「気持ち」の重要性

男女通じて最多優勝記録となる「V10」という偉業を改めて振り返ってみよう。

水谷隼が全日本選手権で最初に花開いたのは、2004年1月に行われた平成15年度大会。当時中学2年だった水谷は、高校2年以下が出場するジュニアの部で高校生の強豪を退け、初優勝を果たした。

さらに一般の男子シングルスでは6回戦(ベスト8決定)に進出。2004年アテネ五輪日本代表で優勝候補の一人の新井周(グランプリ・当時)と互角の戦いを繰り広げ、敗れたはしたが強烈な印象を残した大会となった。

男子シングルスで頂点に立つのは、その3年後となる高校2年でむかえた平成18年度大会。決勝の相手は、大会3連覇を狙う吉田海偉(日産自動車・当時)。世界屈指のフォアドライブを誇る吉田のパワープレーを多彩なテクニックでいなし、ゲームカウント4-1で勝利。17歳7カ月の最年少記録(当時)での初優勝となった。さらにこの年は、男子ダブルス、ジュニア男子シングルスも制して三冠を成し遂げた。

初優勝から連勝を伸ばし、男子シングルスで5連覇を達成。まだまだ「水谷一強時代」が続くかと思われたが、平成23年度大会決勝で、高校3年の吉村真晴(野田学園高・当時)に敗北を喫して、連勝記録が途絶えてしまう。最終ゲーム10-7でチャンピオンシップポイントを握ってからの5連続失点という、痛恨の逆転負けだった。

リベンジに燃えた翌年も、決勝で丹羽孝希(青森山田高・当時)に敗退。ゲームカウント3-1でリードしてから挽回を許し、王座奪還はならなかった。

2年連続の逆転負けというどん底を味わった水谷隼だが、さらなる進化を遂げて復活を果たす。より攻撃的なプレーを身につけた元王者は、平成25年度大会で3年ぶり6度目の優勝を成し遂げると、ここから4連覇。ついに平成28年度大会で男女通じて最多優勝記録となる、V9という偉業を達成した(歴代2位は、男子・斎藤清、女子・小山ちれの8回)。

そして、前人未到のV10に王手がかかってところで、日本男子卓球界に彗星のごとく登場したのが、怪物・張本智和(JOCエリートアカデミー)だ。

2017年6月に行われた世界卓球2017ドイツで、水谷は当時13歳の張本にまさかの敗北を喫すると、翌年1月に行われた全日本選手権(平成29年度大会)で、再び敗れてV10を逃した。
「今日の張本のプレーが特別に良いのでないなら、何回やっても勝てない。彼が出てくる前にたくさん優勝しておいて良かった」。そうコメントするほど、実力差を感じさせられた敗戦だった。

しかし、水谷は終わらない。V10を目指して、今年の全日本に挑んだ。水谷は危なげなく決勝まで勝ち上がるが、最大のライバルである張本は準決勝で大島祐哉(木下グループ)に敗れる。

「大島が決勝に上がってきて、優勝確率は50%に上がったなと思いました。張本だったら分もあまり良くないですし、25%だった」とは試合後のコメント。

同じ木下グループの仲間で、ダブルスパートナーでもある大島を4-2で下し、ついにV10の大記録を達成。優勝を決めた直後は観客席に飛び込み、ファンたちと喜びを分かち合った。


水谷隼 Photo:Itaru Chiba


勝率は驚異の96%超え「精神力」と「技術の進化」が強さの秘密

男子シングルスでは、初優勝から数えて13年連続の決勝進出。13年間で通算75勝3敗、勝率は96%を超える。男子ダブルスでも4連覇を含む、7度の優勝。優勝を逃した年も準優勝3回、ベスト4が3回。また混合ダブルスは、平成20年度大会に福原愛と組んで出場しベスト4と、表彰台を逃したことがない。

ジュニアの部の優勝記録(3回)を含めると、全日本選手権の優勝回数はなんと「20」。歴史ある全日本選手権の中でも、水谷隼の記録は際立っている。

水谷隼は、なぜここまで全日本選手権で強いのだろうか。ソウル五輪金メダリストで、全日本選手権優勝4回の偉関晴光氏(JOCエリートアカデミー男子監督)に聞いてみた。


V10達成の水谷隼 全日本選手権引退を表明した真意とは

「やはり一番は『精神力』ですね。1度優勝すれば満足してしまう人もいるし、普通はプレッシャーに負けて守りのプレーになる。10回も優勝できるのは、メンタルが強くないと難しいし、優勝したことがある私としても彼の記録は信じられないという気持ちです」と偉関氏も舌を巻く。

「技術面で言えば、毎年進化する点が素晴らしい。チャンピオンになるとプレーが変化しづらくなりますが、水谷選手はその時代に合わせて、常に新しい技術を取り入れている。バックドライブを身につけたり、最近はチキータを覚えて台上の攻撃力も上がっている。10年前のプレースタイルのままだったら勝つことはできませんから、常に進化できるのが彼の強さでしょう」(偉関)

また、卓球というスポーツは、様々なプレースタイル、卓球用語で言うところの「戦型」がある。全日本選手権で勝ち続けるには、あらゆる戦型に対応できる技術、戦術の幅が求められるのだが、対応力が抜群に高く、穴がないのも水谷が負けない理由の一つだ。

ちなみに、水谷は初優勝の前年となる平成17年度大会では、準々決勝でカットマンの松下浩二(グランプリ・当時)にストレート負けを喫している。ブロック力に優れ、攻撃型に対しては滅法強い水谷だが、守備型であるカットマンを攻略するだけの球威、技量が当時はなかった。まだ"穴があった"から、優勝に届かなかったのである。

優勝インタビューでは、全日本選手権引退を表明した水谷隼。多くのファンとしては、11度目の優勝、張本との対決を見たいのが本音だが、「僕は天邪鬼なんで、周りが見たいと思えば思うほど、出ない確率が上がると思うんですけどね。だから、あんまり盛り上げないでくださいよ」と優勝後の記者会見で笑みを浮かべながらコメントを残した。

全日本選手権では見られなくなるのは寂しいが、「来年いよいよ東京五輪があるので、まずは出場する権利を勝ち取ることが当面の目標」と水谷隼の目はきっちりと2020年東京五輪を捉えている。稀代のファンタジスタは、地元開催の大舞台でどんなプレーを見せてくれるのだろうか。


※各選手の所属は大会当時
※全日本選手権の記録は、日本卓球協会HP、卓球王国WEBを参照

男子シングルス決勝記録(左から年度/ゲーム数/対戦相手)
平成18年度 4-1 吉田海偉
平成19年度 4-3 吉田海偉
平成20年度 4-1 松平健太
平成21年度 4-0 吉田海偉
平成22年度 4-0 張一博
平成23年度 3-4 吉村真晴
平成24年度 3-4 丹羽孝希
平成25年度 4-1 町飛鳥
平成26年度 4-0 神巧也
平成27年度 4-1 張一博
平成28年度 4-1 吉村和弘
平成29年度 2-4 張本智和
平成30年度 4-2 大島祐哉

  • 1

【関連リンク】

この記事を共有する

関連ワード